第十三話 新たなモンスター
「第二階層から本気で殺しに来てない?」
サクラと一緒に割れた窓ガラスから部屋の中を確かめる俺。頭をひょこっと見せているが、敵はこちらを見ていないのか動きは無い。
「俺の記憶も昔過ぎて忘れてたわ。これ、無理かも」
ダンジョンのセキュリティを突破した先にあったのは、戦闘用のロボットを開発する研究室だ。
机や機械端末が乱雑に部屋の隅に追いやられ、床にはロボットのパーツと思われるモノも落ちていた。
そんな部屋の中心に待ち構えるのは一階と同型のパトロールロボと、完全な人型ロボットが一体。
人型ロボットは『量産型ヒューマノイドロボットタイプSM』という名らしく、白いボディに、関節の隙間から銀色の輝きが見えた。その手には止まったチェーンソーらしきギザギザな刃の剣を持っている。
「これのどこがソードマンなのよ。ジェイソンじゃない」
「サクラ、ジェイソンにチェーンソーは勘違いだからね。それ別の殺人鬼」
原作を知らないサクラは「えっ、そうだったの」と、それを教えてくれたアオイの顔を見る。
ゾンビにキャーキャー言ってたくせに、ホラー映画は見るのか?
「はーい、お話は後にしましょー。ルルエッタ、どっちが『アリス・ハーディー』をやる?」
俺は後ろで保護者になってるルルエッタに向き直り、どっちがジェイソンを倒すヒロインになるか相談する。
昔のクランメンバーにその手の話が大好物な奴がいたせいで、俺達もこれで通じるようになってしまった。
「それ二作目で殺されるじゃない。あなたが『フレディ』になってよ」
「そっちも最終的に首切られるだろ」
確かにフレディと同じく今の俺も弱体化してる、上手い事例えますね。
抗議の意思も込めてルルエッタを睨むが、返って来たのはミスリル製の短剣だ。
「あなたのバカみたいなスキル盛りのアイアン武器じゃないけど、こっちのほうがマシでしょ?」
「はいはい、俺がやればいいんだろ……、さっさと取り巻きを片付けてくれよ」
「えっと、頑張ってください」
「ありがとよ、シルフィちゃん。――さって一丁本気で戦いますか」
俺は覚悟を決め、アイアンダガーをインベントリに戻してミスリル製の短剣を受け取る。
ルルエッタから渡された短剣だが、手に持つと良く馴染む。俺に渡すために過剰過ぎない範囲で用意していたのか。
俺がルルエッタの方を見ると、すぐに顔を横に向ける。それをサクラが冷やかそうと近づいてるのに気付いた俺は、妹の頭を掴んで連れ戻す。
「さあ、お嬢さん。お仕事の時間だ」
「……イエス、ボス」
余計なことをすんなと威圧を込めてニッコリ笑うと、サクラはお巡りさんのような敬礼で元の位置に戻っていった。
俺が一人で戦うのはいいとして、あいつってどんな攻撃してきたかな。
前に来た時は解体作業だったからな。パトロールロボのライトセーバーみたいな隠しギミックを見る前に倒しちまったんだよな。
ウイィィィィイン
俺達の接近を察知した機械兵器が戦闘態勢に入る。
ヒューマノイドの持つ魔導式であろうチェーンソーがエンジンの爆音よりも大人しい動力部を稼働させる。
見た目からして凶悪な鮫の様な歯を耳障りな音で高速回転させ、二足歩行の兵器がこちらに走り出す。触れれば金属鎧だって削り殺す、生身には過剰な殺傷力が先頭にいる俺を目標にして迫る。
「んっ、ミンチになるのは――グレンのミニガンでフレンドリーファイアーされた時だけで十分だっ」
俺は床に落ちてるロボのパーツを拾って、チェーンソーに投げる。
機構が複雑になれば、それだけ耐久性は落ちるものだ。まずはその面倒な武器から破壊させてもらうか。とはいえ金属を叩き切るのを目的にした兵器に、金属の塊ごときで動きは止まらない。
鮫に生肉を放り込んだように、ヒューマノイドの魔導式チェーンソーはメキメキ音を立てて同胞の腕を噛み千切る。
「一瞬動きが止まればそれでいい。――さあ、こいつも電撃対策はしてるかい?――『エンチャントサンダー』」
俺はあえて交換しなかったパリィナイフをチェーンソーの持ち手に当てる。
「error! error! 試作魔導チェーンソー内部に深刻な問題が発生。これ以上の使用は危険と判断し放棄します」
と、ロボは一瞬電撃の走った武器を手放す。
やっぱり本体と違って電撃耐性はなかったか。――ってかそれ試作兵器だったのかよ。
「ボーナスタイムだ! 代わりの武器を用意させる暇はねえぞ!」
さすがにこの細身で変なギミックもないだろう。そう思っていても何か浪漫を感じさせる隠しギミックはないだろうかと期待してしまう。
まあ、結果を言ってしまうと内蔵武器はなかった。
武器を諦めたヒューマノイドは拳で抵抗することにしたらしい。俺はどちらにしろ当たったら大ダメージな攻撃を回避しながら、短剣を何度も胴体に叩き込む。
ルルエッタに借りたミスリル短剣は良く斬れる。鉄の武器とは違い、金属の体に無数の傷跡を生産する。さすがに魔導剣ほどの火力は無いが、手数で攻めれば十分狩れるな。
「援護する?」
もう取り巻きを倒したのか。ここまで何度と戦って慣れたとはいえ、早いな。
ヒューマノイドの格闘術を避けた俺は手際の良いサクラ達に関心する。
あとで報酬に一つ二つ、装備でも作ってやるか? インベントリの中に結構な数のミスリルと純度の高い魔石も溜まって来たしな。
「ああ、水をぶっ掛けてくれ! ダメージじゃなくて、濡らすのが目的だぞ!」
「あいさー」
俺の意図を理解したサクラは水魔法の準備を始める。魔法スキルはチャージゲージがマックスになったら発動する仕様だ。
そのゲージは本人にしか見えないので、使えるようになったらスキル名を口にするのがチームプレイとして推奨される。
「『ウォーターボール』!」
合図を聞いた俺は殴り掛かってくる敵の腕を取り、勢いを利用して手前に倒す。
謎素材の硬い床に倒れたヒューマノイドが立ち上がる前に、俺は置き土産を残しその場をジャンプで立ち去った。
バンッ
サクラの水魔法で水浸しになった上に、俺の残した属性付与したナイフが敵を感電させた。
機械の天敵である水と電気。それらが傷だらけの――中まで届く小さな傷だらけのボディに隅から隅まで行き渡る。
敵は内部でショートを起こして、小さな爆発を起こして腕が吹き飛ぶ。そして、そのまま電源が落ちたようで沈黙してしまった。
「さすがに精密機器なら一発昇天だろ。修理サービスはやってねえが、引き取りサービスは受けてやる」
「さすが中ボス、素手のほうが動きが良くない?」
遠距離から武器を破壊してから戦う、これが正規の攻略法だったか。チェーンソーは防御不可だが、格闘は動きが豊富な代わりに盾で受け止められる。
武器を破壊したあとなら、アオイでも耐えられただろう。
「試作品を無理やり持たされてたみたいだからな。プログラムがそれに最適化されてなかったんじゃないか? ……あと、こいつ中ボスじゃねえぞ」
「はえ?」
「ただの雑魚敵だから、道中何度か戦うぞ。さすがにチェーンソーみたいな凶悪な兵器は持ってないが」
それを聞いた妹たちはここから本番なのだと知って、床にへたり込んだ。
「おーまいごっど」
仮想の世界に神はいるのかね?




