第二話 野生は置いてきた
俺の前には一匹の子狼がいる。
「くぅーん」
白い毛並みは土で汚れ、お腹を空かせてか俺の足に頭を擦りつけてはか細く鳴いた。
「――愛玩用の高性能AIなんて実装されたのか?」
普通、仮想世界の動物はどこかロボット的だ。生き物が持つ自然な表情を簡易AIで再現するのは困難らしく、どこか違和感のあるロボットアニマルにしかならない。
それを解決するには高性能型のAI――つまりはお高いAIを使う必要があるらしく。資金と開発的な問題で、俺が昔に遊んでいた頃にはなかったシステムのはずだ。
「ぐるるるる」
「飯を寄越せってか?」
「わん」
プレイヤーが持つインベントリとは別に、外付けで容量を増やすことができるバック系アイテムはアウラが不在でも俺一人で使える。
アウラとは別行動をしていた俺はそのカバンに入ってるアイテムの一覧から、子狼でも食べれそうなモノはないか探す。
「肉、食うか?」
「がうっ」
肉と聞いて子狼は必死に頷く。
これは会話が成立してる、な。本物の動物じゃないのだから別におかしな話ではないのだが……違和感が半端ない。
「こっちは共食いになるから、ウサギでいいか」
「わん、わんわん! ――くぅーん」
子狼は出てきた肉に飛びつくが噛み切れず、俺の方を見て悲しそうな声を上げる。
「お前、野生をどこに忘れてきた」
ナイフで細かく切った肉を、子オオカミが今度はうまく食べ始めた。
サバイバルからかけ離れた、ほのぼとしたやり取りに俺の頬は自然と緩む。
さて……、ヒメコと別行動をすることになった俺がなぜ、アウラも連れず子狼の世話をしているか。それは二時間ほど時は遡る。
島の中央付近と思われる場所にはアンズーの巣と思われる高い山岳がそびえ立ち、俺らの居る外周部の近くには草原や森が点在する。
ココナッツで多少の飢えや渇きを満たし、疲労デバフだけが残ったまま探索を始めた俺たち。大自然ばかりの外縁部で食料となる動物を見つけたので、役割分担を話し合うことにした。
「入口付近は危険な敵はいなさそうだな」
砂浜からすぐ見える場所に危険な生き物は見当たらない。それもプレイヤー達の置かれた状況を考えれば当たり前って言えば当たり前だが……。
「スキルも満足に使えないのだ、戦闘が必須なバランスにはしておらんだろ」
「それもそうか」
遭難者や漂流者状態で戦闘は難しそうだ。疲労(小)のデバフで大半のスキルは制限がかかっており、野生動物程度なら狩れても魔物となるとこちらが狩られる側に回りかねないからだ。
「アウラは調味料の木の実と木材集めを頼んだ」
こういうイベントでは、醤油やら塩やらの調味料が詰まった木の実が自生しているのが定番だ。外からアイテムの補充ができない以上、イベントマップ内のアイテムだけでゲームを最低限成立させなければならないからだ。
アウラには重量武器であるハンマーで調味料の成る木を粉砕しながら、木材やらの素材採取を頼んだ。
「乙女に力仕事を任せるつもりか……、まあ適任であるから素直に従おう。ご主人は何をするつもりだ?」
「食料と使えそうなもん探すわ。どうやら初日は素材集めをしろってのが運営のお言葉みたいんだしな」
あの後公式からイベントの追加情報が投下された。
公開された情報はイベントの目的であるランキングポイントの稼ぎ方と、ポイントの種類だ。
ランキングの順位を競う得点にはトレジャーポイントとハンティングポイントの二種類ある。
どちらも名前から分かるように――トレジャーポイントが隠されたお宝から得られるモノで、ハンティングポイントは魔物を討伐した時に得られるらしい。
ただしハンティングの方はその辺の雑魚からほとんど得点を得られず、ネームドモンスターと呼ばれる魔物で稼ぐのがメインになりそうだ。
初日はプレイヤー全員についた三つのデバフを解除するのが優先で、ネームドやトレジャー探しをする暇はないだろう。
「そんじゃ二時間後に、何かあったらPTチャットで連絡してくれ」
「問題を起こすでないぞ?」
「……起こさねえよ」
というわけで俺は食料を集める為、弓とリュックを背負ってアウラと別行動をとることにした。




