第二話 アウラとアリス
ポイントがとうとう三桁になりました。わーい
ブクマ、評価、感想、ありがとうございました。
ルルエッタ達が遊びに来た日の夜。今日終わらせる分の大学の課題も終わらせて、いつものようにアウターワールドへログインする俺はロビーで食事中のアリスと出くわした。
「ご所望はカレーですか?」
アリスはカレーライスの乗ったスプーンを持ち上げたまま、何食わぬ顔で宣う。
白い平皿にカレーのかかった白米の山。急いでこっちに来たらしく、頬には米粒がくっついたままだ。
「開き直って、自由奔放になってやがるな」
ビジター社に十体しか存在しない高性能AI――もとい電脳生命体『ビジター』のアリス。自身がアウターワールドの統括AIだと俺が知ったのを良いことに、AIの皮をどこかに捨てたらしい。
「ワタクシ、真面目なナビAIですよ? こちらはアウラさんからカレーのお話を聞いたら、ワタクシも食べたいと思いまして。……一口食べますか?」
「――もらうわ」
俺の視線に居た堪れなくなったのか。アリスは食べかけのカレーが乗ったスプーンを差し出してきた。さすがに自分も食べてるのだから、変な細工はしてないだろう。
「どうでしょう?」
ビジターの食すカレーが気になるのもあって、躊躇いも無く俺はそのスプーンを口に入れた。
「……旨いな」
レトルトやお店で作るようなカレーではない。市販されるルウを使った家庭の、ウチのカレーに似てる気がするな。
「ほほー、だそうですよ。――アウラさん」
「うむ。うまいと言ってもらえると嬉しいものだな」
アリスがしてやったり顔をしたと思ったら、俺の背後で気配を消してたアウラが抱き着いてきた。後ろにいる彼女の顔を見ることは叶わないが、その声はとても弾んでいる。
「アウラが作ったのか? ――ってなんだこの扉」
ぐいぐいと押し付けてくる大きな胸を無視して、俺はアウラを引きはがして後ろを振り返る。
俺のログイン場所の真後ろに知らないドアがぽつんと立っている。中を覗くと生活感溢れる誰かの部屋が広がっている。
これはアウラの部屋か?
「お手本は何度も見てきたからな。――あまりジロジロと乙女の部屋を凝視するでない。こっちに来るのに少し繋いでおっただけだ」
「ここ公共空間じゃねえのかよ」
「いえ、違いますよ。ここはワタクシの私用空間として設定してますので、関係者以外入れないようになってます」
当たり前でしょ? なんて顔をしてるアリスに俺は「はっ?」と聞き返す。
「確かに昔、ここは一般プレイヤーがアウターワールドに出入りするためのロビーでしたが……。ワタクシが気まぐれでログインの受付AIになって遊んでいる時に、カオル様と出会ってからはカオル様以外は使えない空間にしちゃいました。というわけで、ここはワタクシとカオル様のテリトリーです。人様の家でイチャつくのはどうかと思いますよ?」
と、アリスの背後に「ぷんすか」と派手なエフェクトと効果音が登場する。
「ん? お主もちゃっかり御主人と間接キスしておったではないか」
アウラの指摘に、アリスはしばらく意味を理解できず硬直する。
十秒ほどたっぷりと熟考していただろうか。彼女は自分の右手に持つスプーンと俺の口を交互に見比べて、ようやく理解して顔を沸騰させた。
「へっ? あっ……ああ! べべべべっ、別にわたしも意識していなかったというか――カオル様にもアウラさんの手料理を食べさせてあげようという親切心というか。そもそもキスという刺激なんてのはただの電子信号と化学物質による伝達でしかなく――」
「お前って受けに回るとクソ雑魚なんだな」
ここまでわかりやすく感情剥き出しで焦るアリスもあまり見た事ない。
「お姉さんを揶揄わないでくださいませ! 強制退出『アウラローゼ』!」
アリスは食べかけのカレーをどこかに隠すと、管理者権限を使ってまでアウラを追い出した。
同時にアウラの部屋の扉も消失しており、一瞬の静寂がログイン部屋に訪れる。
「それではカオル様、アウターワールドにログインなさりますか?」
「今までのくだり全部なかったことにしやがったぞ――こいつ」
「はて、なんのことでしょうか?」
耳が赤いのも気づかないアリスは無表情な威圧で牽制する。このままだと無理やりにファウターへ送り出されそうになった俺は、ここへ来る前に話そうと決めていた話題を切り出す。
「お前はどこまで知ってたんだ?」
アリスは悲しそうに微笑んだ。




