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第一話 キャラメイク

 俺が今いる場所は真っ白な空間。


 目の前には横と縦にラインの入ったワンピースに痛々しい髪色――ショッキングピンクの女が一人。それが浮遊するSFチックな椅子に座っている。


「ようこそ。仮想と現実が入り混じる世界、アウターワールドへ。四年振りのログインを嬉しく思います。東雲コウ様――アバターネーム、hack様」

「……久しぶりの再会だが、悪趣味な髪色だな」

「では、こちらでいかがでしょうか」


 こいつがパチンと指を鳴らすと、どぎついピンクが毛先から星が零れるエフェクト付きで黒く変化していく。きっとこれを以前から考えていたのだろう、と思える完成度の演出であった。


「最初からそれでいいんじゃないか?」

「はっはっはっ。ここはクソゲーな現実世界(リアルワールド)ではありません。夢と希望の詰まった神ゲーの仮想世界(アウターワールド)、どんな姿をしようと文句を言う外野はナンセンス。……だというのに『目が痛いから受付AIの髪色を変えろ』だなんて、失礼だと思いませんか?」


 棒読みで過激な事を言う受付嬢に懐かしさすら感じる。


 しかし、ここで何時までもこいつの漫才に付き合ってるわけにはいかない。


「どうでもいい。それより新しいアバターでログインさせてくれ。『前』のアバターは使わない」

「了解しました……ちっ」

「聞こえてるぞ」

「なんのことでしょう?」


 白々しい顔をしてAIは半透明なウィンドウを操作して、俺の前にも似た物を呼び出す。


「アバター作成の初期設定を行います。初心者(ニュービー)にするような手厚いフォローはご希望ですか?」


 ジャンクフード店のアルバイトみたいなスマイルを向けるAI。俺はにっこりと笑みを返し親指を下に向けて、


「ノーサンキュー(黙ってろ)」


 と、拒絶する。


 お前が初心者だった俺に間違った知識を教えた事は覚えているんだぞ。そう笑顔に込めて睨みつけるがAIは意にも介さない。


 これでクレームは来ないのか疑問に思った昔の俺は、他のフレンドに尋ねたことがある。


 フレンド曰く、「普通に人間と変わらない応対だったけど?」


 それを聞いた俺はすぐさま運営にクレームを入れたのは言うまでもない。その後もウザイAIは俺の受付担当を続け、もはや愛着すら持ち始めていた。


「あらあら、コウ様。また生産職を選んでくれるのですね」


 見た目の設定をさくっと終わらせキャラのクラスとスキルを選んでいると、AIが無表情に戻り背後に『にやにや』と文字を浮かべている。


 俺が選んだクラスはクラフトマン。取ったスキルは鍜治・ガンスミス、武器は短剣・拳銃だ。他にスタイルに合わせたステ―タス強化と生産に必須な鑑定を取る。


 アウターワールドでは三つの世界が存在する。その中でもスキルシステムを使えるのは『剣と魔法の幻想世界ファンタジーアウター』と『銃と兵器の現代世界ガンナーズアウター』の二つだ。


 クラフトマンは二つの世界共有のクラスとなっており、スキルはそれぞれの世界で使い分けることができるようになっている。


 尚、企業が企画するプライベートワールドも存在し、基幹システムはこの二つの公式サーバーと同様の物を使っている。


「ナンバーズの事を考えたら、俺の選択肢はこれ以外にないだろ」

「それはクラフトマンをお勧めしたワタクシへの遠回しな感謝ですか?」


 待ってる間やることのないAIは髪を弄りながら時間を潰している。髪色を変えたり髪の長さそのものを変えたりだ。仮想世界だからこそできる遊び方だが、自由人すぎる。


「都合の良い耳なことで、『最終的に最強なのはクラフトマンですよ』ってアドバイスには感謝してるよ」


 おかげで序盤の戦闘には随分苦労させられたさ。俺が負けず嫌いってのもあるが、アバターの作り直しをしなかったのはこいつに笑われるのが許せなかったからだったか。


 現実と変わらないシミュレーターの世界は、怒りで血管がピクピク痙攣する俺の動きすら再現しているだろう。


「復帰勢は説明が少なく済むので助かります。手の掛からないお客様は楽ですね。スタート地点はどこになさいますか?」


 人間に奉仕するために生み出されたAIがOLみたいな事を言いながら、三つの世界の紹介ムービーのウィンドウをこちらに向ける。


 バカデカいタワーと未来風の都市が映る、運営本部と世界間の交流の場である市場が存在する非スキルシステムサーバー『セントラルシティ』。


 このサーバーは初期リスポーンに選んでも意味がない。これもこのAIの悪戯だ。


 次が現代に近い街並みに乗用車を踏みつぶしながら前進する戦車の爆炎、それを追うヘリコプターの絵が映る無法都市『ロキ』。


「――アテナだ」


 俺が選んだのはそのどちらもでもなく、ドラゴンと人間が対峙する剣と魔法の幻想都市である。


「あら、古巣である無法都市でなくてよろしいので?」


 このAIは分かっていて聞いている。短くない付き合いなんだ、顔を見ればどっちかわかるさ。


 俺が何のためにここへ帰って来たのか知っているんだろ?


「まずはあいつを迎えに行くつもりだ」


 そう答えた俺に、AIは演技ではない素の笑顔を見せる。


「そうですか。――では接続いたします」


 カスタマイズ前の無機質で白い部屋に不釣り合いな、装飾が派手な扉がインストールされる。この扉の先は『あの世界』だと思うと不安と一緒に冷めたはずの熱を感じる。


「久しぶりに会えて嬉しかったよ、アリス」


 AIアリスに背を向けたまま、俺はいまさらな再会の言葉を掛ける。


「こちらも、四年振りに楽しい会話をさせていただきました。おかえりなさい、Hack様。――いえ、カオル様」


 きっとあいつは、いつものように深々と頭を下げて見送っているんだろうな。


「let's enjoy the game」


 俺は自然と口からいつもの口癖が出る。そして振り返ることもなく扉をくぐった。

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