第九話 脱出
三か所から爆発音が響いた。
音の発生源は並走する魔導客船の機関部。俺が押したスイッチは船が動く前、NPCの目を盗んで設置した爆弾の起爆スイッチだ。
ただ火力は抑えてあるので沈没まではしないはず。しばらく慣性で進んだ後、航行不能になれば成功である。
「カオルヤバイ。――って一隻だけ無事?」
船尾付近で煙を吹く三隻の船とは反対な、無傷な船にヒメコが気づいた。
「あれはトレジャーハントに参加しない、レジャー組の乗る船だ」
「なるほど。無関係なプレイヤーなわけね」
さすがに、のんびり無人島キャンプを楽しもうとしてるプレイヤーを攻撃するほど、俺も狂人じゃない。システム的な防衛機構が無いとも断言できないのもあって、ハイリスクなだけでリターンが皆無だ。
それを二人に言えば打算的なだけだって言われるだろう。
「状況は――っと、レジャー組の船だけ魔物の数が少なく、他は偏りなし」
魔物の咆哮と船の爆発音で、どこも大きな騒ぎになり始めている。熟練のゲーマーは早々に行動を始め、俺が見たところ船の防衛が多く、脱出組は少数ってところか。
「船単位で見ればそうだが、魔物が集中してるのは機関部ではないか?」
アウラの言われて船尾の方を確認すると、魔物は爆発音が鳴った場所に密集してるように見える。このままだとそう時間もかからず機関部は陥落するであろう。
「――あっ」
「どうしたの?」
「いや、そういえば魔物は魔力に引き寄せられやすいって設定忘れてたわ」
「カオルが手を出さずとも、動力を奪われて船が航行不能になるイベントだったようだな」
「――さあ、そろそろ俺らも戦おうぜ。『クイックチェンジ』、灰燼」
何か言いたげにしてるアウラを無視し、俺は弓を取り出す。
龍機弓『灰燼』、灰龍アッシュドラゴンから作った機械仕掛けの弓である。
「軽く一当てっと。強さを測るのが目的だから、バフは無しで頼む」
「りょりょ」
他の船がアンズーに襲撃されてるのと同じく、俺らの乗る船にもアンズーは来ている。
獅子の頭を持ち体は猛禽類のそれに近いが、大きさは獅子サイズほどある。グリフィンみたいな四足歩行の獣ではなく、前腕は翼になっており羽ばたいて滞空している。
俺は弓の持ち手である灰龍の骨を握り、金属製の矢を番える。ミスリルで出来たリムと滑車をギィッと軋ませながら弓を引き絞り、いつでも撃ち抜く態勢は整った。
「そこお!」
戦場から少し離れた、はぐれアンズーを狙って矢を放つ。風を切って直進する矢はホバリング中のアンズー胴体へ、吸い込まれるように刺さった。
「あっ――、落ちた」
アンズーは撃たれた痛みで嘶き、そのまま海へドボンッと落下していった。そのまま浮かぶこともなく――粒子となって消えていったのか、――海底まで落ちていったのか。船上の俺たちが知る術は無い。
「あんまし強くない感じ?」
「アーツもスキルも無いただの矢が刺さったのだ、そこまで防御力は高くないのだろう。――が、タフさはまだわからん。この高さの落下ダメージは無視できるダメージではないはずじゃ」
獅子ほどの重量のある大型生物がおおよそ80mはあろう高さから落下したのだ。これで耐久力を測るのは難しかろう。
「矢が通用するとわかっただけでも十分。これならアンズーを撃ち落としながら島へたどり着けそうだ」
ただしアンズー以外の妨害が無い場合に限るがな。
船内に居たプレイヤーも続々と救命ボートを下に降ろし始めている。そろそろ俺らも脱出しないと面倒に巻き込まれそうだ。
「ヒメコ、『水上移動』と『レビテーション』は使えるか?」
「もちろん! 用意してあるよ」
船から飛び降りる前に重力軽減のバフを頼み、ビルドを組みなおす。
俺がもともと用意してた補助魔法用のアクセではなく、代わりに氷魔法が使えるアクセへと換えておく。
船が動き出した時点で装備品を除く消耗品などのアイテムの持ち込みは禁止だ。常にマナを消費し続ける水上移動は途中でマナが切れたら、ほぼリタイアが確定する。それを防ぐ為の氷魔法と『スリップ耐性』である。
「よし、しばらく走って島に接近してから救命ボートを使うぞ」
「わざわざ走るつもりなの!?」
「ボートそのものはアウラに収納させてる。奪い合いにならないように、離れた場所で出した方がいい」
「納得、ならさっさと行きましょう」
すでに乱闘騒ぎになってる救命ボート争奪戦をしりめに、俺らは低重力の落下に身を任せて海面へ着地した。
龍機弓『灰燼』 品質:A 状態:良好
中級弓術:Ⅴ
中級DEX強化:Ⅳ
中級貫通力強化:Ⅳ
弾速増加:Ⅴ
致命ダメージ強化:Ⅲ
天穿ち:Ⅳ
ガトリングアロー:Ⅲ
自動再生:Ⅳ




