第一話 2Dアウラ
「なっ――、えあ? あ、アウラ?」
「うむ、良きリアクションよ」
席を立った彩乃はキッチンカウンターに置いてあった俺のスマホを手に取ると、画面を食い入るように凝視する。
「どうじゃ! わらわの2Dアバターは、良くできておるだろう?」
「アウラがどうしてここにいるの!?」
画面に映る薄っぺらい姿よりも、俺のスマホの中に居ることの方が衝撃なのだ。真っ先になぜと問い掛けた彩乃はおかしくない。
「この愛らしいアバターはスルーかのう、よほほほ」
アウラは2Dにデフォルメされたアバターを気に入ってるようだな。泣き真似と分かっていても彩乃は慌ててフォローを入れる。
「えっ、いや違うって。すごくかわいいよ」
「じゃろ」
「おお、表情豊か……」
横から覗いてた早紀が若干うざいドヤ顔をしているアウラの2Dアバターを俺にも見せた。
このアバターを作ったのはアリスだ、ぜったい。ドヤ顔まで完備するネタ豊富な表情差分はあいつの仕業に決まってる。
彩乃にさっきアウラから聞いた話を伝えると、自分も連絡先が欲しいと俺のスマホを勝手に操作し始めた。そのまま早紀達にたらい回しでアウラの連絡先はどんどん埋まっていく。
「あの、お兄さん。わたしもお手伝いしてもいいですか」
「悪いな……包丁は使ってるからピューラーで皮むきしてくれ」
「はい」
アウラに夢中な連中から抜けて、奈菜が手伝えることはないかと言ってきた。俺が一人で支度してる横で何も手伝わないでいるのは居心地を悪く感じる子らしい。何か簡単な作業をお願いしたほうが気も楽だろう。
「私たちは何もしてないけど良かったの?」
アウラと雑談で夢中になっていた彩乃は俺に作業が任せっきりだったことに遅れて気づいた。。
残りのメンバーで料理の腕が分からないのは涼子と花音だけ。当然、早紀は料理ができないが、お嬢様育ちっぽい花音はどうだろうな。
彩乃は俺と姉御で教えていたのもあって、料理もある程度できる。そういえば、クランでは姉御も入れた三人で大人数の宴会料理をよく作ったりもしたもんだ。
「今日は客として来てんだから気にすんな。奈菜ちゃんも手伝ってくれてサンキューな」
「いえ! いきなりだったみたいで、こちらこそごめんなさい」
あとは炒めて鍋で煮込むだけだ。お手伝いをしてた奈菜も早紀達のいるダイニング側に戻っている。
「んぐ――、別に謝る必要なんてないのに」
いつのまにか近くのスーパーで買って来た菓子の食べ比べをしてた早紀が、口の中のモノを飲み込んで言う。――実に妹らしい偉そうな態度が癪に障る。
「なにもせず菓子だけ食ってるやつがいうセリフじゃないんだよなー。昼食べられなくなっても知らんぞ」
「試食だから、お腹いっぱいまで食べるわけないじゃないですかー」
「そこは別にどうでもいいんだわ、勝手に太っとけよ」
「なんですとぉー」
俺と早紀が「あはは」、「うふふ」と睨み合ってると、一緒に食べてた涼子達がお菓子をビニール袋の中に回収していく。
「なら十分試食したし、残りはあとでいいよね?」
「涼子! あと一口だけ――」
お菓子を確保する涼子は捕まえようとする早紀から逃げて「ボッシュート!」とダイニングの外に出ていった。
「それじゃあ、わたし達は早紀さんの部屋にお邪魔してきますね」
「おう、ごゆっくりー」
姦しい嵐が去った後には俺とアウラ――そして、まだ沸いていない鍋が残された。
「のうのう、ご主人――これはどうじゃ?」
「可愛いと思うぞ」
俺は沸騰するまで手持ち無沙汰となりダイニングの椅子へ移動し、もらったアバターで遊ぶアウラと画面越しに向かい合う。
「それってどうやって動かしてるんだ?」
「ん? 仮想世界にあるわらわの自室でスマホを操作しておるぞ。こう、モーションを選択するだけじゃな。ちなみに動きは数十種類は用意してあるのう」
「作り込みすぎだろ、アリス」
自分の部屋で自分の2Dアバターを操作しながらはしゃぐアウラを想像して、俺はほほえましく思うのであった。
リアル編はこれで終わりです。もう少しルルエッタの絡みを書いた方が良かったかなぁ。




