第三話 禁断の魔法と予言の鏡
-でかい。城でかい。
国王の城は中に入ると想像より広く、何百人もの兵士が訓練や寝泊りをする施設もあり、まるで城の中にもうひとつ街があるようだ。
恐らく敵襲に備えてのことだろう、迷路のような回廊を抜けると王の間だ。
国王は白い髭の小柄な爺さんで、初対面ながら見覚えのある王様のイメージだ。
僕はゴブリンの村でお世話になったことを話し、村に攻め入らないよう説得した。
あっさりと国王は
『ゴブリン村討伐は初期クエストからはずす』という御布令をだしてくれた。
しかしながら、魔物との戦いは遥か昔から続いており止めることはできないと言う。
僕は昨夜彼女の前で大きな言ったこともあり、
領土の線引きをして停戦できないか進言してみた。
国王は予想外に話しがわかる人で、しばらくは進軍せず攻められた場合のみ防衛することにしてくれた。
そのかわり、国王直属の部隊に参加して国の防衛に努めて欲しいとのこと。
なるほど国王は彼女のチカラを知っているようだ。
僕たちは防衛に関してのみと念押しして了承した。
しかしこの国には魔物に仲間や家族を奪われた人もいて
この事がきっかけで、城内は魔物討伐派と停戦派で分かれることになる。
僕は、皮肉なことに争いを無くそうとした結果、新たな対立を生み出してしまった。
彼女の前でいいカッコしようとして忘れていた。
そんなもんだということを。
-こんなハズじゃなかった。
いつの間にか僕は王国の精鋭部隊の一員になっていた。いきがかり上仕方ないが、不本意だ。
正直なところ、魔物との戦いも城内の派閥にも興味がない。そんなのは勝手にやらせておいて、僕はゴブリンの村にもどってのんびり暮らしたい。
でも彼女と一緒にいたい。
要するに彼女と一緒にのんびり暮らしたい。
僕と彼女は城の中の兵士専用の部屋で暮らす事になった。
幸いなことに魔物側から攻めてくることも一切なく、僕たちは分裂した城内の調整役となっている。
当たり前だけど僕達は停戦派なので、魔物討伐派を説得していかなければならない。
魔物討伐派の人々の意見は、大まかに
魔物は悪しきものなので存在してはいけないという魔族の存在完全否定意見と
魔物に恨みがあるので復讐しなければならないという意見の2つ。
なかなか根深い。
さらに難航となるのが、そもそも討伐派の人達は武闘派の人が多く頑固でこちらの意見に聞く耳をもたないので話し合いの席まで持ち込むことができない。
僕の苦手とするタイプだ。
そこに突破口を開けたのも彼女だった。
彼女は兵士達の訓練に積極的に参加し、剣、槍、弓、武術を奥義まで体得し、武に通じる達人達に認められて行く。
彼等から認められ、ある種の尊敬を集めてから停戦をよびかけた。
魔法に関しても同様に彼女はあらゆる魔法を覚え難なく習得していった。
これによって討伐派の大多数を占める武闘派の説得に成功した。
バカっぽい言いかたになるが、サッカーの上手いやつが自分より上手いやつの言うことには聞く耳もつという感じだろうか。
僕も訓練兵士にさわやかにお手合わせをお願いされたりしたが、ヘラヘラ笑って誤魔化してはいたものの、
薄々、僕のほうは何もできないことがバレだしてはいた。
いつも彼女の側にはいたが、実力が離れるほどだんだん彼女が遠く感じていった。
次第に停戦派が多数となり、もう少しというところで
こんな話しを耳にする。
かなり少数になった討伐派が過激派と化し僕の暗殺を企てているという噂だ。
彼女が強いのはもはや周知の事実なので、弱いほうの僕だけでも葬ろうというわけだ。
なるほど、真実味はある。
僕はビビってより彼女からなるべく離れないようにすることにした。
情けない。
ある日、国王から呼び出される。
この国には代々つたわる秘宝が2つあり。
そのうちのひとつが、禁断の魔法が記された魔法書で、長い歴史のなか誰一人としてその禁断の魔法を習得したものはいないそうだ。
国王は彼女ならもしかして、有史以来だれもなしえなかった禁断の魔法を習得できるのではないかというのだ。
もはやどんな魔法なのかも誰もわからないらしいが、この歴史的快挙を達成すれば、彼女がカリスマとなって一気に停戦に流れをつくれるかもしれない。
彼女は国王の許可を得て城の最深部にある宝物庫に通された。
僕もついていった。未だに回復魔法も使えない僕には禁断の魔法なんて到底無理だが、彼女の側にいたいからついていった。
宝物庫は厳重な警護の上、分厚い扉の向こうにあり、まさに部屋ごと金庫になってる感じだ。
中には分厚い書物古びた書物とそれと大きなスタンド式の鏡があった。
書物が禁断の魔法が記されたもので、鏡はもう一つの秘宝の予言の鏡だという。
セキュリティ上、宝物庫の扉はいったん閉じられ夕刻になったら開けてくれるそうだ。
ゴォーン。頑丈な扉が閉められ、宝物庫に中は2人きりになる。
僕と彼女の2人きりだ。
彼女は魔法の書を開く、分厚い本には僕には読めない文字がビッシリと書かれている。
彼女がいうには、沢山の魔法が載っているわけではなく、たった一つの魔法が暗号化されているとのこと。
さすが禁断の魔法。時間がかかりそうだ。
僕は黙って座っていた。この2人きりの空間と頑丈な宝物庫の中、暗殺に脅える必要もない。
僕は安心感に包まれていた。
ガッシャーン!いけない、いつの間にか僕は居眠りをしていたようだ。昨晩は暗殺にビビってよく眠れなかったので寝不足だったようだ。
そして、やってしまった。
僕はこともあろうに、もう一つの秘宝である予言の鏡にもたれかかって倒してしまっていた。
鏡は粉々。彼女は魔法の書を見ているが、気づいていないハズはない。
まずい、最悪だ。
秘宝を壊してしまった。国中の僕の評判は地に落ちるだろう。
そんな事はまだいい、彼女が一所懸命に魔法習得に努力してる最中に居眠りをしたことが、最高にまずい。
彼女には、彼女だけには嫌われたくない。
僕は彼女の表情を伺う。
彼女は魔法の書をパタンと閉じて、真顔でこちらをみる
「ためしてみる」
そう言うと詠唱をはじめた。
ちょっと待って、怒ってる?
どんな魔法なの?禁断のやつでしょ?
いきなり使うの?
彼女の手からコッチに光が放たれる。
もしかして僕、灰にされる?
ビビビーッ
放たれた光に包まれたのは、僕の体ではなく割れた鏡の方だった。
割れた鏡はカチャカチャと破片を集めながら触ってもないのに起き上がり元通りになった。
これが、禁断の魔法?
とにかく鏡が直ってよかった。
あと、彼女は全然怒ってなかった。
彼女が言うには、修復の魔法ではなく時間操作の魔法らしい。鏡を直したのではなく、鏡だけ割れる前の時間まで巻き戻したらしい。
なるほど、最初に地味な使い方をしてしまったが任意の物の時間を巻き戻しできるということは、人間に使えば、若返りはもちろん、それこそ死者を死ぬ前まで巻き戻しての蘇生すら可能かも知れない。
さすが禁断の魔法。なんか自然の摂理というかルールが崩壊しそうで恐ろしい。
僕達は話し合って、この魔法はわからなかったことにして2人だけの秘密にすることにした。
2人だけの秘密。
なんかいい響き。
-僕らの苦労は水の泡だ。
城内に警告音のような着信音のような音が響きわたる。
予言の鏡が発動した。
そう、僕が壊して、彼女が巻き戻した鏡だ。
予言の鏡は非常にシンプル、世界の危機を予言して警告してくれるそうだ。
鏡に文字が浮かび上がる。
読めない。
読んでもらうと内容はこうだ
「最果ての地にて、魔王がダーククリスタルを発動させた。間もなく世界は崩壊し消滅する」
なんと、魔物サイドトップの魔王が突然の沈黙を破りいきなり世界を消滅させるという。
消滅ってなんだよ。そんなことしてなんの意味があるんだよ。
あらためて異世界の価値観に打ちのめされる。
僕らの苦労は水の泡だ。
このことで城内は一気に魔物討伐派一色にひっくりかえることになる。
世界が消えてしまったら、どうにもならない
僕たちは魔王を倒すか、話し合って思いとどまってもらうしかない。
話し合いか。
自信ないな。