第三話 出会い
基本的に浅い場所の草原では動物が豊富でウサギ、狼、ニワトリの三種類の動物だけらしい。
息を殺して弓の狙いを定める先にいるのは一匹のはぐれ狼。魔物が居ないこの森で、ピラミッドの頂点に存在する唯一の肉食動物だと思われる。
狼は群れる動物のはずだが、狩りやすいように運営が配慮してくれたのだろうか。
「――ふっ」
俺の放った矢は狼の脳天に当たり、そのままはぐれ狼はバタンと地面に倒れ伏した。
よっし、狙った場所に当たる程度にはスキルが働いているらしい。
「とりあえず、今回はこれぐらい集めれば十分だろ」
お亡くなりになった狼の死骸に解体ナイフをプスリと刺すと、肉やら牙やらがドロップする。
これで今日のスコアはウサギ二羽、狼一頭、あとはニワトリの巣から拝借した卵がいくつかの成果となった。
肉やら牙は何かと使うことになるからいいとして、毛皮がリュックの容量を圧迫する。夏だし捨ててもいいかも知れんが……、空きが無くなった時に考えればいいか。
どうせアウラと合流すれば、空き容量なんて気にしなくていいのだ。
食料確保に来た他のプレイヤーの気配も増えてきた。これ以上混雑するなら狩りの効率も悪い、拠点探しに移った方がいいだろう。
「ぐるるるる」
そう思って砂浜の方へ戻ろうと足をそちらに向けると、どこかから動物の鳴き声がする。
声の方に向かうと、小さな狼の子供が猛禽類の鳥に襲われていた。頭部は一般的なタカだがワシ顔で、アンズーと関係ない野鳥だろう。
愛らしい子犬を見殺しにするのは心が痛い、タカワシ君には悪いがお帰り願おう。
「はあ……捨て犬拾うガキじゃねえんだがなっ」
子犬を襲う鳥を小石を投げつけて追い払う。するとワン公は助けてもらったことを理解して、元気のない鳴き声でお礼を言ってきた。
助けたのついでに鑑定した結果、どうやらこいつは犬じゃなくて狼だった。さっき俺が狩った狼とは無関係だよな?
運営もそんなメンタルにダイレクトアタックするような仕掛けはしないと信じたい所だ。
こうしてお腹がいっぱいでご機嫌な犬っころを連れ帰ることになった。
アウラが近くにプレイヤーが集まる場所を見つけたらしく、俺らもそこを合流地点にした。
方角ごとに分散させられているとはいえ、万単位の人間が参加してるのだ。拠点として選ばれた平地はログイン用のテントで溢れかえっていた。
クラフトマンに伝手が無いプレイヤーはここで、取ってきた素材と交換で消耗品の補給や装備の修理をすることになるようだ。
遭難時に色々悪さをした俺だが、何食わぬ顔でテントを設置する。俺も暗黙の了解で戦闘禁止エリアで、足の引っ張り合いをするつもりはない。
「――でお主は肉と骨をこやつに与えて、わらわ達の分が足りなくなったのか?」
「反省はしてる――が後悔はしてない」
拾ってきた子狼は、同じくここを拠点にするヒメコ達に見つかって撫でまわされていた。そんな状態でも、一心不乱に与えられたウサギの骨をガジガジ齧ってるこいつはマイペースなのか、大物なのか。
本当に野生……で生まれたAIじゃなかったな。それにしても人間馴れし過ぎだろ。
「別にわらわも何か言うつもりは無いわ、食料はなんとかなりそうだからの。――とりあえずわらわにも抱かせろ」
合流前に一言言えと怒っているが、それよりもリアルな動物AIと戯れたかったらしい。何度も狼のほうをチラ見して、そわそわしてたからな。
アウラも子狼を連れ帰ってきたことに文句は無いらしく、ヒメコと一緒になって遊び始めた。
代わりに俺の話相手となったのは中年のおっさんプレイヤー、クラン『DG』のクランマスターである大五郎だ。アバターとクランの名前通り、酒飲みで集まった連中だ。
「悪いな、ハック。俺の所は誰も料理ができないんだ」
30人は超える酒飲みクランのバカ共がどこも悪いと思ってない風に、親し気に手を振って俺の白い目に応える。
ここに居る連中はHack時代からのフレンドなのだが、ジョンや酒を嗜むうちのバカ共と一緒になってツマミを要求しては宴会を勝手に始める奴らだった。
さすがに中学生だった俺に「酒を造れ」と催促する者はいなかったが。
そんな奴が居たらドーラの雷が落ちていたな。
「お前らは料理ができないんじゃなくて、ツマミ以外作る気がないだけだろ」
「酒とツマミがあれば御馳走だからな」
俺らは絶賛遭難中だ。装備以外の持ち物は船が出港した時点で没収されて、こいつらも酒の一升も持ってないはずなのだ。それにも関わらずこいつらには悲壮感がない、まさかと思うが……。
「おまえら、ここに酒は持ち込んでるだろ」
「ばれたか。船に乗ってる間に片っ端からクスねて来たんだ、ハックも飲むか?」
どうせ遭難するなら、船の物資を有効活用してもいいだろう。大五郎は「がはは」と豪快に笑いながらそう言い放った。
船をぶっ壊しに行った俺が言えたことじゃないが、こいつらも好きかってやってんの。
「……残念ながら、まだ未成年なんだ。来年になったら飲もうぜ」
「まだ19だったか。ならしゃあねえな、飲めるようになったら俺が最高の酒を奢ってやるよ」
肩をガンガン叩いてくる腕を払って、俺はグーで大五郎の脇腹を殴りつける。
「わかったからSTR装備のまま叩くんじゃねえよ、PKする気かっ」
大木のように堅い筋肉を殴って痛がる俺を大五郎は笑いながら、自分のクラメンの方へ戻っていった。




