第十八話 許せないもの
ハンマーに触れた俺はすぐさまスキルを使う。
アウラが俺に所有権を移したからこそ使える裏技、それは――
「『クイックチェンジ』、アイアンダガー!」
「――!」
インベントリ内の装備と今手にしてる装備を入れ替えるスキル。これはルルエッタが二度目のフレンド登録の時に送ってきた、俺が最初に彼女へ作った装備のスキルだった。
『クイックチェンジ』は本来、所有権を持つ装備しか換装できないスキルなんだが、
さっき、アウラ――どっちもアウラだと分かりにくい。真アウラは所有権が曖昧になっていたHackの装備を俺に譲渡した。それにはあのハンマーも含まれている。
だから偽アウラの装備は触れていれば、『クイックチェンジ』で装備を取り返せるのだ。
自分がさっきまで振っていた巨大なハンマーが突然、壊れた短剣に入れ替わる。
それに驚いた偽アウラは「なんでー!」とでも言ってるのか、柄だけの短剣と割れた地面を交互に見る。
「随分と……まあ。動きがコミカルだな」
俺の言葉を理解してるな。これがアウラの姿でやってんだから、違和感しかない。
今度は「うっさいっ」って地団駄踏んでる。
それを見ながら離れた場所に転がる毒々しい紫色のポーションを拾って、俺はそのまま口にくわえる。
「あっ、毒っぽい見た目してるだろ? これ、ただのポーションなんだわ」
なお瓶にも毒物のマークがついてるが、ただ正規の瓶を用意するのを面倒臭がっただけである。
なんだか楽しくなってきたぞ。顔が見えにくいのが非常に残念だ。生まれたてのアウラもこれくらい素直な性格をしていたな。
偽アウラはハンマーの代わりになる装備が落ちてないか探してる。
「おっと銃に目を付けたか――素人に当てられるかな?」
俺の挑発でムキになった偽アウラはしっかり両手で狙いを定めてる。
さて、遊ぶのはいいとして。どうやってあいつの核を見つければいい……、怪しいのは背中しかないんだが。あの胸の中に埋まってたら、どうしたもんか。
絶対外してたまるもんかとタイミングを計ってる偽アウラに、俺はステップを刻みながら接近する。
そして、偽アウラは引き金に置いた指を動かし――、
カチッ! カチッ! と虚しいトリガー音だけが響く。
「――!」
「ぷっ……、アヒャヒャハヤヒャヒャ。残念っ――、銃は火薬式でも魔導式でも、マガジンが無いと撃てねえんだよ」
ああ、そうだ。アウラも知らないことがたくさんあった。お前がやらかしそうなことは手に取るようにわかるさ。
「――コロスっ!」
殺意の波動に目覚めそうな勢いで、黒いオーラを放つ偽アウラが周囲に黒いモヤを広げた。
顔を晒した偽アウラは初めて言葉を発する。真アウラも俺の煽りに同情したのかもしれない。
「おっ、ようやく喋り出したか。よく聞け、偽アウラ!」
俺は偽アウラに指を指して声を張った。
アウラやダチが聞いたら呆れるかもしれない――、怒るかもしれない――。けど俺にはこいつをただ殺すのは無理だ。
それに、これが一番俺らしい解決法だろ?
「テメエだけは絶対に許さねえ。だから――テメエの核を奪って、テメエの体を作る」
「「エッ?」」
般若の形相したアウラ達もこれには驚いて、声が二重に聞こえた気がする。その衝撃で真アウラが表に出てきたらしい。
「ご主人よ、どういう意味だ?」
「ああっ? どういう意味も、こいつもナンバーズにして俺の所有物として酷使するだけだが?」
「こいつはご主人を傷つけたんじゃぞ? それも安全装置を無力化して、苦痛を――」
俺がそんな小さい事を気にする男だと本気で思ってるのか? 俺が悔やんでるのは寂しがり屋のおまえを何年も、ゲーム時間ならさらに長い間一人にしてしまったことだ。
信用できる人間にアウラの捜索を頼んでいたとはいえ、あの光景を見てアウラの生存を俺も半ば諦めていた。
そう、俺は――、
「それがどうした。俺が許せねえのはおまえをずっと独りにした俺自身にだ。それ以外は――まあ、そっちも俺が悪いな」
「一体、ご主人様は何をしたんだ」
お前は怒るだろうな、俺が仲間に黙って姿を消したって知ったら。そん時は、そん時か。
「――とにかく、そいつは捕まえて道具として酷使するって決めたんだよ! なんなら、お前が使用用途を決めろ。便所の清掃道具でも、まな板でも、アジトの隅に放置されるアレな像でもなんでもいいぞ」
「ぷっ――、あははははっ、それはご主人様らしいのぅ。いいだろう、好きにしろ。それでこそ、わらわのご主人様だ」
だろ――相棒。お前が言ったんじゃねえか。――『こいつはわらわと同じ』って。
仮想世界で迷子になってたのはお前らだけじゃなった。ならこいつも俺が拾い上げてやる。
何か補足しようと思ってたはずなんだけど、ド忘れした。なんだっけ……




