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第十七話 アウラローゼ

 昇降機のレーンを上り切った俺はだだっ広い円状の部屋にたどり着いた。


 そこには卵の形をした保管箱が十個、壁に沿って均等に並んでいる。


 ここが――アウラ達、ナンバーズが居た場所。


「よう。四年振りだな、アウラ。実家に帰るつもりだったなら、一言残してくれよ」


 天井には星空が広がる。涙が出そうなほど懐かしい場所の中心に、黒いモヤを纏った美女が座り込んでいた。


 派手な装飾のないシンプルな黒いドレス、銀糸のように美しい髪。残念ながら声は聞けていないが、その心をくすぐるような魅惑的な美声は今でも脳裏で鮮明に再生できる。


 俺が人形師の姉御に頼み込んでデザインしてもらったアウラへの最初のプレゼントが、あのアバターだった。


 間違いねえ、あいつはアウラだ。


 虚ろな瞳をしていたエルフの美女の目に正気が戻る。


 信じられない、そんな目をして懐かしい声を上げた。


「マスター……? くっ、離れろ!」


 無防備に近づいた俺に、アウラは傍に落ちていたデカいハンマーを手に取る。


 Numbers.0


 彼女に付与されたスキル。――いや、システム外能力(オーバースキル)は『重量無視(ALL)』。プレイヤーに設定されたインベントリの制限を取っ払い、どんな重量も無視して扱う。ゲームのルールに縛られないスキル。


 あのハンマーも俺が作った、アウラ専用装備だ。


「避け、ろ――ご主人! こやつはわらわと同じだ、安全装置を無視するぞ」


 知るかよ。そんなもんで俺は止まらねえんだよ。


「ぐっ――。やっぱり俺の装備はお前が持ってたか」


 何者かにアバターの操作を奪われたアウラが俺を襲う。


「そうではない、なぜじゃ!」


 激痛が体を貫く。


 一定以上の痛みは安全装置が働いて軽減するはず。――しかしその機能を無視して、リアルな痛みが仮想の肉体に走る。


「なぜ避けぬ!」


 アウラの声が悲痛に響く。


 俺を串刺しにした黒いモヤがゆっくりと引き抜かれ、そのモヤには赤い水滴がべったりこびり付いていた。それをまるで口に運ぶようにモヤの中に消えていく。


 決して、アウラのハンマーに気を取られたわけでもなく、涙を堪える彼女に動揺したわけでもない。


「逃げるわけない……だろ。おまえはずっと孤独を耐えてきた。――今さら止まれねえんだよ」


 体中から噴き出す血も目に入らない、痛みすら今の俺にはどうでもいいものだ。


 そして俺はアウラの肩に触れた。


「バカマスターが……なら、わらわごと――このボディを破壊しろ! わらわとこやつの核は別じゃ。体を潰して核さえ確保すれば、あとはなんとでもなる」

「バカはお前だよ。ふざんけんなっ! 俺を誰だと思ってる!」


 再び襲い掛かるモヤを手で掴み、逆に俺が噛み千切る。


「最強のクラフトマンを舐めんじゃねえ……。こちとら、ようやくエンジンが温まって来たところなんだ。見せてやるよ、感動の再会に水を差すバカに俺の戦い方をよ」


 俺の言葉を聞いてアウラは俺に微笑みかけ、


「やっぱり、マスターのほうがバカじゃ。なら、わらわも戦わねばの――。ほれ、わらわの所有権をお主に移す」


 と、強引にアバターの操作を一瞬だけ奪い取り、口づけを交わす。


「俺が求めるモノはわかってるよな」

「当然じゃろ?」


 アウラが俺とそっくりなイタズラっぽい顔をして、そこら中へアイテムを落とした。これが残していた全力の抵抗だったんだろう。

 

「これで良かろう、あとは任せるぞ?」

「……おうよ」


 アウラの顔が黒いモヤに包まれていく。


 首より上が比較的自由だったのは体の主導権を優先していたからか。だが――なぜ今まで封じていなかったんだ? 


 俺はその疑問を感じながら地面に散らばる作品を確認する。


 落とされたアイテムはどれも懐かしいモノだ。


 その中に大剣型のナンバーズは無い――手持ちになかったのか、リスクが高いからか。――いや、そういうことか。


 最初に持っていたハンマーはインベントリからではなく、床に直接置いてあった。やつが奪ったのはアバターそのものの操作権限だけで、インベントリの中身までは干渉できないのか。


 アイテムの性能を見た目から推測するしかない奴には、見た目から危険物であるとわかるデッドエンドは真っ先に取られる可能性があった。


「――となると、ぱっと見で強さの計れない武器はっ」


 ワンダーフェイス!


 俺は今まで使っていた短剣と大きさの変わらない、軍用みたいなデザインのしたコンバットナイフを手に取る。


 ナンバーズはこれ以外転がって無さそうだ。


「――っ、『クイックステップ』」


 頭上から迫ってきたアウラが愛用していたハンマー。ミンチにするつもりで振り下ろされたそれを、さっき手に入れたばかりの軍服に付いた回避スキルで横に避ける。


 地面を叩き割った破片から手で顔を庇いなら、俺は地面に張り付いたハンマーをもう片方の手で触れた。


「そいつはアウラのモンでなっ、返してもらう!」


 ――許可なく、俺らのモンを使ってんじゃねえぞっ。


インベントリはアウラの管理下にあるとカオルは考えてましたが、常にアウラにあったわけではないです。ハンマーが手元にあったのはアウラが油断してるときに持ってきたからです。


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