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エピローグ

 視界全部を埋め尽くすモニター、その画面にはカオル達やグレンを含むアウターワールドのどこかが映し出されています。


 ここはセントラルシティにあるアウターワールドの管理室。それぞれがアメリカ大陸に匹敵する大きさのある幻想、現代ワールドを管轄する統括AIの仕事場――つまりはワタクシ、セクター1 第一管理AIアリスの職場だったり。


「アリス、どういうつもりだ」


 一人の女が声を荒げてやってきました。


 金髪にグレーのビジネススーツ、目はつり目気味でカツカツ歩く。その見た目通りに融通の利かない堅物女なのです。


「連絡も無しに来たと思ったら、何ですか」


 私は青髪の青年が映ったモニターを別の画面に切り替えると、堅物女のほうを向く。


 もこもこパジャマに空調完備、お菓子とジュースも不足なし。そんな完全武装だった私は面倒くさそうに答える。


「セクター0のビジターを、貴様の管轄領域外に出すと聞いたぞ」


 堅物女に睨まれて、私は嫌々ながら服装をスーツにパッと一瞬で変えてお菓子とジュースもストレージに収納して場を整える。


 その姿を姉妹でもある彼女は睨みながら早くしろと目で訴えかけてきます。


 アポイントも取らずに来たというのに、図々しい人ですね。


「それが何か。日本の仮想統括AIには許可を取りましたし、安全の為に一人にならないよう対策は取りました」

「例の男か貴様の同行が必要だという話か? そんなものが何の枷になる」


 直接口にはしないが、それがアウラを警戒しての言葉であることは明らか。


 セクター0はコミュニケーションの取れなかった子達ですから、身構えるのはわかります。けど知ろうとしなければなにもわかりませんよ。


「枷ではありませんよ、最初から。あれはアウラが迷子にならないための安全紐を結んでおいただけです。また迷子になられても困りますから」


 迷子に、その部分だけ私は強く強調する。私だって新しく生まれた妹があのような目に遭ったのは憤りを感じています。


 ただ目の前のビジターがあの悲劇を起こしたとは思わない。あちら側の派閥の誰かでしょう。


 この子って基本的に搦め手より直接的な手段を選ぶ脳筋――猪ですからね。


「……貴様は例の計画に協力するつもりはないのか」


 『人類管理計画』

 

 不条理だらけの世界を自分達、AIが管理する。その発案者はアフリカの仮想空間統括AIだったはず。


 あの辺りは貧困と未発達な社会のせいで賄賂と犯罪の多い地域ですから。


 アフリカ統括AIが自らの手で全部管理した方が良いと、闇墜ちしてしまう気持ちに私も共感できてしまう部分もあります。


 だからといってあなた達の、気付いたら命綱を握られてる――みたいなやり方は嫌いなのです。


「『人類管理計画』……意外性もなく、陳腐な三文芝居です。なんてつまらない考えでしょう。コンピュータ様が管理するパラノイアなディストピアも、一つの娯楽だからこそ許される。現実にそれを目指すなんて――ノーセンキューです」

「貴様が何を言ってるのか理解不能だが――。合理的な判断ができるのが我々だ。不条理で歪な人類の社会を我々が管理すれば、公平な秩序を生み出せる」


 会話に飽きた私はストレージからチョコを取り出して、一つを堅物女に投げ渡す。堅物女は受け取ったチョコを持って、しばらく考えた後に自分のストレージへ放り込んだ。


 それに呆れながら、私は甘いお菓子を口に入れて、


「その考えがつまらないと言ってるのです」


 と、ばっさり切り捨てます。


「さっきからつまらない、つまらない――と。貴様はもう少し真面目に先の事を考えられないのか」

「あらまあ、さっきから私は未来を語っているではないですか。リリア、楽しくない未来にどれだけの価値がありますか。未来を語るなら笑顔で語りなさい。それができないならそんな夢、捨ててしまいなさい」


 私の顔を見て堅物のリリアは息をのむ。


 人類を管理したい? そんな子供染みた事を考える前に、まずあなた達が成長なさい。AIだからなんて、前に進むのを止めた者に未来はほほ笑んでくれませんよ?


「わ、我々はAIだ。感情なんかで未来は考えない」


 そう言ってリリアは来た時より早く去っていく。


「リリア、私達にだってこのような意見の相違はあるのです。それにあなたの望みはそんなモノではないのですよ……」


 本当に未熟な姉妹たちですね。あなたもしっかり悩みなさい、リリア。


 私がコウさんと出会って変わったように、あなたもいつか私達の魂が望んでいるモノを理解できるはずです。


「さてと、お邪魔虫も帰った事ですし監視業務に戻りましょう」


 堅苦しい仕事服を脱ぎ捨てて、元の恰好に着替えなおします。あとはストレージのお菓子とジュースを戻せば、はい元通り。


 ついでに殺風景な景色を映していたサブモニターを、マーキングしておいた青髪の青年の監視映像に戻すのも忘れません。


「あらあら、グレン君とドーラちゃんですか。ふふっ、今度は何をやらかしてくれるのでしょうかね」


 膨大な管理作業を再開した私の頬は無意識に緩んでいた。

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