第一話 上陸
今の装備では不相応な大技をぶっぱした俺が寝転んで休憩すること十分。ようやく戦えるまでに回復して、俺たち三人は凍り付いた海を歩いて渡った。
たどり着いた砂浜には『ピットフォール』の穴が大量に開いてる。おそらくはドレイクの仕業だろう。
「上陸っ!」
万歳しながら無人島の土に足を着けたヒメコは、疲れた表情で緑の上にダイブする。
俺もヒメコに倣って誰にも踏まれていない、柔らかそうな草の上に座り込む。さすがにここまで『ニブルヘイム』の冷気は届いていないか太陽が勝ったらしく、ようやく南国感を取り戻しつつある。
「あー、疲れた」
「これでイベントの舞台に入ったわけじゃな」
時々、遠くで魔法のエフェクトが起こる海を眺めているとアウラも俺の隣を陣取る。
「濃い導入だったなー」
草の上に飛び込んだヒメコが遠い目をする。
うちの連中との戦いを途中でリタイヤしたとはいえ、そもそもが沖から陸に上がるまでの道のりが過酷過ぎた。
本来なら救命ボートでのんびり進めばいい道を、醜く争っていたからな。
「なぜお主らは勝負と関係ない場所で争っておるのじゃろうな」
「足を引っ張り合うのは人間の性故、是非もないよねっ」
そもそもが公式の思惑としては、積極的にプレイヤー同士で争って欲しいと考えているはずだ。ただまあ、俺たち――いやトモエがやり過ぎたせいでこうなったんじゃねえか、という事実は置いとくとして。
客船一隻の救命ボードが乗客に対して少なく、避難誘導もなしに偏りなく乗れるわけがない。結果、カルネアデスの板状態でプレイヤーたちが争うこととなった。
後半に脱出を決めたグループなんかは、地獄絵図な様相で争ってたのを想像するまでもない。
俺が暇つぶしとライバルを減らすために、一部のゴムボートに針で穴を開けておいたしな。
「ふーん、生存ボーナスはやっぱりしょっぱいね」
地面に転がった姿勢のまま、ヒメコがリスナーからのコメントを読んでいる。情報が集まりやすいというのは配信の大きなメリットだが、行動が駄々洩れなのも考え物だよな。
「リスナー情報か?」
「うん。生存した状態で島に辿り着いたら、『遭難者』。デッドあるいは海で溺れたら、『漂流者』だって」
ヒメコの話を聞いて、俺もステータス画面を確認するとたしかに『遭難者』が付与されている。
その『遭難者』の文字をタップして、詳細画面を呼び出してみると、
「客船から自力で脱出し、無人島へたどり着いた者」
ふむ――さらにステータス異常に空腹、脱水、疲労の小がついてる。漂流者ならこれが重症化した状態で放り出されるらしい。
なるほど、砂浜を超えた辺りで違和感を感じていたがこれが原因か。
「まずはこの三つを解消しろってことか」
「食料、飲料水、拠点はサバイバルの基本だし、妥当な誘導ね」
空腹はその辺の動物でも狩って肉を焼けばいい。水分は……南国に定番なココナッツミルクは――あるな。
砂浜にココナッツの生えたヤシの木が自生してる
登るのも面倒だ、弓で射貫くか。
「ご主人よ、弓を射るなら何か言ってからにしてくれんかの?」
「めんどくせーです」
一瞬、敵かと警戒したアウラが俺に文句を言うが、軽く流してココナッツを拾いに行く。
的のココナッツは上部に矢が刺さった衝撃で地面に落ちてきた。わざわざキャッチしなくても下は砂地だ、割れたりはしないだろ。
「なあ、ココナッツの食べ方ってわかるか?」
「わらわが知ってるはずがなかろう」
「ちょっと待って、リスナーに聞いてみる」
ヒメコが情報収集してる間に、俺も鑑定で調べてみるか。
ココナッツ レア:E 品質:普通
野生種のココヤシの実、食用。人の手が加えられてないため、甘みは控え目。開封した後は傷みやすく常温で放置するとすぐ傷んでしまう。
イベントにと作られたトラップアイテムとかではないらしい。おそらく詰み防止のアイテムだろう。
とりあえず一人一個として、三個のココナッツもあればいいだろ。
「冷やして、ナイフで穴開けてそのまま飲めって。あと――」
俺が回収して二人の元に戻ると、ヒメコが食べ方を伝授する。……が果肉に醤油をかけてもいいと言われても、無人島でそんなことができるかって話だ。
「道具も食材もないし、直接飲もうぜ」
魔法で軽く冷やして、サバイバルナイフで上部が尖るようにサクサク削る。最後にスパッと尖った部分を切り落とし、飲み口を作って完成だ。こっちのほうが飲みやすいだろ
ココナッツの中は透明の液体で満たされ、内側の白い部分が果肉のようだ。
でかいアボカドに種の代わりに液体が詰まってる感じか?
「さすがクラフトマン、手際が良い」
「はいはい、先に飲んでいいぞ」
「わーい」
ヒメコは誰も味見をしてないココナッツを喜んで受け取る。俺が彼女を毒見に使うつもりなのを理解して、ヒメコの後ろでアウラが渋い顔をしてるが止めるつもりはないらしい。
「少し薄めだけど、甘くておいしいかも?」
「人柱あざーっす」
「……カオル?」
笑顔でネタバラシすると、ヒメコも笑顔で返す。こういうところで体を張らないでいつ張るんだよ――バーチャルアイドル。
というわけで、十分飲める味だと分かったので一口。
「――ふむ、飲み水が無い時はこれで十分だな。アウラも飲んでみろよ」
「ほほう、ココナッツジュースとはこういう味なのだな」
俺が飲んだココナッツをそのままアウラに渡す。彼女もココナッツジュースの味を気に入ったらしい。
そんな仲良さげに俺とアウラがココナッツの感想を話していると、毒見役にされたヒメコがインベントリに自分の飲みかけをインベントリに戻して自分の扱いに抗議する。。
「諦めたほうがいいぞ、お主の立ち位置はトモエと同じだ」
「私、トモエちゃんよりずっと年上なのに――」
何なら俺より年上なんだが、それを放送の乗せるのはまずいだろ。そもそもこいつは鬼って設定だったよな。
「年上どうこうより、そういう(いじられ)キャラだからあきらめろ。ジョン扱いじゃないだけラッキーだろ」
「ジョン君は爆発オチ担当でしょ! うわーん。後輩ちゃん達に傷心を癒してもらうもん」
ヒメコはそう言って「ばいばーい」と別行動していく。いつまでも俺たちだけに構ってるわけにもいかないのだろう。
「俺たちも近くを調べて資材集めするか」
「了解じゃ」
予定外のゲストと一緒に会場に入場することになったが、ここからはアウラと二人だ。
俺たちは特に当てもなく、適当に島の探索を始めた。




