#7
「間違いない‼ ユウとナルムだ、二人とも無事だぞ!」
村の入り口へと、ユウとナルム、転生者が辿り着くと、騒々しい程の人垣が三人を出迎えていた。
――もしかしたら村で暮らす、ほとんどの人間が集まっているのかもしれない。そう思える程の人数だった。
(ふぅむ……)
そして、村人達の衣服には、森の中を長時間探索していたような泥汚れがあり、ユウとナルムを見る、村人達の表情から、転生者はその理由を理解する。
彼等はずっと捜していたのだ。何も言わずに村を発ったユウとナルムを。
「ああ、このバカタレ! 本当に心配かけて!」
「う、うみゃ……! おばちゃん……!?」
感情の堰が切れたように、涙で顔をぐちゃぐちゃにした、ケモノ人の婦人がナルムの体を抱き上げ、ギュッと抱き締める。
「ナルム~」
「シ、シシィ……」
涙目で自分のズボンを引っ張る、幼なじみのシシィと、自分を力強く抱き締める、シシィの母親……おばちゃんの姿に、ナルムは理解する。
自分の行動が、どれだけ皆を心配させたのかを。
自分の行動が、どれだけ村を騒がせたのかを。
「ユウ君……!」
「ダ、ダンさん――」
そして、筋骨隆々の熊のような男が、人垣の中から一歩前に足を踏み出す。
恐らく、この村の中心人物なのだろう。
多くの責任を背負い、束ねる厚みのようなものが、この男の一挙手一投足から滲み出ていた。
ユウの目前に立ち止まった、ダンと呼ばれた、その男は、静かに息を吸い込み、拳を握り固める――。
「この……馬鹿野郎ッ‼」
「……っ!」
思いきり叩き込まれた鉄拳が、ユウの身体をぶっ飛ばす。
その様子に、ナルムは大きく目を見開き、転生者も突然のことに、そっと身構える。
――事がエスカレートするならば、止めなければならない。だが、
「この……馬鹿野郎」
ダンと呼ばれた男の次の行動に、転生者は身構えた身体の緊張を解き、口元に、安堵の笑みを宿す。
男は倒れたユウを抱き起こすと、彼の無事を確かめるように、丸太のような腕で、ガッチリとユウをハグしていた。
その武骨な顔立ちには、熱い涙が光っている――。
「ダン……さん」
「何度も言ったはずだ! 君はこの村に来た時から、私達と等しく村の住民なんだ、家族なんだと。だから、元冒険者だからって、村のために、君が何もかも背負って、無茶をする必要はない……!」
ハグしたユウの背を叩き、告げると、ダンはその力強い瞳で、ユウの瞳を見据え、言葉を続ける。
「この村が救われるとしても、そのために君とナルムという若い生命が失われるなら、それは我々の望むところじゃない。そんな救いなら……我々は丸めて放り捨てるさ」
「……すいません」
ダンの熱い想いを受け取り、目頭を熱くしたユウの頬を涙が伝う。
「う、うみゃあ……ユウが悪いんじゃねぇんだ! オイらが転生者様を迎えに行くって言い出して、ユウはそれを手伝ってくれただけなんだ! だから、だから、ごめんよぉ……」
おばちゃんの腕から降りたナルムは、ユウを庇うように村人達の前に立ち、大きな嗚咽とともに、自分達を心配してくれた人達へ謝罪と感謝を伝えていた。
その頭と長耳を、ケモノ人のおばちゃんは、わしゃわしゃと撫で、彼の無事と帰還を祝う。
……成る程。ユウとナルムが必死になるのも頷ける、温かな村だ。
転生者は得心とともに頬を緩め、この村を蝕む危機とは何か、より興味を深める。
恐らく、それが自分が、この幻想世界に転生れた理由。
そして、自分が叩き斬る、最初の絶望であろう。
転生者は静かに騒ぐ血を、研ぎ澄まされる己の意識を、密やかに、そして確実に、感じていた。