第六話 試し切り
ルルエッタ達のクランハウスでログインとログアウトを繰り返すこと数回。それはできた。
ステラの工房には俺の作った装備が並んでいる。――実は初日の時点でアオイの装備以外はできていたのだ。
なぜアオイの装備だけ時間が掛かったのかと言うと、作業量もだがデザインの問題だ。
前は姉御に女物の装備は頼っていたので、随分頭を使う作業になった。メイが居なかったら適当な装備をステラの倉庫から引っ張ってきてコピーしてたかも。
――なお、アオイのスリーサイズは墓場まで持っていく事を誓約書に誓いましたとさ。
「お兄ちゃん、もうできたの?」
「できたぞー、ほれ」
金属の塊、ミスリルスタッフを投げ渡されたサクラは、キャッチし損ねて「いたあ!」と情けない悲鳴を上げてる。
「それくらい取れよ」
「いきなりだったからだし……って、金属の塊を投げる方が悪いじゃん!」
そんな言い訳をしながらサクラは床に落としたスタッフを拾う。
「サクラ、能力見せてー」
「はいはい、ウィンドウを――共有化っと」
ミスリルスタッフ『烈火の杖』 品質:A+ 状態:最高
中級火属性強化:Ⅵ
中級INT強化:Ⅴ
フレイムランス:Ⅳ
魔法リソース消費軽減:Ⅵ
中級炎魔法:Ⅴ
初級獄炎魔法:Ⅰ
自動修復:Ⅲ
鑑定妨害:Ⅷ
「「「バグ装備!」」」
集まった面々は渡されたウィンドウを見て、声を合わせる。
ちなみにこれくらいの物ならオーバーセンスを使わなくとも、『何となく』で作れる。何年もクラフトしてきた慣れだと言っておく。
「これがバグメイカー産って言われる装備よ」
「本当にバグ使ってないの?」
「カオルの存在自体がバグだから、ある意味使ってるわよね?」
こいつら遠慮がねえな、次から普通装備にすんぞ。
他の装備も一つずつ手に取って確認するステラの面々。スキルの数と内容を見る度に、奇声を上げている。
「お兄ちゃんってバグキャラだったんだ」
「またバグキャラ扱いされんのかい」
「ってことで入ろ?」
「何にだ?」
もちろんサクラが何を言いたいのかはわかってるが、俺にそのつもりはないのでとぼけておく。そもそもメイの居ないときにする話ではないだろ。
もしかして事前に許可なんて取ってないだろうな。
「うちのクランに決まってるじゃん」
「ノーセンキュー。もうクラフトマンがいるだろ?」
「メイちゃんは牧場ゲーと料理にハマってるから、お兄ちゃんと二人なら負担が減るでしょ?」
サクラは時々、牧場施設に入り浸って羊の真っ白な羊毛の中で人様には見せられない顔を晒してるらしい。
さらにはクランハウスで飼ってる猫も追いかけ回してるとの事。
管理してるメイの手が空けば、育てる動物が増やせるとでも思ってるんだろ。
「一応は考えてたようだからお仕置きは勘弁してやる――だが今はそんな気分じゃないくてな」
「そっか、気が変わったらいつでも言ってよ」
シルフィとアオイは自分の装備を眺めつつも、チラッと期待のこもった目でこちらの様子を窺ってる。まさか入るだなんて言うと思ったのか?
「そもそも女だけのクランに入れるか、――ってツッコんでもいいか?」
「やったね、ハーレムだよ」
舌を出して決め顔で世迷言を言い放つサクラの頭に、勢いよくチョップが落ちてきた。
「天誅」
「うぎっ」
「サブマス、勝手に変な話をしない」
ナイスだ、ルルエッタ。
妹は舌を噛んで蹲ってる。後ろからやってきたルルエッタには舌を出してるのが見えてなかった。完全に偶然なのだが――文字通り天誅だったな。
思ってなかった惨事にルルエッタは目が泳いでる。
まあサクラは痛覚設定の軽減率を高く設定してるだろうから、大したダメージになってないだろ。
「ひょっとした出来心だ、だ、だ、だ――よ、クラマスー。――ひぃひぃ、ふぅ。痛覚設定がなかったら即死だった。――それはそうとして試し斬りに行かない? できればお金が稼げる所で」
とういう訳で、さらっと話を替えたサクラになぜか俺も巻き込まれ、ダンジョンに行く事になりましたとさ。金策ができるダンジョンねえ――。
「試し斬りって言ったよね――なんでドラゴン退治になってんの?」
やってきましたは洞窟型ダンジョン。ここの最奥には財宝を守るドラゴンが居て、道中にはドラゴンの魔力で生まれたモンスターがわんさかいる。というゲーム設定。
「金策したいって言ったのはサクラじゃないか。金策といえばドラゴンだろ」
「知ってた。カオルってドラゴンをATMかなにかと勘違いしてない?」
ドラゴンご本人もお金になって、その上ご自宅には金銀財宝。
これ以上の金策はないだろ。さすがにここのドラゴンは比較的弱いからリターンもそこまでじゃないけどな。
「はっはっはっ、ドラゴンは金づるに決まってるだろ?」
「ドラゴンにげてー、今すぐにげてー」
「良いのか? ここでドラゴンの皮が手に入れば防具が作れて、その上他の装備の資金になるぞ?」
ドラゴンは万能素材。骨や鱗は防具になれば、牙は武器にもなる。血も回収できればポーションだって量産が可能だ。それに素材回収の最終兵器、アウラがいるんだぞ?
「――うぐっ」
「そういえばドラゴンの肉は旨かった記憶があるのう――」
「よし狩ろう! 今すぐ狩ろう!」
俺の物欲より、アウラの食欲の方がサクラの欲望に突き刺さったらしい。
女子高生は世の男共が思ってるより、肉食な生き物なんだよな。
「妹の扱いがわかってることで」
サクラに引っ張られていくステラの面々に置いてかれて、俺はすでに妹の扱い方をわかっているアウラに肩をすくめた。
「昔のご主人様と同じじゃろ?」
「……俺ってそんな簡単だったか」
「わらわの口からは……、ドーラに聞いてみたらどうかの」
姉御に口と心理戦で勝てるとは思えねえな、これまでも――これからも――。
「姉御と昔話をするほど被虐的でも無謀でもないさ」
そう言って、俺はたいまつの明かりだけが頼りの洞窟へ足を踏み入れた。
思ってたより書いてた短編が長くなった……。
今日と明日に分けて六話だけ投稿しようと思ってます。
『アルターレゼル』というタイトルで投稿するのでよければ、よろしくお願いします。




