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第一話 仮想世界の不夜城

おかげさまで日間VRゲームで72位に入れました。

初めてランキング入りしたのに更新無しなのも……、ということで1話だけ更新して月曜までお休みします。

ポイントを入れてくださった方々には感謝の言葉の言葉しかありません。

 仮想の街にも夜は在る。


 ここはオンラインゲーム用であるアウターワールドとは異なる、日本の仮想世界サーバー。


 現実と変わらない、有名ブランドが作ったバーチャルの服をリアルのお金で買う。そんな今時の若者たちは仮想の街を練り歩く。


 仕事帰りのサラリーマンが同僚を連れて居酒屋に、

 カップルはお洒落なイタリアンでデートを、

 学生達はジャンクフード店で時間いっぱいお喋りを、


 そんな多様なリアルが大通りを彷徨っていた。


 そこに一人の男が迷いの無い足取りでずんずん歩いていく。その男はとある看板を見つけて、そちらに進んでいく。


 沢山の通行人が使うメインストリートから少し外れた立地、そこに隠れ家のような趣のお店が一店。看板には『BarAmour』と書かれ、その上には本日貸し切りとの文字もある。


「邪魔するぞ」


 一九〇cmはあろう身長と刈り上げた短髪を赤く染めた男。シャツの半袖から伸びる腕は筋肉質ではあるものの細マッチョの範疇にある。


「いらっしゃい、グレン君」


 男がバーの雰囲気に合った聞き心地のいい鈴の音を鳴らして中に入ると、瑠衣がカウンターの向こう側に立って居た。ここは彼女の仮想空間に持つ飲食店の一つで、彼女が経営するアムール系列の一店舗である。


 大人の隠れ家的な雰囲気を重視した、静かにお酒を嗜むための飲酒店。それがこのお店のコンセプトであり、純粋にお酒を楽しみたい紳士淑女が集まる人気店であった。


「久しぶり……だな、ドーラ」


 瑠衣はドーラと呼ばれた。それが彼女のアウターワールドでのアバター名であった。


 瑠衣は赤髪の男、グレンのリアルアバターの容姿を今日初めて見た。そしてその姿を何度も確認して、驚きのあまり大きな声を上げる。


「ちょっと――、あなたもゲームアバターを全然弄ってなかったの!?」

「ああ? 髪と目は染めてるぞ? リアルだと茶髪だな」


 グレンは「あなたも」という言葉に違和感を感じながら話を続ける。


「そういうことじゃなくて――まんまゲームのグレンと同じじゃない」

「なんだよ、オレがアバターの容姿に時間をかけて弄る男だと思うか?」

「AIの自動調整に任せるだけじゃないの」


 瑠衣は名前の通り紅い髪を弄りながら「ズルくない?」と呟いている。


 ゲームアバターは弄ると不自然さが出て来るのだが、全く触れないのもそれはそれで仮想世界では逆に浮いたりするものだ。


 グレンにそんな印象がないのは、彼の容姿が整ってるからだろう。


「確かに――、これで実は名門大学に通ってるなんて見た目詐欺も良い所ですよ」

「そうそう。俺、大学に確認取ろうか迷ったぜ?」


 貸し切りのバーにはグレンと瑠衣以外に二人の男が、すでにアルコールの入ったコップを傾けていた。


「ドレイクとジョンか。他の連中は?」


 グレンはカウンターに座る見知った二人の男に気づいて、自分もその隣に座る。つい最近二十歳を祝うという名目で、彼らに居酒屋のハシゴに付き合わされたばかりなのをふと思い出す。


 この二人は約束の時間より早く来て、一足先に酒盛を始めていたのだ。


「ゲームやらリアルが忙しいだとさ」

「納得だ」


 ドレイクは眼鏡をかけたスーツ姿の三十手前のサラリーマン。ジョンはドレイクの大学時代の後輩で、今日はオフだったらしく私服姿だ。


 この仮想都市ではアウターワールドなどのゲームより、さらに現実に近い。着替え一つとっても、インベントリを操作して一瞬で――なんて風にはいかないのである。


 リアルに近いほうが現実と同じ法律(ルール)を適応できたり、慣れる時間を必要としないからだ。


「――で、仕事が忙しくてINできなくなってた姉御が二年か三年振りになんの用なんだ。まさか、今さらこのメンバーで酒が飲みたくなった……なんて理由じゃないだろ?」


 バーの椅子に座ると、待ってましたと瑠衣がお酒を注ぐ。ちゃっかり一番強い酒を入れる辺り故意犯なのだが……、グレンは何も気にせずそのまま喉の奥に流し込む。


「俺はそれでも構わないっすよ、姉御に呼ばれたら馳せ参じないと」


 思ったより強かった酒に咽るグレンを笑いながら、ジョンは冗談めかして冷やかした。それを聞いたドレイクがため息をついて釘を刺す。


「ジョン、お前は最近結婚したばかりだろうに。私も妻と一緒に、式に参加したのを忘れてないか?」

「変わらないわね、ドレイク君も、ジョン君も、グレン君も――。それからHack君も」


 さらりと告げる瑠衣の言葉に、ジョンが立ち上がる。


「リーダーに会ったっすか!? ――とわっ、つめて!」


 ウィスキーを溢したジョンに瑠衣はタオルを差し出し、「ええ」と頷く。


「今年の春にね。東京のアムールの近くにある大学が彼の進学先だったのよ」

「そうかよ――リーダーがねえ」

「Hackは何て言ってた?」

「それは本人から聞いたほうがいいわ。最近アウターワールドに帰って来たそうよ」

「別垢っすね……」


 フレンドリストはINする度に確認してるジョンは、一度もオンラインにならないHackの表示にそう呟く。


「アウラちゃんも無事に帰って来たわよ」

「なっ、マジか! ってことはやっぱりクランのアイテムだけじゃなくて、アウラも行方不明になってたかあ」


 木島瀬里から聞いた話を瑠衣はこの三人にも伝える。彼らもすでに無関係なままではいられないからだ。


「近いうちにあなた達にも謝罪にいくと思うから楽しみにしてなさい」

「リーダーがか? そりゃなんでまた」


 昔の記憶を思い返していたグレンが、口を開く。その顔は「仕方ねえ親友だ」とでも言いたげだが、言葉の端々に喜んでいる感情が滲んでる。


「どうせ、俺達を犯人じゃねえか疑っちまったからとか抜かすんだろ。いつも『そんな小さい事気にすんな』って言う癖に、自分はどうなんだよ」

「ふふ、でも嬉しいんでしょ?」

「当然だ。また派手に喧嘩できるなら最高じゃねえか。あいつも結局俺らと同じ勝負師なんだよ。この身を焼き尽すようなギリギリの戦いを心の何処かで求めてる。だから俺達は必ず再会する。俺達以上に魂を滾らせて戦える相手は見つからないからな」


 グレンはそこで一度話を切りドレイクとジョンを見て、


「――そういえば、俺らあいつにビルと一緒に潰されたのを忘れてねえよな」

 

 と、白い犬歯を見せて笑みを浮かべた。


「おっ? やるっすか? 復帰祝いに盛大なお祭りやっちゃう?」

「遊ぶのは良いけど、あなた達アレはどうするつもりかしら? 瀬里からは送り付けてくれて構わないと言われてるけど?」


 自分達に送られてきたとある装備、それに関して瑠衣が確認する。


「このままセクター2とやらを木島に渡して、はい解決――なんて思ってないよな?」

「俺ら、オーバーセンスの合言葉は『ゲームを全力で楽しむ』――だろ?」

「そうだ、なら最後まで言う必要はないな」

「良いね、俺と先輩、グレン――それからリーダーの四人。誰が勝つか。全力で遊ぶか」


 不在のリーダーを無視して話を勧める三人、彼らは過去の夏イベントでやられた恨みを今年の夏イベントで晴らそうとしているのだ。


 そんな男達の悪巧みに、蚊帳の外な瑠衣は少し拗ねている。


「あら、私は入れてくれないの?」

「姉御はそもそもアウターワールドに来てねえじゃん」

「そろそろ復帰しようと思ってたのよ。社員も大分育ってきたし」

「若社長は大変だな。それでは5人で勝負といきますか」

「ふふっ、そうしましょう」


 どうやって出し抜いてやるか、すでに戦いは始まってる。


 四人は新しい酒を注ぎながら、悪巧みに頭を働かせるのであった。


 なお、最初に酔い潰されたのはグレンだったのは言うまでもない。戦いはバーに入った時から始まっていたのである。


ここだけ三人称になったのはこの頃に「戦場帰りの少女は恋を知った。」を書いていた影響です。

個人的には一人称より三人称で書きたくなるなぁ。

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