第四話 拠点選びへ
「遅かったのお」
しばらく滞在していたステラでのゲスト権限は返却した。なのでログイン場所はステラのクランハウスではなく、噴水前にあるリスポン地点からとなる。
「悪い、アリスとの話が長引いた」
「せめて盛り上がったと言ってやってくれんか?」
俺の言い様に呆れ顔でアウラが出迎えた。
服装は戦闘の予定はないから性能なんておまけ程度のオシャレ用で、姉御作のセーラー服モドキなワンピースを着ている。
通行人が一度は足を止めてしまうほど、ベンチに座るアウラは絵になる。
「さてサマイベまで時間が無いんだ。ギリギリまで装備を作ろうぜ」
白々しい俺の話題転換にアウラの視線が厳しい。
アウラは軽くため息を漏らすと、勝手に歩き始めた俺の後を付いてくる。
「はいはい、お主らが仲違いしなかったようで安心したわ」
アリスがセクター1のビジターだと話してすぐだ。俺らが四年前の話をしたとアウラが考えてもおかしくない。いつも通りの雑なアリスの扱いを見て、問題なく決着がついたと察したのだろう。
「それでご主人よ」
「なんだ」
曇天のおかげ太陽に焼かれることは無いものの、湿気の高いジメジメさが増していて不快指数は高い。
俺とアウラが向かっているのは物件を扱うシステムAIのいるショップだ。
さすがにいつまでもステラの工房を使う訳にもいかず、今日は個人用の工房を買うつもりでいた。
資金は既に用意してある。今までのダンジョンで稼いだ金でエンチャント付きの装備を作って、売って、また素材を買ってと――基本的なオプションの揃った設備の付いた工房を買えるまで金策は済ませてある。
「昔のアバターは使わんのか?」
「それなあ……」
だらだら歩く俺らは今更ながら、なぜ昔のアバターを使わないのか話すことになった。
俺が新規のアバターで再開したのはアウラを探すのに集中したかったから。Hackのアバターでログインすれば、間違いなく『オーバーセンス』の奴らが襲来して来るのは目に見えていた。
時間がかかると想定していた、その捜索――もといセクター0にたどり着くための攻略もあっさり終わってしまった……。本来ならそれからクランの連中に会おうと思ってのだが、ぐだぐだな展開は俺ららしいと言ってしまえばそれまでよ。
そういうわけで、すでにこのアバターを使う理由もないといえば無いな。
「こっちのアバターをファウター用、Hackをガンナーズ用で使い分けようかとも思ってたんだが?」
Hackはやっぱりガンナーズなんだ。
硝煙が漂う中で撃ち合うのが俺の中にあるHackのイメージだ。
だから最初はファウターから始めたとはいえ、どうにも魔法や剣を振り回すのに違和感があった。だから再開を機に新しいアバターを育てるのも一興だと思い始めていた。
もちろんガンナーズが活動のメインに戻るかもしれないが、次の『怪物島』まではカオルをメインで動くつもりだ。
「わらわの所有権か? なら問題ない。前より自由度が上がったからな、わらわのほうで動いてやろう。ただし同一世界での単独移動は無理だ」
「それは当然だろ。それができたら消耗品をどこでも補充できるようになっちまう」
アウターワールドは別の世界のアイテムを使えない。わかりやすく説明すると規格が合わない――とでも言えばいいか。共通して使えるモノは金のみで、世界を移る場合はその世界で使えるアイテムを揃える必要があった。
だからか異なる世界間での移動なら、俺のアバターの近くならアウラに制限はない。
同一世界の移動に制限があるのは、複数のアバターを使ってアイテムをどこでも補充できるのを防ぐ為だろう。
「そういえば、こっちの拠点は買ってなかったのう」
「四年前はガンナーズがメインで、こっちには時々遊びに来る程度だったし。使う予定のないクランハウスを管理するのも面倒だって、誰も欲しいとは言わなかったから――しゃあない」
アウターワールドにはコンバートという機能がある。
簡単に言えば――拳銃を短剣にしたり、防弾チョッキを皮鎧に変換するシステムで、これがあるおかげで手数料は取られるが容易に世界間を移ることができる。
用事があるときはその機能を使っていたから、わざわざこっちで工房を用意する必要はなかった。資金があれば、上等な貸し工房を借りられるからな。
「ご主人、また一目惚れで決めるなよ?」
アウラがわかりやすいフラグを立てる。昔、俺が選んだクランハウスは住み心地の良い場所だっと思うだがな?
「どんな物件があるか次第だ。俺の興味を引くもんがあったら諦めてくれ」
海辺のクランハウスは既にある。ファンタジーな場所にある物件も粋かも――と思うが、動物が多そうな場所だけは却下だ。妹が絶対に居座ることになる。
俺は土地の管理をするNPCがいる石造の建物へ入っていった。




