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第六話 遭難予定の船旅

 二十五万トン級の巨大クルーズ船『エヴァーガーデン』。その大きさは原油タンカーと同等で、全長は東京タワーよりも長い。


 アウターワールドで行われるイベントの為に用意された、五千人ほどの乗客を乗せられる豪華客船だ。


 そう、こいつは()()()五千人のプレイヤーしか運べない。もちろん移動手段とだけ考えるならもっと多くの人数は乗れるはず。けれどそんな満員電車みたいな風情のないことを、天下のビジター社がするわけがない。


 なお日常で当たり前のように活用される仮想空間は、全世界で二十億人分のアバターが存在するといわれる。その中でアウターワールドを利用するプレイヤーは百万ほどだ。


 普段俺らの使うサーバーは日本用でその数はさらに減る。なので今回参加する日本のプレイヤーは多くて三万人ほどではないだろうか。

 

 というわけで途中参加する組など除いて考えても、たった五千人しかキャパの無いクルーズ船は一隻じゃ足りず。計五隻もの四〇〇mの怪物船が無人島に向け、青い海を並走することになるわけだ。


 大海のど真ん中。周囲には同型のクルーズ船しか存在せず、陸から遠いせいで海鳥の鳴き声さえしない。


 代わりのBGMは船内のスピーカーから流れる南国チックな音楽、それとプレイヤーの談笑ぐらいだ。



 そんな陽気な空間から少し離れて、一階デッキで俺は手すりに体を預けて海を眺めていた。


「こいつに乗るのも久々だな」


 白い飛沫をあげてぶつかる波に船体はビクともせず、優雅に水の上を走る。隣にはアウラが俺と同じように手すりに背中を預けて、俺のほうを向く。


「ファウターには似つかわしくないと、いつも思うのはわらわだけか?」


 アウラはドレスアーマーの甲冑部分をパージした、楽な格好で豪華客船の船旅を楽しんでいる。彼女は遊戯場で貰ってきたワイングラスを片手に、海上を吹き抜ける風が気持ちよさそうに目を細める。


 魔道具だったり魔導機だったり。不自由さを感じにくく設計されているファウターではあるが、世界観そのものは近代寄りの中世だ。


 往来を走るのは馬っぽい魔物が牽く馬車モドキか、あるいは魔法で動く高級馬車だ。船だって軍船でもなければ木造船が主流である。


 そんな世界観で、最新鋭の軍属魔導船が玩具に見えてしまう豪華客船に違和感を覚えるのはおかしなことではない。


 ゲームだから――と言ってしまえばそこまでだがな。


「実はガンナーズで登場するエヴァーガーデンと、内装とか機関部が違うんだぜ」


 船内設備の動力には電気でなく、よく見ると魔石が使われてたり。見えない場所では機関部がまったく違ったりする。


 中坊だった頃。船員の目を盗んで見学した機関部には、人間よりデカい魔石が鎮座し各装置へマナを供給するパイプがそこら中に張り巡らされていたのを思い出す。


「――マジか? そこまで細かいギミックを用意してるとは、開発はバカだろう」

「俺は好きだけどな――そういう遊び心」


 おそらくはこの船のベースになったのは、造船に関わる企業が作った船舶データだろう。アウターワールドのサーバーは最高レベルかつ、最新鋭の機材が揃ってる。試験用の場所を貸す代わりに、乗り物や地形データを有料で使わせてもらう事も多いとアリスから聞いたことがある。


 その観光用に作られた客船を、ファンタジーっぽく魔改造したのが今乗ってる『エヴァーガーデン』なんだろう。


「そういえば機関部は進入禁止だったと記憶してるが?」

「人ってのは隠されたモノは暴きたくなる生き物なんだよ」

 

 それが当然の真理かのようにアウラに言い訳するが、視線が冷たく突き刺さる。


 そもそも俺が機関部に興味を持ったのが、アリスの『ファウターのエヴァーガーデン機関部は開発が作ったロストテクノロジーなんですよ?』の一言があったからだ。


 ロストテクノロジーなんて、中二真っ只中だった俺にクリーンヒットしないはずがない。その後すぐにあったイベントで、俺が一人で機関部に潜り込んだのは当然の行動だ。


 おかげ様で機関部の構造も場所も何となくわかる。


「見るだけにとどめておれば良かったのにな」

「はっはっはっ。何のことでしょう?」


 そろそろ目的地である『遭難する無人島』に着くはずの時間。そんなタイミングで救命ボードが並ぶ船体側面廊下で時間を潰してる時点で、アウラにはこれから起こることはわかりきっていた。


「もしかして、そこに居るのアウラ?」

「ん? そうだがお主は――」


 俺らとは別に、イベントの趣旨から何か起こると察してやってきたプレイヤーの一人がアウラの名を呼んだ。


「げっ! ヒメコかよ」


 そいつは『オーバーセンス』とは別の、四年前の知り合いである。


 彼女の背後には配信中であること示す赤色の小さな羽の生えた球体生物が浮いている。きっと今も何万人ものリスナーが彼女の配信を視聴しているはずだ。


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