第十五話 またですか
戦車砲の砲弾は大人が両手で抱えて持ち上げるほどの大きさがある。
それに対してダガーは長さ20㎝ほど。
砲身から飛び出そうとする、細長い砲弾は突き刺さったダガーと接触してその軌道に不具合が生じた。
僅か数センチのズレだ。しかしそのズレは定まったレールの上を走る砲弾にとって大きなズレであった。
ゾウがアリを踏み潰すように、ダガーは呆気なく潰される。修理すら不可能ななレベルで柄を残して粉々に砕け散ったのだ。けれども、レール内に入り込んだ異物は砲身に多大なダメージを与えることに成功した。
「あっれええええ? もっと派手に爆発しないの?」
地面に伏せた俺は照準のズレていった砲弾を確認して、頭を上げる。
「このバカック! そんな簡単に自滅するわけないじゃない」
「あっ……、徹甲弾に火薬なんて詰まってないよな。推進力も魔法式かも知れんし……、失敗失敗。まあ戦車砲の部分破壊はしたんだから十分だろ」
俺の思っていた結果とは違うが戦車砲を無力化することはできた。砲身にヒビが入った状態でもう一度砲撃することはできないはずだ。
スコーピオンのAIもこれ以上の使用は危険だと判断し、砲身のパージを選んだ。
ついでに内部にも多少のダメージが入ったなら儲けモンなんだが――。
「よし、このまま叩くぞ!」
俺とルルエッタは接近するチャンスだとすぐさま判断して、鋼鉄の蠍に向かって走り出す。
その最中もルルエッタはしっかりとアオイ達に指示を出す。
「アオイはそれで脚を集中的に殴って」
「はい」
アオイは剣から、ロボに有効そうな打撃武器のメイスに持ち替えている。そして俺に少し遅れてボスの方へ移動し始めた。
ボスも俺らに近づかせまいと両腕のガトリングを空転させている。
「私達は?」
「サクラとシルフィは両腕のマシンガンに気を付けて、遠距離攻撃!」
「わかった!」
俺達が掃射された魔法弾の雨の中、走って近づくと今度はミサイルランチャ―の発射口が開く。
「カオル! どっち!?」
「マナ誘導だ、回避は諦めろ!」
一度、雨が止まる。魔法攻撃とマナ誘導型のミサイルは仕様上同時に使えるはずがないからだ。
「アンタねえ!」
「俺に任せろって。こんな事もあろうかと――」
俺はアイテム用のショートカットスロットであるウエストバッグから魔石を取り出す。
「フレアの代わりだ、そいつは自分で喰らっとけ」
廃都市のスケルトンに使った即席爆弾を一つ、ミサイル発射口の近くに投げる。共鳴によって大爆発を起こした即席爆弾は、たったひとつではファイアボール一発分程度の火力しかない。
そのかわりに魔法的エネルギーであるマナを大量にまき散らすのだ。
小型のミサイルは外に出た瞬間、その高濃度なマナをターゲットと誤認して自爆してしまう。
可哀そうなスコーピオン君は武装の半分がすでに俺の手によって破壊されてしまったのだった。
「最初から、尻尾と両腕の武器以外は破壊する用意してたの?」
「これで三度目の対戦だから――対策は完璧に決まってるだろ。とはいえ、ここからが本番だ。次は腕の銃を潰すぞ」
部位破壊をしてからが、スコーピオンとの本当の戦いだ。
ここからは近接攻撃も増える。今も丸太のように太い金属の尾が、暴れまわった俺に向けられていた。
「はいはい、遠距離攻撃の手段を全部破壊したら、サクラとシルフィの遠距離攻撃メインに切り替えね」
「そゆこと。右腕と左腕どっちがいい?」
「じゃあ右貰うわ、アオイも左側は尾が来るから気を付けて!」
尾っぽをぶんぶん振り回して、スコーピオンは威嚇する。それを見たアオイは盛大に顔を引きつらせた。
「あんなん当たったら死ぬ! 絶対行かない!」
「何度も死ねば、死ぬのに慣れるぞ?」
「リアル描写で死に慣れてるカオルは頭がおかしいのよ――『クイックステップ』」
ルルエッタはスコーピオンの踏み付けを移動スキルで躱す。続けて、俺の方には怒りが篭った尾の突き刺し攻撃が飛んできた。
「ハンター式緊急回避!」
これは普通に回避しようと思っても間に合わねえな。
俺は某狩猟ゲーの――あるいはハリウッド張りのダイナミック回避を試みる。
「あら、あなた意外とおバカさんでしたっけ?」
地面に尻尾が突き刺さって、動きの止まったスコーピオン。俺は一瞬迷って、当初の予定通り腕を先に破壊することに決めた。
ルルエッタはスキルを使って、スコーピオンの脚を足場に胴体へ飛び乗る。俺もそれと同じように彼女と反対側に位置取りする。
「なんで、スキル無しで平然とここまで登って来れるのよ」
「HAHAHA、この程度の登攀にスキルなんて必要ねえだろ」
「貴方自身もバグよっ」
オーバーセンスの連中ならこの程度の朝飯前な奴が何人もいるだろうに、今さな話だ。
スコーピオンが最後の抵抗に両腕を振り回すも、俺は下から潜り込んでエネルギー供給のケーブルを切断した。
おっし、ルルエッタのほうもやったか。これで遠距離攻撃は全部潰したことになる。
――ん? 何かやばそうか。
スコーピオンから不味そうな空気を読み取った俺は広い兵器格納庫を見下ろす。
その理由はすぐに悲鳴と共に判明した。
「きゃあ」
と、女の子らしい悲鳴が聞こえたのだ。
最初にルルエッタを確認すると、彼女もその声を探している。遠くのサクラとシルフィも無事だ――となると、
「アオイ!」
「反対側か!」
ルルエッタより身軽な俺が先に、スコーピオンの脚を蹴って地面に着地する。
すぐさま走ってボスの反対側で脚部破壊を任せていたアオイを探すと、地面に尻餅を付いてる姿を見つけた。
「鎧を外せっ」
腰が抜けたらしく、その場から立ち上がれないアオイに俺はそう言う。
「はえ? ――は、はぃ」
「トモエ、援護!」
「えっ、――ええ、了解!」
アオイは焦ったままメニュー操作でなんとか鎧を脱いで身軽になるが、俺が助けるよりボスの踏み付けの方が早い。
俺はルルエッタにボスの妨害を頼んで、リスクも顧みずアオイを助けるために飛び込んだ。
「抱きかかえるが暴れるなよ?」
ルルエッタが道中で拾ったミスリルを脚部関節に噛ませて、スコーピオンの動きを妨害している。その間にアオイを抱きかかえようと膝をつく。
「へっ? 抱きかかえるって……これっ、お姫さ――だっっこですっ」
俺と同種の布装備(初期装備)の――頼りない姿になったアオイを両手で抱きかかえ、その場を離れる。
その直後、スコーピオンの足がミスリルの塊を噛み砕いて地面に落下した。
「お兄さん、お、重くないですか?」
「仮想空間で何言ってんだ? まあ女の子らしく軽いとは言っとおく」
そのまま「お――女の子!?」とあわあわしてるアオイを抱えたまま、サクラの居る後方まで下がることにした。
「到着っと、――なんだ、妹?」
「いや、私の友人がどんどんお兄ちゃんに墜ちていくのを見るのはこう――」
「いえいえ! 百点満点でしたよ、お兄さん」
複雑そうなサクラと頬を上気させて興奮するシルフィが、アオイを地面に降ろした俺に迫る。
おまけに、
『さっさと帰ってこい、天然ジゴロ先輩』
と、振り返って見たルルエッタが黒い笑顔でパーティメッセージを飛ばしてきた。
「くっくっくっ――知るか! さっさとボス戦に戻れや!」
この理不尽な言いがかりは、ボロボロになったボスにぶつけよう。
パニックで戦闘もできない状態のアオイはサクラ達の傍に控えさせて、俺は瀕死のボスに引導をプレゼントすることにした。




