第六話 ネームドの痕跡
俺たちのクランのメンバーにはこういうイベントの時、探索する場所に傾向がある。
視界の悪い地形が苦手な姉御とトモエは見晴らしのいい場所に、逆に複雑な地形が得意なのがドレイクだ。
グレンは戦闘以外のギミックを強いられる場所は避ける傾向があり、ジョンは敵の数が少ないほうに流れる。
では俺が探索する場所がどこかと尋ねられれば、
『面白そうな場所』、と答えるだろう。
「これがネームドモンスターの痕跡か。なかなかの大きさなようじゃな」
「前に戦ったドラゴンより大きいか、巨人型のモンスターだ。一つ目……サイクロプスみたいなモンスターかも?」
地面に残された体毛らしきモノから過去の映像を覗いた俺は、異物が入り込んだ――そんな気持ち悪さがする頭を押さえながら立ち上がる。
実に戦い甲斐のあるモンスターだ。おそらくトップクランの精鋭パーティーであろうプレイヤーもちらほら見え、派手な戦闘になるだろう。
「相変わらず便利な異能よの」
「だろ?」
オオカミの鼻を頼りにやってきたのは、シラユキを見つけた草原からさらに奥へ進んだ場所。とことこと子犬の足取りで歩くシラユキを追いかけて、ここへと案内されたのだが……。
俺はてっきりトレジャーを探してくれるのを想定していた。狩猟者だからこれを見つけたのか、あるいはただの偶然か。
その辺りの法則は今は置いておこう。それよりも獲物の痕跡を見つけたのなら早々に動いた方がいい。
周囲に生き物の気配がしないのを不気味に感じながら、俺は怪物が残した痕跡の向かう先を見通す。
そこは草木も生えない荒れ地しかない。
「急がないと狩られるかもな……」
自分が入れる大きさの足跡を調べていたアウラが振り返る。なぜか足跡は草原と荒野の境界線手前で途切れ、これ以上居場所を探ることはできない。
「大型ボス級の怪物じゃぞ、早々に狩られるような生物か?」
アウラ……、長年あいつらと離れてたから勘が鈍ったか?
こんなにもわかりやすいヒントが残されていたのだ。グレンの異能なら、公式の助っ人であるシラユキみたいな存在を無視してネームドモンスターを見つけてもおかしくない。
それに他のクランも少数精鋭のパーティを送り込んでる可能性も高い。
「グレンが向かった先は三択――南以外だ。あいつがこっちに来てるなら、まず間違いなくすぐ戦闘に入るぞ」
「そうじゃったな……、グレンなら適当に歩くだけでネームドモンスターを見つけてもおかしくなかったか」
それに姉御もこっちに来てるはずだ。昨日軽く探りを入れてみたが、いつもどおり姉御は草原、ドレイクは森に行くと言っていた。
トモエは競争から一歩引いて、ルルエッタでステラの連中と遊ぶらしい。
「さてさて、ここからは本格的な戦闘があるはずだ。呼んだとき以外は隠れてろよ、シラユキ」
人語を介するオオカミは元気に「わんっ」と返事をする。
するとシラユキの気配と一緒に姿が消え――、すぐさま戻ってきた。これがあるから心配するなと言いたいのだろう。
これが彼らのスキル『神隠し』らしい。これは非力なシラユキを戦闘から守る救済スキルである。ただし不意打ちであっても自動で使われるパッシブなスキルではない。隠れていない無防備に身をさらしている間は攻撃は受けてしまう。
「わかったから安全な場所に隠れてろ」
「わふん」
シラユキはご機嫌な声でその場をぐるぐる回り、最後にひと鳴きして姿を消した。
完全に散歩気分だな。
「ご主人はどのビルドで戦うつもりじゃ?」
「ネームドを見つけるまでは俺が索敵を担当するから、アウラは戦闘を頼む」
「了解じゃ」
いつもどおりな役割を確認して、俺たちは生物の気配がする荒野へ足を踏み入れる。




