第十九話 おかえり
「フザケルナ!」
真アウラは成長しても変わらない俺に安心したのか。あるいは偽アウラが正気に戻ってアバターを奪い返したのか。
偽物の方が表に出てきた。
「アウラは引っ込んだか。――で、何がふざけてるって言うんだ」
「ワタシのカラダをツクル? ソンナハナシがアルかっ」
偽アウラは怒りの形相で姿を変えていき、第二形態に入っていく。
黒いモヤは徐々に嵩を増していき、アウラの肢体を覆いつくしていった。
「まあ旨い話には裏があるとは言ったものだが、俺はちゃんとお前を酷使するとも言ったぞ?」
「ドウデモイイ! ワタシはこのカラダをツカウ」
「分からず屋だな。オーバースキル『クロックキーパー』」
――カチッ、
歯車と歯車が噛み合う音がした。今まで不動だった時計の針がワンダーフェイスによって動き始める。
ワンダーフェイスが自らの本懐である、オーバースキルの発動に歓喜するのが俺の異能を介して伝わってくる。
俺はそんな彼女の声を聞きながら、
「からの――『トライエッジ』!」
ワンダーフェイスを一度振るい、三本の爪痕を宙に刻む。
Numbers.Ⅰ『ワンダーフェイス』
こいつには上位の短剣スキルがエンチャントされている。スキルレベルが低すぎてほとんど使えなかった短剣のアーツも、今の俺なら数多く開放されている。
「――!」
「残念、ワンダーフェイスの斬撃は残り続けるんだぜ?」
三本の斬撃と偽アウラが伸ばした触手のように伸ばした黒い何かがぶつかる。――そしていつまでたっても消えない斬撃が触手を押しとどめ続ける。
偽アウラが知ってるかどうかはわからんが、これはありえない現象だ。
『トライエッジ』というスキルは一つの斬撃を三つに増やすだけの効果だ。決して振った後も当たり判定が残り続けるアーツではない。
「さあ、良く見とけ。これがナンバーズの力だ、『トライサイクロン』!」
ワンダーフェイスをその場でもう一度振り、アーツを発動させる。
使うのはクールタイムが終わってないはずの『トライエッジ』と、小さな竜巻を生み出すアーツ『サイクロン』。
斬撃を増やすアーツと斬撃の嵐を生み出すアーツ。仕様上有り得ない近接アーツの同時発動、これらを合わせると?
『サイクロン』が三つに増殖します。これがバグメイカーと呼ばれた本当の由来だ。
「驚いてくれる観客が居ないのは残念だ。で、どう避ける?」
さっき噛み付いた感触から、あのモヤは強度のあるものじゃない。斬撃の嵐に巻き込まれれば切り刻まれるだけだろ?
アーツエフェクトの隙間から、黒くなったアウラが触手を地面に叩きつけるように移動するのが見えた。
アレか! 触手の出処はやっぱり背中――。
背中の一点、首の少し下の背骨辺りにモヤが集中してる場所がある。第二形態になって、その存在感を隠しきれていない。
いや、隠すつもりなんてないのかもしれん。奪いに来るならそこで殺すつもりか。
なら、死中に活を――ってな。まあ、その前に回復が先である。
今の俺にとって負担の大きい上位のアーツを連発し過ぎた。
距離の離れた俺を捕らえようとする偽アウラの黒い触手を切り払い。その場から移動しながら、空になった精神力を回復するのにマナポーションを飲み干す。
アーツや魔法を使うのに必要な精神力を、俺たちはMPと裏では呼んだりするが。
その精神力のを今の体調から全快状態で使えるアーツの回数を頭で計算する。
ワンダーフェイスは短期決戦のナンバーズ、アーツの乱発が前提となる装備なのだ。MP関連の装備がないこのアバターでは超短期決戦すら厳しい。
床に転がる残りの消耗品の瓶も全部が全部、回復用ってわけじゃない……。立て直してからもう一度、なんてチャンスも限られる。
安全な位置から絶えず仕掛けてくる偽アウラの攻撃を捌き続けていると、ワンダーフェイスが僅かに振動する。
――堅実に戦おうなんて、つまんないこと言わないよね?
ワンダーフェイスは俺らしく戦わないことを憤っている。ようやく迎えに来たのに情けない所なんて見せてくれるなと、
ああ……、そうだったな。勝負を楽しもうぜ、ワンダーフェイス。
アウラの妹の叱咤で俺は勝率なんて野暮なモノ捨てて、後先考えず戦うことにした。
「そろそろお遊戯の時間は仕舞いだ。大人しく俺のモンになれ!」
「ウルサイウルサイウルサイ、ニンゲンなんてシンジナイ。ここからイナクナレェェエ」
駄々っ子のように泣き叫ぶ偽アウラは、今までの比ではない数の触手を俺に向けて差し向ける。
「『ダブルハンド』――そんなつまんねえこと言うなよ」
アーツによって増えた半透明な短剣を左手に握り、俺は二本のワンダーフェイスを交差させる。
「ワタシは――ワタシは、ずっとひとりだった。だからっ、ねえサマはワタさない、ねえサマさえいれば何もイラナイ!」
「――人間と関わるのが怖いか? ――期待して裏切られるのが怖いか?」
幾条の黒い帯が俺を囲む。このままなら串刺しになるだろう――、
「チガウ! ワタシはずっと見てきた! ヒトがウラギルのを、醜くアラソウのを! ドウグは最後には捨てられるっ。だからニンゲンなんてシンジチャいけない」
だから同胞であるAIのアウラを手に入れようとした。
こいつは寂しかっただけなんだ。
――けどよ、
「遠くから眺めてるだけで人間を知ったつもりになってんじゃねえぞ、根暗AI! アウラも――、お前も――、俺にはその声は届いてんだよ!」
――ここに来て、お前らが「タスケテ」って泣いてる声は届いてた。
「ナラここからキエロ!」
「うるせえっ、俺はアウラを作った――最強のクラフトマンなんだよ。人間を知った気になってるポンコツAIなんかに負けられねえんだよ!! 『アストラルシュート』」
――だから、こっちに来いよ。俺らと一緒に遊ぼうぜ?
二つのほうき星が真っ暗な闇を切り裂く。彼女に纏わりつく絶望を薙ぎ払うように、二筋の道を造り出す。
あいつは切り裂かれた闇から覗く星空を見上げた。天窓には優しく輝く月と星が見下ろしていた。
「『瞬身』!」
俺の視界が一瞬真っ暗になる。もう一度光が戻ると、後ろから金属の落ちる音と同時に俺は彼女の背後に着地する。
「ウシロ――!?」
「これで終わりだ!」
振り返った俺はアウラの背中――黒い宝石に手を伸ばした。
「トッタ!」
残っていた触手が俺の伸ばした『左腕を』切り落とた。
肘から先を失い、断面から赤いエフェクトが宙に舞う。
勝った――彼女はそう思って口を歪めるが、俺は切断された腕を右手でキャッチする。
目の奥の神経ががチカチカと激痛を伝えてくる。
最初から安全装置に期待なんかしてねえよ。こちとら奥歯噛み砕いてでも耐える覚悟は済ませてんだよ。
「『クイックユーズ』 エリクシル!」
血のように赤い液体の詰まった瓶が俺の目の前に現れる。それを口でくわえてかみ砕いた。
それはルルエッタから受け取ったもう一つのアイテムだった。回復アイテムとしては最上級のエリクシルは切断された腕をすぐさま元通りにくっつける。そして再び動き出した俺の左腕は彼女の核を掴んだ。
「ウソダッ、イヤ――! もう、ヒトリは――」
「あとで出してやる。だからそれまで――インベントリの中で反省してろ」
黒い宝石のような核を力ずくで引き抜くと、一瞬大きくアウラは痙攣する。
急に異物が排除されて、その場に崩れ落ちそうになる彼女を俺は抱き寄せた。
長い、長い間彷徨い続けてきた俺達はようやくたどり着いた。
「長い迷子だったな」
細い髪を退けながら、俺は四年前と変わらない彼女を見る。
「迎えに来るのが遅いよ――ただいま、マスター」
すぐに意識が戻ったアウラは再び瞼を開き、俺の顔にやさしく触れた。
アウラはほほ笑む。俺と彼女が出会ったあの日と同じ顔で。
「おかえり、アウラローゼ」
天窓から差す月明かりの下。涙の止まらない俺の姿をルビーによく似た瞳が映した。
明日明後日はエピローグとなります。
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