第七話 洞窟での戦闘
「アハハハハハッ、『フレイムランス』!」
妹の高笑いと共に、火魔法の上位スキル、炎魔法の凝縮された炎の槍が人型の爬虫類を貫く。
蛇の頭と鱗に覆われた体、そこから手足が伸びる。ゲームでは比較的有名なモンスターであろうリザードマンだ。
サクラに焼かれた個体は長い舌が口から伸び、簡素な布を纏っただけのほぼ生身な体に風穴を開けたまま息絶えた。
「ひゃあっ! なんか飛んできた!」
新装備で火力が一気に上がって、ハイになってるサクラの頬を矢が掠めていく。
「はいはい、――『ハイヒール』。調子に乗って魔法を連発させるからヘイトを向けられるのですわよ?」
続けて飛んできた矢が体に突き刺さったまま、助けを求めてきたサクラが俺達の方へ逃げてきた。
ヒーラーであるシルフィは護衛を務める俺の近くに控えていたからである。
アウターワールドの回復魔法は一瞬で効果を発揮しない。じわりじわりと傷口を直していくのだが、シルフィは「回復速度が倍以上違いますよ?」と驚いてくれてる。
なお矢弾は斬撃属性と違って致命攻撃は即死にはならない。どちらにせよダメージが痛い事には変わらないが――。
「センキュー、シルフィ。お兄ちゃんも早く弓持ちなんとかしてよ!」
「試し打ちするから手を出すなって言ったのはお前だろ?」
全力でアウターワールドを楽しんでるサクラに、しょうがない奴だと思う俺も自然と笑顔になる。それは周りにいる連中も同じだ。
「遠距離持ちは含みません! はい、ごめんなさい」
なんとなるこうなる気がした俺はサクラがどんちゃん騒ぎをしてる間に、狙撃ポジションへ陣取っていた。弓兵は高所が有利ポジだからな。
洞窟は螺旋階段になっており、中央の空洞は空を飛ぶドラゴンの通り道になっている。寝床は地下深くだから、簡単に敵の頭上を取れる。
「しゃあねえな。『ペネトレイトアロー』」
貫通力を強化する弓のアーツをぶっ放す。良い感じに並んでいるから、狙った通りに二枚抜きだ。
「ワンショットツーキル……。お兄さん、すごい」
「スキル補正だ、それと武器性能」
謙遜ではなく純粋に俺はそう思っている。
銃の類ならスキルの補正無しに当てる自信もあるが、弓のスキル無しはさすがに無理だ。二枚抜きもスキルさえあれば、戦場と位置取りを考えればそう難しくない。
特殊なAIでなく、ましてやリーダー種の居ないAIモンスターなんておバカに決まってる。
「最後の一匹は貰った!」
そんな事を考えてるとサクラが最後のリザードマンを狩り尽くした。
「私、何もしてないんだけど……」
前衛のアオイは遠距離からのワンサイドゲームでやることが無かったと、拗ねている。しっかり敵の近接を引き付けていたので役割は果たしていたと思うんだがな。
「アオイは防御性能の強化だもん、試しに殴られたい?」
「――わざわざ殴られたくないやい」
「ラジャー、こっちも手加減無しでがんばるよ」
火属性特化の魔法ビルドを存分に楽しんでやがりますが、軽い酸欠デバフが発生してんのは分かってんのか?
俺達の視界の端に映る呼吸異常を知らせるアイコン。それが点滅してるのをサクラもアオイも気が付いていなさそうだ。
「サクラ」
「なあに?」
「しばらく火の連射は禁止だ」
「えー、なんで!」
今はまだスタックが3とか4だから影響が出ていないのだが、デバフのスタックが上がると運動能力、思考能力に異常をきたす。さらに放置すると気絶して、最大値である100までいくとゲームオーバーである。
それを俺に代わってシルフィが指摘する。
「わたくし達に酸欠のデバフがついてますよ?」
「わっ、ほんとだ。水中以外にそんなデバフつくんだ」
アオイも自分についたデバフに気付いたようで、サクラをジト目で見てる。
「ランスじゃなくて、ストーム使ってたら自滅してたぞ」
「――てへぺろ」
「自分の使う属性の特性くらい調べとけ!」
こうなる気がしたから俺は洞窟タイプのダンジョンを選んだ。初級と呼ばれる基礎魔法より上の魔法は状況を考えないと大事故を起こす。枯れ木に炎を使えば火事になるし、雪山で水を使えば凍傷で自滅しかねない。
このゲームは連鎖的な現象まで細かくシミュレーションしている。ゲーム的な都合が優先されることもあれば、リアルに近い現象も起こるのだ。
「ルル、なんで教えてくれないのぉ」
このゲームを良く知るルルエッタには当然ながら当然の知識である。サクラはそんな経験者に情け無い声でどうしてかと尋ねるが、ルルエッタは首を振る。
「……いえ、知ってて単体魔法を使ってると思ってたわ」
「武器にエンチャントされてる魔法を使ってただけです」
ちなみにルルエッタはアウラと一緒に後ろで観戦している。今回はサクラと俺の遠距離武器の試運転ってことで様子見していた。
「お主ら、反省会はいいが報酬を回収しなくていいのか?」
「そうだった! 宝箱があったよね」
「待って! サクラは剥ぎ取りナイフ禁止だってば!」
「えー、次はレアが出るから大丈夫だって」
アウラの言葉でサクラはモンスターに分解用のナイフを突き刺しに行く。ファンタジーアウターは通称『剥ぎ取りナイフ』と呼ばれるツールをモンスターにブスリッとやると、その場に戦利品がドロップする。
ゲーマーの神聖な儀式なのだが、サクラは物欲が強すぎるのかドロップ運がクランの中で最悪だそうだ。
「そういえば、アウラさんって戦えるの?」
どこから剥ぎ取りナイフを刺すか、方角と部位を悩みながらサクラはアウラに尋ねる。ガチャなんかによくあるナントカ教に入信しているのだろう。
「ん? ふむ、アバタースキルは持っておらんが――」
「今は脳筋ビルドのメイド服と、AGI型ビルドのドレスしかないよな?」
「そうじゃな、――じゃが脳筋と言うな」
脳筋と言われたアウラは軽く俺の背中を叩きながら抗議する。
プレイヤーではないアウラにアバタースキルはない。身に纏った装備分しかスキルの恩恵はないのだが、オーバースキルと俺のエンチャントした装備があれば十分に戦える。
むしろどんな重い武器も重量制限を無視して使えるのだからチートと言われてもおかしくない。
ちなみに今は暇な間に作った大剣を片手で振り回すメイド服姿のバーサーカー、のようなビルドである。
「なんで、そのチョイスなの? あ、魔石でなかったし……」
「アウラの服は姉御担当だ。俺はエンチャントしかしてないぞ」
アオイが危惧した通り、サクラはハズレ素材だけだったらしい。
「ま、まだ宝箱があるから」
震えながら宝箱に手を伸ばすサクラの手を遮ってルルエッタが、
「こんな浅い場所で良い物なんかでないわ」
と、それを聞いた妹はその場で崩れ落ちた。
「物欲センサーは仮想世界にも実装しなくて良かったのに……」
サクラの悲哀のこもった一言に俺とルルエッタも深く頷いた。
ミスリルコンパウンドボウ 品質:B 状態:良好
中級弓術:Ⅳ
中級DEX強化:Ⅴ
中級貫通力強化:Ⅳ
弾速強化:Ⅳ
致命ダメージ強化:Ⅳ
アローレイン:Ⅳ
ダブルショット:Ⅲ 自動修復:Ⅲ




