第八話 灰龍
ダンジョン内の宝箱を大体回った俺達はボス部屋前で、最後の戦いに向けて装備の確認をしてた。
「ふっふーん、宝箱は問題ないんだなー」
「わざわざ見せびらかさんでいいわ」
分かりやすく髪を退けて耳を晒すサクラ、そこには黒光りした金属のフレームと小さな宝石が揺れている。
シルフィの方も胸元にアンクの形をしたアクセサリーがあり、それはなぜか俺が首にかけることになった。
魔鉄のイヤリング 品質:A 状態:良好
中級精神力強化:Ⅴ
MP自動回復速度増加:Ⅲ
風魔法:Ⅱ
祝福のアンク 品質:B 状態:良好
中級状態異常耐性:Ⅵ
補助魔法:Ⅳ
俺のエンチャントした装備とは比較にならないが、二人のビルドにマッチしたスキルだ。
ちなみに補助魔法はバフ・デバフを撒く系統の魔法で、上位へ進化するとバフ系の祝福か、デバフ系の呪術魔法に特化していく。
「さて、ボス戦はドラゴンだったよね?」
「ああ、オーソドックスなタイプのドラゴンだそうだ」
「体が大きくて、炎のブレス吐いたり、尻尾を振り回したり?」
「さあな、俺もこれ以上ネタバレになる情報は知らん」
仮想世界は当然、アウターワールドからでもネットの閲覧は可能となっている。それを使って手ごろだったこのダンジョンを探したわけであるが、出てくるモンスターの傾向と難易度ぐらい情報収集はしなかった。
最高難度でもないダンジョンの攻略法を、一から十まで知らべるのは俺の趣味じゃないからだ。
「はいはい、初見プレイで攻略ね」
「念入りな計画を立てた攻略も良いが気ままな攻略もまた、いとたのしいもんさ。さあ、攻略を楽しもうぜ」
「「「はーい」」」
俺が先頭になって、ぽっかり開いた穴から滑り台に飛び込んだ。
ゲームによくある、一方通行なボス部屋をイメージしてくれ。
「ひゃああああ」
「なんでスライダーなのおおお」
「アハハハハ」
オートで操作されるアバターで体験する滑り台に各々が感想を叫ぶ。意外とシルフィがこういう遊びが好きなようで、珍しく大声で歓声を上げてる。逆にアオイの方は涙目だった。
「ほいっ、着地」
「うむ――、感謝する」
芝居かかった仕草で俺は着地と同時にアウラを受け止める。さらに後ろからルルエッタ達が落下してきて、目の前のドラゴンを見上げた。
「おお! でっかい」
「四足歩行タイプの西洋龍ですね」
「迫力、すご」
ボスの寝床は円柱状のだだっ広い場所。岩肌の上に伏せて目を瞑ってたドラゴンは、滑り落ちる俺達に気付いて長い首を持ち上げた。
ボスを鑑定すると、『灰龍アッシュドラゴン』と表示される。灰龍の名の通り、グレーの鱗に覆われ体は大型の観光バスより大きい。
翼と体の比率から飛ぶのは苦手そうだが、魔法なんてとんでも法則があるファンタジーアウターではそれも通じないかもしれない。
のんきに大きなドラゴンを見上げるサクラ達にルルエッタが注意を促す。
「もうボス戦は始まってるわよ!」
「お兄ちゃんとアウラさんがもうあんな場所にいる!?」
ボス部屋に入ってすぐ、俺とアウラはもうボスの傍まで接近してた。
「任せるぞ、ご主人――『チャージ』『ヒートオーラ』」
アウラはハンマーを構えたまま、バフスキルで一撃の火力を上げる。
『チャージ』は一定時間その場から動けない代わりに次の一撃を大幅に上昇させる、一撃の大きい重量武器種共有のスキル。
もう一つの『ヒートオーラ』は敵からのヘイトが上昇する代わりに、経過時間に応じてSTRを上昇させるスキルである。
「はいはい、ステージの演者に触れるのはお控えください――『パワーアロー』『ダブルショット』」
動けないアウラに前腕を叩きつけようとするドラゴン、俺はその腕に向かって打撃属性に変化させた矢を二本撃ち込む。
弓は近接アーツと違って、射撃と矢のそれぞれにアーツとスキルが使える。
ボスの攻撃は貫通力がそのまま打撃力に変換された矢を受けて、大きく軌道をずらされた。
「次いくのじゃ――『ディスチャージ』!」
バチバチと放電するハンマーを、アウラは体勢を崩したドラゴンの顎を狙ってアッパーカットのように打ち上げる。
電撃とスタンのダブルパンチで、巨大なボスは動きを止めた。開幕の挨拶にしては過剰かつ暴力的だが、これが俺達流のノックの仕方だ。
「ここで外すでないぞ?」
「俺が大事な場面でクソエイムを見せたことがあったか?」
新たに作ったエンチャントスキルの大放出だと言わんばかりに、俺はジャンプスキルでドラゴンの頭と同じ高さまで跳び上がり、
「『エクスプロージョンアロー』『ウィークネスショット』」
空中で引いた弓から放った矢は左目に突き刺さり、小さな爆発を起こす。
これで片目の部位破壊は完了だ。モンスター最強種であるドラゴンがこの程度で死ぬはずがないが、無視できるほど小さいダメ―ジってわけでもない。
「うっわー、お兄ちゃんとアウラさんだけで倒せるんじゃない?」
「あれが上級者の動きですのね。羨ましい反面、魔法使いを選んで正解でしたかも」
固定砲台の魔法ビルド組がそんな事を言いながら、遅れて魔法を撃ち込む。
オーバーセンスにチームプレーなんて言葉は存在しない、どいつもこいつも気持ちよく派手に暴れたいのだ。
チャンスがあれば何も言わずとも群がってる来る。俺達にあるのは「スタンドプレーから生じるチームワーク」ってやつなのだから。
「お前らも口じゃなくて、火力をだせ!」
「それなら最初から言いなさいよ!」
俺と妹が口論してる間にも、準備してたルルエッタがアーツを叩き込む。
「慣れてきたら、そのうち攻撃のチャンスがわかるようになるわよっ」
そう言うルルエッタはアウラがボスの前で『溜め』に入った時点で、自己強化スキルを使いながら 頃合いを見計らっていた。
すでにボロボロな気もするドラゴンは憤怒の咆哮を上げる。
それがフェーズの変わった合図だったのか。
腕を叩きつけ攻撃以外まともな見せ場も与えなかったせいで、ドラゴンの息を吸い込む動作を見てもわからなかった。




