第七話 悪運のコレリック戦 その1
茶色い大地が広がる荒野。よく不毛な大地なんて言われてるが、実際にはこの土地特有の生態系というものがある。
立派な角の生えた鹿と馬が混ざったような草食動物が乾燥した草を美味しそうに咀嚼し、それを縞模様のデカい蛇が身を低く見守っている。
プレイヤーと行動を共にする動物は共通して幼体なことを考えれば、あれは食料用に配置されたリソースの一種だろう。
「丁度いい、どっちか食料にするか」
さすがに時間がかかりそうなら諦めるが、手ごろな獲物は狩っておくに限る。昨日の他プレイヤーと取引した分で数日活動する分には十分な食料はあるとはいえ、最終日までは持たないだろう。
俺が背負っていた弓を手に取ると、アウラが嫌そうな顔をしている。
「蛇はイヤじゃ」
哺乳類と爬虫類の肉、俺がどちらにするか一瞬迷ったのを察したのだ。虫料理なら話は違ってくるが、俺は蛇なら別に――と言ったところ。さすがに所持品の大半を管理するアウラを本気で怒らせてまで、蛇を食べたいとは思わないがな。
素直にアウラの腰回りほどある大蛇は獲物から除こう。
「なら草食ってる方を狩るか」
「そもそも蛇肉を選択に入れてくれるな。あれは食用ではない」
「昔食べたのは鳥のささ身とか白身魚っぽい味だったぞ」
仮想世界での話になるが俺の実体験を話すと、アウラは眉間のしわがさらに深くなる。
昔のアウラなら食材に文句を言わなかっただろう。これが成長だと喜ぶべきか、我儘と嘆くべきか。
そもそも蛇肉は一般的な食材じゃねえってツッコミが来そうだな。
「知らんわ。わらわにそんなもの出したらお宝は全部、他の者に与えるからな」
「――はいはい、お前が嫌いな生き物は把握してるから出さんよ」
昔、鳥のから揚げに混ぜて蛙のから揚げを出したことがあったな。あとで知った姉御なんかは意外と美味しいって笑ってたが、トモエの形相はやばかったっけ。
「何やら悪寒が走ったのだが?」
「……あれは時効だろ」
アウラは昔に何か変なモノを食わされていたのではないか詰め寄る。嘘か冗談だと言って欲しくて涙目で、
「――っ!? マスター、私に何をしたの? いえっ、――いつ! 何を! 食べさせたの!?」
大声を出したせいで、のんびり草を食べてた角付きに気づかれた。それを狙ってた大蛇の表情も迷惑そうにしている気がする。
今から追いかけても狩るのは難しいか。
「おいっ、アウラ。大声出すなよ――あと素が出てるぞ」
「うっ、素と言うでない……」
地面に座り込んで「あーうー」と震えてるアウラは、そっとしておこう。
さて軽くこの辺りを探索してきたが、どうにも野生動物しかでてこないな。何度かシラユキがトレジャーを見つけて百前後のポイントを何度か入手したが……。
このポイントがどの程度の価値なのかわからない。だがシラユキと歩いていれば手に入る難易度だ、どうせ誤差程度のポイントだろう。
ネームドモンスターも見当たらない。今まで島の外縁しか調査してなかったし、そろそろ中央に向かって進んでもいいかもしれない。
俺がそんなことを考えていると、山のある方角から野太い雄叫びと地面を震わせる爆裂音が鳴り響いた。
「なんじゃなんじゃ!」
「ネームドモンスターが見つかったんだろ。俺たちも向かうぞ」
「うぐ、わらわに何を食べさせたのか知らぬが――絶対に復讐するから覚えておれよ!」
「悪かったって、ガキの頃の悪戯ぐらい笑って流してくれよ。それより移動用のスキルに装備を換えるぞ」
いまだ怒りの収まらないアウラに装備を変更するよう急かしつつ、俺もインベントリから移動に特化の装備へと着替える。そして激しい戦闘音が鳴り続ける方角へ向けて俺達は走り出した。
俺らが見つけたのは数十人がネームドモンスターと戦う戦場である。
複数のパーティと交戦状態だったのは、目算で8mくらいの巨人――赤い肌をしたサイクロプスだ。
「あれはグレンとドーラの人形達じゃな」
五体のドールを操作して戦う人形遣い、あれがドーラだとアウラはあたりを付ける。
ドーラの姉御は人形師、あるいはドールマスターと呼ばれるクラスである。
人形を操る本体の戦闘力は皆無であるものの、MP系スキルに特化させた無尽蔵なリソースで人形のギミックを連射するのが彼女のビルド。
――のはずだが遠距離から弓や槍でちょっかいをかけてるだけだ。
俺がとりあえず鑑定スキルでボスの能力を確認すると、その理由が判明した。
「なるほど、レッドキュクロプス・堕天種『悪運のコレリック』。――魔法反射持ちだ」
「ドーラの人形が仕込んだ魔道具を使わないのはそういうことか」
彼女が操る人形のギミックの多くが魔法攻撃に分類される。このボスとは相性が悪いな。
「あと気を付けるべきは火属性魔法と魔眼スキルぐらいだな。――ん? 直感持ちってのは珍しいな」
俺のスキルレベルが低いせいで魔眼の詳細まではわからない。
それとグレンが攻めあぐねてる所を見ると物理面においても、スペックは高いと考えた方がいいだろう。そもそも長い手足と巨人サイズの鈍器を振り回すだけで脅威でしかない。
「とりあえず俺も弓でちょっかいかけてみるか」
「反撃はわらわが抑えてやろう」
「あいよ、火力極振りで狙撃と行きますか」
直感持ちに遠距離攻撃は防がれやすい。だがしかし、スキル構成を火力に特化させて反応できない速度で射ればいい。レベルを上げて物理で殴るのが古来より伝わるボス攻略法だ。
『穿心』『弓神の加護』『龍ノ一矢』
事前に使うバフは一発限りの火力強化の豪華三点盛り。これでダメージが与えられないならムリゲーだ。どこかに攻略のヒントが落ちてないか探した方がいい。
「遊ぼうぜ悪運の、『天穿ち――」
弓を構えスキルのチャージが少しずつ溜まっていく。これから手を放す――というタイミングでこちらに気づいたグレンが声を張り上げた。
「よせ、Hack!」
その制止は遅かった。
どす黒い赤色の巨人が金色に輝く瞳を不気味に光らせて、こちらを見ていた。




