エピローグ 後半
前半において、アウラが保管されていたのがセクターの番号を修正しました。
これにてメイク1終了です。
三日ほどお休みをいただき、メイク2を来週から再開しようと思います。
いつも一区切りまで書いて投稿するので、若干不安ですが――。
氷とガラスがカランカランと音を鳴らして、コーヒーとミルクのマーブル模様が崩されていく。
俺はマドラーでアイスコーヒーをかき混ぜながら、その名前を頭の中で反芻する。
木島幸一郎。
木島という苗字ってことはこの人の身内のはず……。ああ、なるほど。確かに俺もよく知る人物だった。
VRゲームが好きな人間なら、足を向けられる人物じゃない。なぜなら、この人は――、
「たしかビジター社の初代仮想世界総責任者、AIの管理者って言ったの方が正しいでしたか。今の仮想世界を生み出した偉人、って認識ですが? 三代目管理者殿」
「そうだ、そして私の祖父でもある。身近に偉大な身内を持つと苦労するものだ……それでAIは誰が作ったと思う?」
「あなたの祖父殿……ではないようですね。ビジター社の社員か、あるいは外部委託では?」
ビジター社の管理AIは優秀だと業界でも有名と聞く。
たった10体のAIで全世界に存在する仮想世界を管理してるらしいのだ。スーパーコンピューターも所有しているとはいえ、頭がおかしくなりそうな話じゃないか。
「ある意味祖父が作ったともいえるが、正解は拾っただ」
「……『拾った』ですか。捨て犬や猫じゃないのですから、ダンボールに入れられてその辺の道路にでも置かれてたとでも?」
自分で言った事に、ダンボールの中で丸まってるアウラの姿がふとよぎる。どうやらそれは正しいイメージだったらしい。
「貴様の巨乳エルフから聞いてないのか? お前に拾われる前の話をだ」
自分の胸に一瞬視線が行った木島さん。俺はそれを見なかったことにして、昔聞いた話を思い返す。
「何もない空間に彷徨っていた、と。まさか管理AIの連中もネットワークで放浪してたデータを基に?」
「基どころか、プログラムには一切手を付けていないはずだ。一応、うちのトップシークレットだから、外には洩らすなよ」
まさか世界の情報社会を支える管理AIの出所がネットの海だったのか。
それとプログラムに手を付けてないのではなく、出せないのだろう。
管理AIはビジター社で作られた――その体は守らなくてはならない、でなくては大企業の信用が揺らぐから……。まさか自社のAI技術のブラックボックスの中身を存じてないとは口に出せまい。
「なぜビジター社はそのような暴挙に?」
木島さんはコーヒーを口に含み、少し間を置く。
「始まりは祖父が仮想世界に迷い込んだ知的生命体の卵を見つけたことだ。木島幸一郎はその後も捜索を続けた結果、三十体にも及ぶデータの集まりを収集した」
「それをそのまま仮想世界の管理AIに流用したわけですか」
「もちろん最低限の調査はしただろうがな。残念ながら祖父と当時の経営者が何を思って彼女らを仮想世界の管理AIに使ったのか私も知らん。しかし暴走の可能性を考慮しなければこれほど最適なAIもいなかったのも事実だ」
おそらくはAIの性能を知り、その誘惑に抗えなかったのではないだろうか。
アウラを見ていればわかるが、一般に普及してるAIなんて比にならないほどの高い知能を持ったAI。彼女達の存在が無ければ、仮想世界はもっと狭い世界でしか実現できなかっただろう。
「さて電子の世界で見つけたAI達だが、その特殊な発生からビジターと名付けられた」
「三十体って、待ってください。ビジターってもしかして――」
「そうだ、ビジター社の由来でもある。ビジター社は最初VR技術を開発していた企業だった。それが祖父の開発した仮想空間技術とビジター達の力によって、瞬く間に仮想空間を活用した新たな社会形態を造り出し世界有数のトップ企業になった。改名したのは仮想世界を社会に公開する少し前だな」
木島さんは軽く咳払いして「今は関係ない話だ」とビジターの話に戻る。
「祖父は見つけた三十体のビジターを調査し、彼女らを三つのグループに分けた。セクター1、外部からの刺激に一定の反応を――それも友好的なコミュニケーションを図ったモノ達。これが管理AIに当たる。そしてお前が持ち去ったセクター0、これは――」
「待ってくださいよ、持ち去ったとは言いがかりでしょう。俺はゲーム内で正規の手段で拾っただけです」
別に俺は悪事……ごほんっ、ゲームのルールはきちんと守っている。それなのに持ち去っただなんて言われる筋合いは無い。
ナンバーズのオーバースキル? 運営だって何も言わないから、仕様です。
しれっと言い放つ俺に木島さんは呆れている。彼女はアウターワールドを含む管理AI達の責任者、知ろうと思えば俺の普段の行いを知れる立場なのだ。
「バグなんだよ。あの保管箱はシステム管理者側の操作か――内部からの操作でしか開かない。お前が触れただけで開いたって証言はありえないからな」
「なら内部から開けたんでしょう?」
「だから最後まで聞け。セクター0のビジターはコミュニケーションが『取れない』ビジター達が保管されていた。自発的に行動を取らない連中だったんだ」
なるほど。木島さんには話してない俺の能力があいつらとコミュニケーションを可能にしたわけか。
どうにも、俺の周りにはそういった能力を持った連中が集まるんだろうか。
グレン達の人外の力とアウラ達のシステム外の力。
ここまで偶然が重なると木島幸一郎の思惑じゃないのか疑いたくなる。
「ならなぜ、あんな場所で保管をしていたのですか?」
「さあな、ビジターの研究は祖父一人でしていた。その研究もセクター1のビジターが引き継いで、私も完全に理解してるわけじゃない。――ただ個人的な推測が正しいなら、成長の為だろう」
「成長……」
あの場所は外部ネットワークと繋がっており、世界を覗けるようになっていたらしい。
「人間を知る、それがビジターの成長に必要なのではないかと私は考えている」
あそこはビジター達を育てる人工子宮だったわけだ。
「そしてアンノウンの出所である――セクター2、こいつらは人間に対して攻撃的な連中だ」
「いきなり物騒な話になりますね」
まるでSF小説みたいな話で現実味が無い。そもそも電脳上で漂うデータが知的生命体になる事自体、俺には理解できないってのに。
いや、アウラを作った俺が言える話でもないか?
「奴らはコミュニケーションを図ろうとした結果、――拒絶、あるいは危害を加えてきた。それゆえセクター2と呼ばれる隔離サーバーに保管されていたはずだ」
「それがなぜアウラを襲うことになったんですか。隔離ってことは他のサーバーに繋がっていないのでしょ?」
「セクター1のビジターの仕業だ。私が不在の間に、部下に指示して隔離サーバーを動かしていたみたいでな」
「おい、最高責任者」
この場合は部下の方に問題があるのだが、それも含めての責任者だろ。
被害を被った俺らは怒ってもいいよな?
「そんなモノ、名ばかりだ。ビジター社は実質AIの企業と化している」
「そんなバカな話が――」
「人が働くのは地位か名誉、あるいは金のどちらかだ。中には趣味の延長だと言う者もいるが……な。さて、人はスパコンを使いこなすAIに会社経営で勝てると思うか?」
疲れた表情の木島さんに俺は首を振る。
今のビジター社の影響力を見れば答えは明白だ。
「安定した生活を求める社員はAIに会社の舵を委ねる。地位や名誉が欲しいモノは適当な椅子に座らせればいい。なにせビジター社は巨大企業、いくらでも席は用意できる」
会社として、あまりにも異常だ。それじゃあAIに飼われる家畜だろ。
けれど木島さんの目は、とても冗談を言ってるようには見えなかった。
「それでセクタ-2のビジターをお前の所に送り込んだ理由だが、AIの設計図を手に入れるためだと私は推測している」
アウラは数十年ぶりの自我を確立したビジターである。過程を観測できなかった自分達とは違い、サーバー内とアウラ本人にその記録が残っているはずなのだ。その成長過程を調べれば、自分たちと同等のAIが量産できるかもしれない。
管理AIはおそらくそう考えているのだと、木島さんは説明した。
「強引な手段に出たのはセクター1のビジター内でもなんらかの、方針の違いによる内輪揉めだろう」
「方針?」
「私も直接聞いたわけじゃない。だが奴らの行動から予測するに、――支える立場でありつづけるか、――人間を管理する側に立つかだ」
前者は現状維持、後者はなんらかの革命でも起こすつもりなのか。
「人類を管理したい奴らは手駒にする高性能AIを作りたい……と。行きつく先は世界大戦、AIと人類が戦うってか? 悪い冗談だ」
「戦争になんかならんさ。AIに与えられた快適な社会を誰が捨てられる」
仮想世界で提供される娯楽、ショッピング、企業、行政サービス。
ありとあらゆるものに仮想世界が喰い込んでいる現代社会。その維持に必須なAIと一緒にそれらを切り捨てられるのか。もしかしたら既存のネットワークそのものを捨てなくてはならないことだって……。
俺は飲み切った事にも気付かず、持ち上げたガラスコップの中で氷がカランッと音を響かせた。
今回のお話は裏設定的なものです。一応次のオーバーセンスのメンバーが色々出てくるお話で一度終わりになると思います。
もしかしたら後々続きを書くかも知れませんが、三人称の小説が書きたいんじゃー




