第三話 電脳少女と狼少女
「帰って来たか、ご主人」
「当たり前だろ。不安だったのか?」
「まさかっ、ご主人はわらわを置いて行かぬだろう?」
アウターワールドに数日振りのINをした俺が、最初に見たのはアウラの顔だった。アウラはボロボロになった黒のドレスは着替えて、今はメイド服のような装備に代わっている。
「まずは外に出るか」
「うむ。わらわは久々の外出になるのかのう?」
「体にカビが生えなくて良かったな」
「まったくじゃ」
フレンドリストを確認するとトモエがログインしていた。場所はアテナにいるみたいだ、とりあえずあいつらの所にいくか。
俺が「今からそっちにアウラと向かう」とだけメールを送って、俺らはダンジョンの外に出た。
木島さんもせっかくなら通行の便が良い場所にアバターを移してくれても良かったのに……。律儀に最後に居た場所でログインさせられた。すぐそばに帰還の転移装置があったから手間なんて合ってないようなものだが、なんとなくため息が出てしまう。
そんなわけで北部都市からさらにアテナへ向かう帰り道。アウラは何度と俺の身長を確かめている。
「ふむ、成長したな、ご主人」
「何度も言わなくてもわかってる」
四年前は比べるまでもなくアウラより低かった頭が、今では彼女が少し見上げる位置にある。AIであるアウラにとって、それは不思議な現象なんだろう。
だがしかし、そんな近くで見られても俺が困る。ここは通行人の多い人通りなのだ。
大量に突き刺さる鋭利な視線に俺はうんざりする。並んで歩くアウラはそれに気づいていないのか、気づいていて無視しているのかは不明だ。
見ただけじゃプレイヤーかそうでないかの判別がつかないから穏やかなもんだが、こいつがAIだと知られたら面倒になるんだろうな。
「わらわはわからんのだ。確かに一緒に居た二年でご主人も成長していた。しかし数年、会ってなかっただけでここまで変わるとはな。――で、これからどうするのじゃ?」
中学生から大学生の成長に困惑し続けるアウラはそれを置いて、今後の予定を尋ねてきた。
「いきなりだな。今後の目標という意味なら、とりあえずは装備を揃えるところだ。ワンダーフェイス以外のナンバーズを探すにもこの貧弱装備では話にならん。直近の――って意味ならトモエに会いに行く」
「ほう、トモエにか? 懐かしいのう。他のメンバーにもはよう、会いたいものだが?」
アウラの顔は笑っているが、目は笑っていない。皮肉交じりの棘でこちらの脇腹辺りをちくちく刺してくる。
「わかってる。もちろん近いうちに会いに行くつもりだ。ただアイツらに会ったら絶対面倒事が起こる、フルーツてんこ盛りのパフェを賭けたっていい。だから先に装備を整えるべきじゃないか?」
「確かにな、わらわが作られた時よりもさらに貧弱よ。わらわの武器がハンマーしかない、この頼りなさ。ご主人には早く甲斐性を見せてもらわんとな」
俺がやらかしたことはアウラにも話してある。あの事件の後、俺がクランのメンバーに何も言わず姿を消していた話をだ。
「ご主人は大馬鹿者じゃのう。――わらわの言う大馬鹿の意味も正しく理解しておらぬだろうしの」
と、アウラには呆れられた。どういう意味だと問いかけても、アウラは首を振って「気にするな」とはぐらかすだけだった。
俺は俺でインベントリを確認していて、それどころではなかった。
なにせ――、
「偽アウラめ、片っ端から装備を取り込みやがって。あのモヤの正体は気になってたが……まさか俺の作品の残滓だったとは」
俺は失った物の大きさを思い出して、路傍の石を蹴る。
結局、俺のアイテムの大半は戻ってこなかった。どうやら偽アウラは俺のアイテムを使ってあのモヤを作ってたらしく、データ量の大きいものほど優先して分解されたようだ。
「偽アウラというネーミングはどうにかならんかのぉ。アウラと言われるとわらわは悪くないのにドキッとする」
「名前なー、さてどうしたもんか」
俺は木島さんの用意した卵型の隔離用保管箱を取り出し、中からこちらを睨んでる気がするあいつの意識を読もうとする。
――!
徹底したセキュリティは外に出ようとする彼女の干渉を弾き、せめてもの抵抗か激しく明滅している。
「だめだ、会話にもならねえ。このまま装備に作り直すのは難しそうだ」
「また暴走されたら困るぞ?」
アウラが覗きこむと彼女は明滅をピタリとやめて、優しく明滅し始めた。
「今度はア・イ・シ・テ・ルのサインか?」
「これがジョンの言ってたヤンデレという奴なのかの……」
ジョンには疑ったことを謝る。だがそれとこれとは話が違う。何か変な単語を教えてないか、じっくり姉御も交えて話し合おうじゃないか。
「どうしたんじゃ?」
「いや、ジョンはお前の教育に悪かったんじゃないかって後悔してるところだ」
「ご主人が一番悪いと思うがのう」
「おいおい、俺は至って健全だぜ」
その辺りはしっかり姉御に釘を刺されていたからな。地獄の説教三時間コースはノーセンキューだ。
「ふむ、――GOで一番効率的な金策は?」
「銀行強盗のはしご」
「FOなら?」
「ドラゴンを生きたまま剥いで、治療を繰り返す。あとは適当にクラフトして売りさばく――だった」
いやー、懐かしい。
今だと対策されてできなくなったが、昔は素材を剥いでは治療をして稼いでいた。当時はその前に十分な在庫を抱えてたから問題なかったが、今はなー……ハハッ。
「カオルさん! 十分に教育に悪いですよ!」
「よう、ルルエッタ」
目的の人物が現れた。
俺も一度アテナに戻るつもりだったのだが、ルルエッタは待ち切れず北部都市のワープ装置前にまで来ていたのである。
「んん? お主……まさかトモエか!」
今は金髪犬っ娘獣人のアバターを使ってるルルエッタだが、昔は着物の似合う日本人形みたいなアバターだった。
アウラがルルエッタをトモエだとわかったのは――話し方が昔に戻ってるからだろうな。
「お久しぶりです、アウラローゼさん」
「おまえ、今の喋り方に戻したらどうだ。無理してんじゃねえか?」
「――うぐっ、無理なんて」
高校デビューであの喋り方になったのか、素がそっちだったのか。この反応は後者か?
「トモエ――、今はルルエッタだったか? の好きにせい。今さら口調でどうこうなんて間柄でもなかろうて」
「わかったわよ」
ルルエッタは一度深呼吸して仕切りなおすと、
「久しぶり、アウラ――会いたかったわ」
と、アウラを抱きしめる。
「は、ははは……ひぐっ……。それは、卑怯ではないか。トモエ? ……わらわもっ、会いたかったの……じゃ」
アウラは肩を震わせる。
今どんな顔をしてるのか、それを言うのは野暮だろ?
「で――元凶はこれを見てどう思ってんのかね」
俺は握ったままの黒いコアに語り掛ける。
ふむ……戸惑ってる、と。これなら改心は可能――と思いたいな
俺は二人が満足するまで、静かに待ち続けた。
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これからはのんびり更新していこう……。




