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死せる幻想世界 絶望を斬るナナシ  作者: chiyo
ACT-01 絶望の卵と無銘の勇者ー"Nameless Heroes"ー
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#7

「間違いない‼ ユウとナルムだ、二人とも無事だぞ!」


 村の入り口へと、ユウとナルム、転生者が辿り着くと、騒々しい程の人垣が三人を出迎えていた。


 ――もしかしたら村で暮らす、ほとんどの人間が集まっているのかもしれない。そう思える程の人数だった。


(ふぅむ……)


 そして、村人達の衣服には、森の中を長時間探索していたような泥汚れがあり、ユウとナルムを見る、村人達の表情から、転生者はその理由(わけ)を理解する。


 彼等はずっと捜していたのだ。何も言わずに村を発ったユウとナルムを。


「ああ、このバカタレ! 本当に心配かけて!」

「う、うみゃ……! おばちゃん……!?」


 感情の堰が切れたように、涙で顔をぐちゃぐちゃにした、ケモノ人の婦人がナルムの体を抱き上げ、ギュッと抱き締める。


「ナルム~」

「シ、シシィ……」


 涙目で自分のズボンを引っ張る、幼なじみのシシィと、自分を力強く抱き締める、シシィの母親……おばちゃんの姿に、ナルムは理解する。


 自分の行動が、どれだけ皆を心配させたのかを。


 自分の行動が、どれだけ村を騒がせたのかを。


「ユウ君……!」

「ダ、ダンさん――」


 そして、筋骨隆々の熊のような男が、人垣の中から一歩前に足を踏み出す。


 恐らく、この村の中心人物なのだろう。


 多くの責任を背負い、束ねる厚みのようなものが、この男の一挙手一投足から滲み出ていた。


 ユウの目前に立ち止まった、ダンと呼ばれた、その男は、静かに息を吸い込み、拳を握り固める――。


「この……馬鹿野郎ッ‼」

「……っ!」


 思いきり叩き込まれた鉄拳が、ユウの身体をぶっ飛ばす。


 その様子に、ナルムは大きく目を見開き、転生者も突然のことに、そっと身構える。


 ――事がエスカレートするならば、止めなければならない。だが、


「この……馬鹿野郎」


 ダンと呼ばれた男の次の行動に、転生者は身構えた身体の緊張を解き、口元に、安堵の笑みを宿す。


 男は倒れたユウを抱き起こすと、彼の無事を確かめるように、丸太のような腕で、ガッチリとユウをハグしていた。


 その武骨な顔立ちには、熱い涙が光っている――。


「ダン……さん」


「何度も言ったはずだ! 君はこの村に来た時から、私達と等しく村の住民なんだ、家族なんだと。だから、元冒険者だからって、村のために、君が何もかも背負って、無茶をする必要はない……!」


 ハグしたユウの背を叩き、告げると、ダンはその力強い瞳で、ユウの瞳を見据え、言葉を続ける。


「この村が救われるとしても、そのために君とナルムという若い生命(いのち)が失われるなら、それは我々の望むところじゃない。そんな救いなら……我々は丸めて放り捨てるさ」

「……すいません」


 ダンの熱い想いを受け取り、目頭を熱くしたユウの頬を涙が伝う。


「う、うみゃあ……ユウが悪いんじゃねぇんだ! オイらが転生者様を迎えに行くって言い出して、ユウはそれを手伝ってくれただけなんだ! だから、だから、ごめんよぉ……」


 おばちゃんの腕から降りたナルムは、ユウを(かば)うように村人達の前に立ち、大きな嗚咽とともに、自分達を心配してくれた人達へ謝罪と感謝を伝えていた。


 その頭と長耳を、ケモノ人のおばちゃんは、わしゃわしゃと撫で、彼の無事と帰還を祝う。

 

 ……成る程。ユウとナルムが必死になるのも頷ける、温かな村だ。


 転生者は得心とともに頬を緩め、この村を蝕む危機とは何か、より興味を深める。


 恐らく、それが自分が、この幻想世界(ラブーツァ)転生(うま)れた理由。


 そして、自分が叩き斬る、最初の絶望であろう。

 

 転生者は静かに騒ぐ血を、研ぎ澄まされる己の意識を、密やかに、そして確実に、感じていた。

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