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第九話 悪運のコレリック戦 その3

「『アストラルシュート』」

「『レイジングインパクト』」


 巨人の攻撃を一人で受けるメインタンクの横から、俺とグレンが横から殴りつけた。


 たしかに効きが悪い。俺らが回避重視のビルドで、火力にスキルをほとんど振ってないとはいえ刃が皮膚で弾かれるってどんだけ硬いんだよ。


 グレンはそのまま巨人の傍に張り付いてちょっかいをかけている。防御は回避アーツ頼みで一発喰らえば即お陀仏のスリルある戦いだ。


 俺はその間にメインタンクをしていた男に軽く挨拶をしに来ていた。


「やあ、アーサー君。邪魔するぜ」

「大五郎さんから聞いていましたが、本当に帰ってきたのですね」


 白銀の鎧姿で金髪イケメンな彼は、当時五十人以上のプレイヤーが所属する大型クランKoR(ナイツオブラウンド)のクランリーダーだった。過去形なのは復帰したばかりの俺が現状を知らないからである。


 リアルは俺と同年代ぐらいらしく、昔はよくイベントのボス戦で肉壁になってもらったものだ。


「おうさ。ちょいとうちで暴れるから、休んでろよ」

「相変わらず自分勝手ですね――貸しひとつで手を打ちましょう」


 真面目君が交渉を覚えたか。昔なら素直に礼だけ言って下がっていただろうに。


「そっちはマシな交渉ができるようになったみたいだな。――いいぜ、ただし貸しは装備のオーダーメイド限定だ」


 アーサーは「それで十分です」と、キュクロプスの手が届かない場所まで下がっていった。


 他にもスコア稼ぎをしていた連中も俺らが何かやらかすと察して距離を取り始める。若干顔が引きつらせているのが気に入らないが、邪魔にならないならまあ――いいか。


「アーサーと話はつけてきたぜ。ってことで俺は空中戦してくるわ」

「わかった。こっちは地上で遊んでるぞ」


 アウラは弓を持って遠距離からアーツ無しの状態でちょっかいをかけている。火力を積まなければ目を狙ってもセーフらしい。


 姉御のほうは人形で包囲しつつ、適度にボスのヘイトを分散させるつもりだ。


「ワンダーフェイスのオーバースキルにはこういう使い方もあんだよ――『クロックキーパー』」


 キュクロプスの正面で『ハイジャンプ』した俺に、人間一人を簡単に握りつぶせる巨人の手が迫ってくる。


 ゴゴゴゴゴッ


 そんな効果音が聞こえてくる攻撃を、空中で『ステップ』して回避する。


「属性耐性を調べてないわけないよな……、となると弱点部位から探した方が効率的か」


 有効な攻撃方法があれば俺にも知らせるはずだ。それがないってことは判明していないということ。


 おっと、姉御から『レビテーション』を含む支援魔法が飛んできた。これで滞空時間が大幅に伸ばせるな。


 さらに空気を足場にして発動できるエアリアル系の跳躍スキルと回避スキルを併用しながら、空中戦を繰り広げる。


 ワンダーフェイスのスキルやアーツのクールタイムを無視できるオーバースキルだからこその、普通の三次元戦闘から逸脱した機動性でボスを翻弄する。


 俺はその最中にただ漠然と攻撃していたわけではなく、地上から狙いにくい部位の防御力を投擲で確かめてみた。――が、どこも硬過ぎる。


 これでは千日手にしかならん。あっちの攻撃が当たらないとはいえ、こっちもまともなダメージが与えられない。


 キュクロプスは周囲を飛び回る俺がうざくなってきたらしく、こちらに攻撃が集中してきた。大ぶりな鈍い攻撃を軽く回避しつつ、その後も攻略法がないか探し続けること十分ちょい。


 それでも一切弱点が見当たらない。硬すぎるボスに俺の中では疑念が無視できないほど大きくなっている。


 ここまで弱点のないボスは不自然だ。唯一の弱点であるビーム中の硬直も、この防御力では弱点になっていないだろ。


「ハック君! 一度ビームを吐かせますから、距離を取ってください」

「あいよ」


 俺がまわりを見まわすとグレンはすでに避難している所だ。アウラのほうはどうかといえば、ドーラと一緒に安全地帯から手を振っていた。


 おまえら、声かけてから下がれよ。まさか俺を囮にして逃げたんじゃねえよな?


「総攻撃まで、カウント10――」


 アーサーの所のパーティーメンバーがカウントダウンを始めた。逃げそびれたらプレイヤーからの総攻撃に巻き込まれるな。


 ボスの受け持つのを誰かとスイッチするべきか迷っていると、アーサーが「あちらに誘導してください」と遠くで大弓を構えるプレイヤーを指さした。


 あれが誘発担当の遠距離攻撃プレイヤーか。よし俺が逃げながらこのデカい客をパーティー会場までご招待してやろう。


 背中を向けて逃げる俺と巨人が追いかけっこをしていると、途中で地響きが止まった。


「おっ? カウンターモーションに入ったか。――って、おいシラユキ、危ないから戦闘中に出てくんなよ」


 キュクロプスが再びビームを撃ちだす態勢に入ると、『神隠し』中のシラユキが姿を現した。


「がうっ」


 若干凛々しい顔をしている気がするシラユキの首根っこを掴んで、俺は足を止めず山のように撃ち込まれるアーツから離れた。


 こんなところで足が止まっても、巻き添えの心配なんてするはずがない。


「こんな場所で暴れんじゃねえ、大人しくしてろ」


 シラユキは言うことも聞かず、無理やり腕の中から逃げ出した。


「わおーん」


 そう鳴いたと思ったら、キュクロプスに向かって『魔法』を発動させ始める。


「おい、あいつには『魔法反射』が――」


 子狼のシラユキが作り出した魔法は氷の矢、なんて立派なもんじゃない。


 野球ボール程度の大きさの氷がひょろひょろと飛んでいき、『魔法反射』を持つキュクロプスに()()()()


「はっ?」


 数の暴力を受け続ける巨人と、自慢げに目を細めるシラユキを交互に見て、


「はっ?」


 俺は混乱した。

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