プロローグ Aパターン
VRモノだよー
よろしくね。
2235年7月11日
この日、俺は学校から帰ってきてすぐアウターワールドにログインした。
太陽の匂いとふかんふかな感触を感じれる布団、遠くから響くカーチェイスの音。
世界最高の機材が揃っているからこそ実現できる、アウターワールドの現実と変わらないリアリティ。
夏の寝苦しさすら再現するアウターワールドのベッドから起き上がり、俺は真っ先にあいつを探しに自室から出た。
それは別に変った行動ではなく、いつも通りのルーティンだ。起きたら最初にあいつに会いに行くのが俺の日常である。
「なんだこれ?」
ここを買っのは二年程前。窓に写る青い海と空のコントラストに惚れて、クランマスター権限で特に反対も無く決めた俺達のクランハウスだった。
そんなビルの立ち並ぶ大都市から少し離れた海辺にある洋館。そこにある工房に足を踏み入れた俺は、何か違和感を感じた。
何かが足りない……。
昨日から道具の位置は変わっているものの、他のクランのメンバーが出入りする工房ではおかしくない範囲の変化なはず。荒らされた形跡は無い、施設ログを確認しても特に異常は無い。
「――そうだ、アウラはどこだ?」
俺は大声でアウラの名を叫びながら、アジトの中を歩き回る。
「どうしたっす、リーダー?」
「ジョン! アウラを見なかったか?」
「アウラ嬢っすか。そういえば――、見てないですね。俺も探しましょうか?」
「頼む」
クランのメンバーにも頼んで、俺は洋館を隅から隅まで探し回った。
しかしどこにも見当たらない。プレイヤーではないアウラが俺の許可も無く外には出られないはず、にもかかわらずだ。
「アウラ! アウラローゼ!? どこにいんだ……」
そういえばもしアウラに何かあったなら、俺のインベントリが使えるようになってるのでは?
そう思った俺はゲームメニューからインベントリを開く、
「は……?」
中身は空だった。――所持金すらも無い。
いや、インベントリに入れてない装備したままの持ち物はある。だが在るべき物、アウラローゼの持ち物が表示されていなかった。
デザイン担当のメンバーが選んだ調度品の飾られたエントランスにまで戻って来た俺は、手分けして捜索するジョンと合流した。
「リーダー? クランの倉庫、弄りました? クラン画面の倉庫に何も表示されてないっすよ?」
クランの管理画面を見たジョンが俺に尋ねる。彼はこの状況でもまだ誰かの悪戯だと思ってるのか深刻そうな顔はしてない。
「――ちょ、ちょっと待て。何が起こってんだ?」
捜索の協力をしていたジョンの能天気な声が、俺を苛立たせる。
落ち着け――ありえないだろ?
さっきアジトのログを確認した時、異常はなかった。他のプレイヤーから襲撃を受けたのはありえない。
クランのメニューをもう一度確認したら、PMCのNPCだって正常に稼働してる。
遠くからはメンバー達が異変に気付き騒ぎ始めてる。
「そうか、あの違和感は工房に置いてあったナンバーズが――無かったからだ」
ハッキング? ――バカな、ここはアウターワールド。一度たりともハッキングされたことが無い鉄壁の仮想空間だぞ?
俺の足元が揺らぐ。不安と緊張でさっき妹と食べたポテチが逆流してきている気がする。
「くっ――、俺のオーバーセンスならまだ間に合うかも、いや間に合ってくれ」
急いで工房に戻って、俺は片っ端から施設の道具達に触れていく。
道具に触れた俺に記憶が流れ込んでくる――それは、
俺の最高傑作、アウラの銀の髪が黒い何かに侵食されて消えていく姿だった……。
Aパターンとある通りBバージョンもあるよ。元々あとから上げるBパターンで書いてましたが、パンチが無いかな? ――となりまして、こちらのパターンになりました。
AとBで時間軸が異なりますが、公開しないのも残念だなってことでBパターンもおまけで載せるつもりです。
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