第三話 初戦闘?
さてと、久しぶりなアウターワールドでの対人戦だ。ここで負けたらアリスに笑われるぞ。
俺は心の中で軽口を叩きながら、目の前のチャラ男に集中する。
構成は重装の大剣持ちと軽装の長剣持ち、最後の一人は杖持ち――魔法ビルドか? まあ、ビルド構築に頭使うような奴らには見えねえから、そのまんまだろ。
相手の装備構成を見て戦い方を考察していると、PvPのシステムアナウンスがカウントダウンを始める。
周囲には野次馬のプレイヤーが集まる中、ショーは始まった。
「さーって、初心者がどこまでやれるんだ?」
長剣を持った茶髪チャラ男Bが不用意に突出して近づいてくる。
軽装は動きの遅い大剣持ちと足並みを揃えて、背後か横に回るべきだろ。それがわからないほど頭が悪いのか、舐め腐ってるのか。――まあさすがに後者だろ、頭装備の類も付けてないしな。
舐めプしてくれるならありがたく、その首を貰いましょうか
俺は真上に短剣を投げ、走り出す
「ああ? 何がしたいんだ」
まあ――、まあ――、投げた短剣に夢中だなんてお行儀の良いチャラ男で。
予想外な行動に手放した武器を無意識に目で追うチャラ男B、その懐に入って俺は間抜け面に向かって言い放つ。
「そんなもん単純なフェイクに決まってんだろ」
「素手で何ができっ――」
最後まで言い終わる前に、チャラ男Bの持つ長剣の柄に手を置いてそのまま喉仏に押し込んだ。
リアル描写に設定する俺の画面には血のエフェクトが吹き出し、そのまま光の粒子になって消える。
チャラ男Bはリアクションを取る猶予もなく、天国視点の観戦席に飛ばされた。
「覚えときな、トーシロー。戦いってのは武器を振り回すだけが能じゃねえんだよ」
昔取った杵柄はまだ色褪せてない。
淀みなく動く体に安心しつつ俺は残りの二人を見た。
「そんな簡単に致命攻撃だと――サブ垢野郎か、他ゲー出身かよ」
「俺は一度も初心者だなんて口にしてないっつーの、見た目通りの空っぽな頭だな」
空から落ちてくる短剣をキャッチして俺は剣先をチャラ男Aに向ける。
「くっそ、軽装のニエを倒せても、フルアーマー相手に短剣で勝てると思うな!」
ガンッ――と鎧を叩いて、チャラ男Aは金属のヘルムを被りなおす。俺の致命攻撃さえ当たらなければ、どうとでもなると考えてるのだ。
「確かに打撃系か魔法じゃねえと重装の相手はキツイ――正攻法で攻略するなら、な」
このゲームにはHPやMPなんてわかりやすい表示はない。
鎧をハンマーで叩けば衝撃で中の人間はミンチになる。水場に落せば窒息死にだってできる。フレンドリーファイアーが味方を無視していく、なんてお優しい世界ではない。アウターワールドは現実に近いシミュレーションを実現した仮想世界なのだ。
素晴らしきかなアウターワールド。命を削るような血を沸かす戦いも、この世界でなら可能となる。
おっと、この世界の素晴らしさをいくら語っても、今はそれどころじゃない。
俺の技量じゃ、相手の武器を利用して攻撃するのは長剣が限界。さすがに大剣みたいな質量武器を相手に当てるのは高難度どころか無理ゲーだ。
そして短剣でダメージを与えるには鎧の隙間を狙う必要があり、こちらは無理ゲーとは言わないが面倒臭い。
『Q.カッチカチ野郎の攻略法は? A.チームプレイに頼りましょう』
「こっちにくんあよ!」
重装備に安心しているチャラ男Aを無視して、俺はマジックユーザー系のビルドだろうローブ姿のチャラ男Cに向かう。
「ほれほれ、魔法を撃たなくていいのか? 切り裂き魔は目の前にいるぞ?」
「くそくそくそくそくそ」
いやー、死に慣れてない奴は思った通りに動いてくれるから、お兄さん楽しいよ。――じゃ、グッバイ。楽しいゲームをありがとう。
「ちょっ、まっ――」
俺が錯乱して射線も確認しないで魔法をブッパするチャラ男Cの首に短剣を当てる。それと同時に、背後には(故意の)流れ弾でチャラ男Aもデータの塵になって消えていた。
「テテレテッテテー、カオルはチャラ男ABCを倒した――、なーんてな」
you win
勝利宣言が表示されると同時に俺の服の後ろ襟が掴まれた。いつの間にか一部の装備を換えたルルエッタが、ステータスの力で強引に俺を引き摺る。
「あいつらが帰ってくる前に場所を移すわよ」
尖った爪が首に刺さる違和感に背筋を震わせながら、今度は俺が叫ぶ。
「ノーセンキューだ!! 俺はもう解放してくれてもいいだろっ」
――こうして、俺とリリレットは『再び』出会った。