エピローグ
南国といえば、ココナッツとヤシの木を思い浮かべる人間も多いのではないだろうか。
そのココヤシの木が生える南国風な白い砂浜。沖では四隻の船が航行不能な上、氷に飲まれてしまっていた。唯一無事なレジャー組の船は船団から離れて、非PvPエリアへ避難していくところだ。
そんな難破船の遭難者達の中でもっとも早く島へたどり着いたのは、カオルの予想通りのグレンとドレイクの二人であった。
誰かが決めたわけでもない『オーバーセンス』の無人島トライアスロンに決着をつけるため、二人は武器を交える。
「こうして戦うのは久しぶりだな――ドレイク」
グレンのびしょ濡れなブーツが砂を踏む度、鳴き砂がキュッっと鳴き声を上げる。
「お前はHackと違う意味でやりあいたくないもんだ。特にこの間合いでなっ」
矢を放つのはドレイクの腕に装着された、魔導弓『アズライール』。
マナによって大弓にもクロスボウにも自在に変形する弓に、これまたマナで作り出された矢を番える。
彼のクラスはマジックアーチャー、多様な魔法矢を使いこなす半魔法ビルドである。
「トモエじゃねえんだ。あんたは近接戦、遠距離戦、どっちもいける口だろ」
「私はグレンのように高速で飛ぶ矢を掴む変態じゃなくてね」
接近戦仕様に組み替えられ、クロスボウとなったアズライールの矢をグレンは籠手で払い落す。
さらにグレンはそのまま片手で大剣を振り回す。
「『十文字切り』」
「『ミラージュステップ』」
大剣を横に薙ぎ払うと同時に、縦にも斬撃が振り下ろされる。威力よりも避けにくいアーツをグレンは選択したわけだが、一方のドレイクは霞のように消えてステップの音だけをその場に残す。
キュッ、
グレンの耳が右側から砂が鳴く音を聞き取った。
「俺にその手は通用しないぜっ」
そう言って、背後に向かって武器を走らせる。
「――『野生の勘』は反則だ」
そこには姿を消したはずのドレイクが居た。彼の手にはアズライールは無く、代わりに細剣が握られている。
背後からグレンに奇襲するつもりだったドレイクには想定の範囲内でしかなく、冷静に大剣を避けてクイックキャストで魔法を放つ。
『クイックキャスト』――このスキルは近接戦闘型の魔法ビルドには必須なスキルで、消費マナの増大と威力の減少とを引き換えにスキルレベルに応じた魔法を即時発動させるというモノだ。
「『ピットフォール』」
直訳通りに小さな落とし穴を作って相手の体勢を崩す魔法なのだが……。
ここは砂浜。一度嵌まると足は膝下まで砂の中に埋まり、グレンは身動きが取れなくなった。
「ちっ、めんどくせえ」
「私がお前に正面から戦って、勝てるなんて最初から思ってないんだよ。――『ロングステップ』」
グレンのオーバーセンスである獣染みた直感にも弱点はある。それはいつでも都合よく発動するインチキ能力ではなく、あくまで勘の範疇から逸脱する力ではないということだ。
ドレイクはグレンがアリ地獄状態から抜け出す前に、囮として投げたアズライールを忘れずに回収して距離を取る。右腕の籠手に折り畳んだアズライールを再びセットすると、そのまま『ピットフォール』の連射で美しかった砂浜を無残な姿にして砂浜と土の境界線で立ち止まった。
「さて、ここからどうする。――強引に突破を狙うか、――時間をかけて遠回りするか。退くなら追撃はしないぞ、グレン」
「この場に居るのは俺だけじゃないぜ、――センパイ」
砂地から足を引き抜いたグレンが不敵な笑みを浮かべる。
それに反応してドレイクは即座に索敵スキルを発動させた。
「おーい、グレン――奇襲の邪魔するなよお」
「――ジョンっ」
ドレイクの真横から現れたのはクナイを持ったジョン・ドゥ。彼がドレイクを捉えるまであと数歩、咄嗟にドレイクが振るった細剣がクナイを弾いた。もしグレンが注意を飛ばしてなければ、ジョンが勝っていたかもしれないほどの僅差で防いだ。
「黙って漁夫れるほどあまかねえよ。……じゃあな」
グレンは戦闘を切り上げて遠回りなコースで島の奥に進むことにした。そうなるとこの場に残るのはドレイクとジョンの二人だけ。トモエとドーラは最初から男どもの遊びなんぞ無視して別ルートから上陸するつもりで、三人もそれを見て見ぬふりをしていた。
「あれ? なんでオレが囮にされてんの!?」
「漁夫行為はヘイトが高くなるのは常識でしょうに――『ライジングサン』」
ジョンの腹に矢が刺さる。なかなか痛々しい光景であるが、痛覚設定で大きく軽減されてるため強めに押さえつけられる程度の不快感にしか感じないのである。
「いやいやー、ちょっとしたお茶目っすよ、せんぱーい」
これから身に起こるオチを察したジョンはドレイクに命乞いを始めるが、――時遅し。
「気持ち悪いっ!」
「ぎゃあああ」
ジョンは空高く魔法矢に連れていかれ、爆発四散した。




