第十一話 アウターワールドの管理AI
次話でメイク2が終わります。
戦利品の分配も終わった俺らは姉御も連れて、ステラのクランハウスに帰って来た。
今はドーラがアムールの瑠衣さんだとサクラが知って、目を輝かせてフレンドの登録をしている所である。
「私達もお兄さんに協力してもいいんですか」
そうドーラに尋ねたのはアオイだ。
どうやら夏イベも一緒に遊ぶつもり満々だったらしい。今回のイベントはサバイバルだからな、クラフトマンが活躍する場面も多いはず。
――が、
「構いませんが、あの人達は容赦なくPKしてきますよ?」
そうなんだよな。姉御の言う通り、あいつらは躊躇いなくPKを狙ってくる。
ちなみに公式のイベントはその都度、専用マップに合わせてデスペナの仕様を変えてくる。
今回はサバイバルということで、装備以外のアイテムは一部例外を除いて持ち込みは禁止。デスぺナを食らうと暫く行動が制限されるらしい。。
「復帰したての俺に遠慮が無い事で、お前らはお前らでイベントを楽しめ。俺はアウラと二人で行く」
「あら、ルルちゃんは連れて行ったらいいじゃない」
妹たちに合わせてくれてるのだろう、ドーラの姉御はトモエの呼び方をルルに変えている。
「メイたちは、PvP禁止エリアでキャンプを楽しむつもりなんだろ? 俺らとは活動エリアが違うし、リア友を優先したらどうだ」
舞台である無人島にはPvP禁止エリアがあり、対人戦がしたくないプレイヤーはそっちでのんびりレジャー気分で楽しめる。
「ふーん」
「なんだよ、姉御」
姉御は呆れた様子で俺を見てる。他にも視線を感じたと思ったら、その場でお菓子やジュースを広げて学校の宿題をしてる女子高生連中もだった。
「いいえ、ルルちゃんも大変だと思ってるだけよ? サクラちゃんが話してたけど、折角明日は――」
「お姉ちゃん!? 変なこと言わないでよっ」
「明日?」
話を遮りルルエッタが姉御の口を押えるが、その続きであろう内容をサクラが俺に話す。
「あ、言ってなかったっけ。明日、ここにいる何人かウチに遊びに来るから」
「聞いてないぞ」
「えへ、お昼用意しといてね」
ルルエッタを除く何人かが「よろしくお願いしまーす」と声を合わせて、俺にお願いする。
事前に予定を言ってくれれば、数人増えたぐらいなんとでもなるが――、前日に言うんじゃねえ。
俺はもっと早く言えと妹を小突き、大人数でも大丈夫なメニューを考える。
「……無難にカレーでも作ればいいか」
「やったー」
「私も遊びに行っちゃおうかしら」
「姉御はお仕事があるだろ?」
「――あら、残念」
リアルでも仮想都市でも店を持ってる姉御は忙しいからな。
口では残念だと言ってるが、全然そうには見えない。ただ単に俺を冷やかしたいだけなのだ。むしろ残念に思ってるのは妹とルルエッタの方だろう。
「ルルエッタと妹も連れて、今度アムールに行こうか?」
それを聞いて二人は喜ぶ。ルルエッタはこの世界で、早紀は現実の姉御に懐いているからな。
「リアルの方もいいけど、その前に仮想都市のアムールでどう? 夏イベが終わったら打ち上げに誘うつもりだったのだけど」
ちらっと俺はアウラの様子を窺う。彼女だけはこの世界から出ることができない。
それに何も思わないわけがない――はずなのだが、アウラは何か企んでいるのかにやにやしてる。
今はそれに深くはつっこまず、姉御が予定してる打ち上げについて続きを聞く。
「グレン達も誘ってか?」
「もちろん。妹ちゃん達もどう?」
当時十人居たクランメンバーのうち、すぐに連絡が取れたのはグレン、ジョン、ドレイクの三人だけらしい。
残りの四人は学業だったり仕事だったりで忙しいとさ。
「いいんですか?」
まさか自分達も誘われるとは思ってなかったサクラ達が聞き返す。
「騒ぐなら大人数の方が楽しいもの」
「売上の為だろ」
「あら、バレちゃった?」
てへっと笑う姉御。
そういうところは昔と変わらず強かだ、と言っても費用は食費ぐらいだから高校生でも問題ない金額ではある。
俺達がいつ集まるか話してるとアウラが爆弾発言を発する。
「わらわも参加するぞ」
「アウラ?」
姉御とルルエッタも聞いていなかったらしく驚きの声が出ている。
どういうことだと、俺は訳を聞く。アウラはアウターワールド内のみで活動できるゲーム用のAIだ。例え管理AIと同じビジターと呼ばれる存在でも、外に出るのはセキュリティ上大丈夫なのか?
「なに、あの件で瀬里と色々取引してな。ビジター社用のアカウントで仮想空間内を移動できるようになった」
「俺は初耳なんだが?」
アウラの意味深な笑みはこれだったのか。
木島さんに調査を依頼してる間の話なのだろう。調査報告に含まれてなかった話に、俺は素直に驚いた。
あの人はあまりAIというモノを信用しておらず、むしろ嫌ってる気があると思ってたんだがな。
「だから今言ったろう。これからはアウターワールド以外の仮想空間にも連れて行ってもらうぞ、ご主人様?」
「待て待て――ちょっとこっちに来い、まずはセキュリティについて聞かせろ」
俺はアウラと部屋の隅に移動して、小声で話す。一度背後を確かめると、セキュリティ関連の話なので妹たちも聞き耳を立てる真似はしていない。
「――俺がログアウトしてる間は拠点で自由行動か、待機サーバーで待機だったはずだが、その辺りはどうなってる」
「それは今まで通りだ。アウターワールド以外の仮想空間に出る時はご主人か、管理AIの同行が必要になる」
「セクター1の連中だろ。信用できるのか?」
「ご主人よ、人間もビジターも同じだ。セクター1のビジターだから信用できないってのは筋が通らんだろ?」
「……それを前提としてだ。少なくとも俺は会った事のないAIを信用するつもりはない」
インベントリのあいつを送り込んできたのもセクター1だ。
木島さんから聞いた話だと、十体全部が同じ思想で統率されてるってわけじゃなさそうだが。安心してアウラを預けられるほどの信用は無い。
「なら問題ないな。わらわが保護者として指名した管理AIはアリスだ」
「ちっ、あいつはあの件に関わってたのか?」
怖くて聞けなかった、そんなことがあるはずないと俺は思い込んで目を背けてきた。
アリスが管理AIのはずがない、と。
もしそうなら、あいつがアウターワールドの統括AIという事になる。アウラの失踪に関わってるのではないかという疑惑が頭から離れない。
俺の中で広がる不安を感じ取ったのか、アウラは俺と距離を縮める。
「ご主人、誰も居ない待機エリアでわらわの話し相手になってくれたのは彼女じゃぞ。あやつの事はよく知っておる。それにわらわのゴーストは囁いているぞ。――『あやつは違う』と、ご主人はどうだ」
口と口が触れそうなくらい、傍にあるアウラの真っすぐな視線。俺と自分の心臓の上に手を置き、紅い瞳が語りかけてくる。
「――口にする必要があるか?」
「それでよい、あの者はわらわ達の友。ならその心に従えばよい。それを教えてくれたのはご主人だろ?」
「サンキュー」
迷う俺の背中を押してくれたアウラに感謝して、俺達は内緒話を止めてサクラ達のほうに戻った。




