第二話 次のイベントは?
燃料を投入されたら止まれないんじゃー
評価、ブクマ、ありがとうございます。
アウターワールドのロビーにはいつものようにアリスが待っていた。
「おかえりなさいませ、カオル様」
今回は金髪ロールのお嬢様風にしている。シルフィが良い所のお嬢さんなら、こいつは悪役令嬢か?
生粋のお嬢様を見たあとだとコスプレにしか見えないな。
と、思っていると嫌な予感がする。
アリスは口を小さく開いて、「ほほう?」と呟いた。
これはいつか何かやらかす。それが分かっていても回避のしようのない俺は、大人しく未来の自分に任せることにした。
「俺にも椅子を出してくれ」
今日はすぐにログインをせず、アリスに聞きたいことがあると話せる場所を頼む。
「おや、お茶のお誘いですか?」
「不本意ながら、だがお茶はおまえじゃないと出せないだろ」
「お誘いいただけるだけでもワタクシも嬉しいのです」
アリスがウィンドウを操作してポチっと画面にタッチすると、彼女の使ってる椅子と同じモノが出てくる。ついでにテーブルも――しかし位置がおかしい。
「おい、近すぎだ」
椅子の位置はアリスの目の前、膝を合わせるような距離だ。
「いえいえ、まさかそんな邪まな気持ちなんてないですよ? 安全のためにカオル様から離れた場所に用意しただけです」
これは当然なのです、とでも言いたげにアリスは椅子をちょんと押した。
滑るようにスライドしてきた椅子を受け止め、
「嘘だろ」
と、俺はため息と一緒に溢す。
「椅子の中にいる、のほうが良かったですか?」
「テメエッ、ぜってえ遊んでるだろ!」
HAHAHAHA、
無表情なままアメリカ人みたいな笑い声を出すアリスは、俺に「お飲み物は何になさいますか」とコップを出して尋ねてきた。
「コーヒーでも、紅茶でも何でもいいさ。いや待て――なんでもいいって言うと碌でもないモン選ぶだろ。麦茶だ、普通の麦茶にしろ」
「チッ、勘の良い男性は嫌いです」
「よし、その用意してる茶やら、青汁やらはお前が責任を持って飲み干せよ?」
俺は空のコップに濃緑の液体を並々と注ぎ、口だけ尖らすアリスに差し出す。
青汁を受け取るだけで飲む気の無いアリスは指を鳴らして、コップごとコーヒーに入れ替えた。
「ちょっとしたお茶目ではありませんか。それでワタクシに何か聞きたいことがあったのでは?」
いつのまにかテーブルには麦茶が用意されており、彼女は「こちらをどうぞ」と手で示す。
「――夏イベの告知があるだろ、見せてくれ」
「ご自分でお調べにならなかったのですね」
「お前に聞かないと、あとで拗ねるだろ?」
基本的に、こいつは頼ってもらえないと拗ねる。今回も俺のアバターが使えなくてINしなかったから甘えているのだろう。
それがわかると、アリスの悪戯も可愛い物だと思えてくる。
「へっ? ――あ、ありがとうございます。こちらが今年の夏イベの前半戦と後半戦となります」
サバイバルイベント、遭難した無人島で宝探し。『トレジャーハント in 怪物島』
と、
ホラーイベント、都市まるまる一つ使ったゾンビパニック。『リターン ザ ゾンビパニック~~開発者の復讐~~』
「なあ、なんか後半戦に余計なモンが憑いてないか?」
俺の後半イベントのタイトルに付いてる異物を、無表情でドヤ顔という器用な真似をしてるアリスに聞く。
「そちらは開発陣が寝る間も惜しんで作った都市をドミノ倒し会場にされた怨みを、私が付け足しておきました。ご安心ください、他の方には通常のHPをお見せしますので。ワタクシ、徹夜で用意しておいたのです」
「公式告知にまで悪戯してんじゃねええ!」
やべえ。アリスがここまでできるってことは、開発陣はかなり怒ってんじゃね? 確かあの時はゾンビに毛が生えた程度のクリーチャーだったが、某ゲームみたいに追跡者を派遣してこないよな?
よし、不参加決定。ゾンビ物に多少耐性を付けたとはいえ、わざわざ参加する必要性も感じないからな。
「ガンナーズアウターの方は不参加だ! サバイバルのほうについて教えてくれ」
「かしこまりました。――開発陣から『参加しねえのかよ!』と悲鳴が届いてますが?」
「……サーセン」
過去の都市を壊滅させた行ないに、大人となった俺は開発スタッフの方々に心の中で土下座するのであった。




