#2
「うみゃ~うみゃみゃっ!」
”霊降機”を降りてから数十分後。
やはり、"転生の回廊"の探索は難航を極めた。
上層とは比べものにならぬ程、この階層に巣食う魔物は多く、涙目のナルムが振り回す精霊式棍棒が、次々と足元に群がる虫型のモンスターを蹴散らしていた。
「うみゃらぁ……ッ‼」
ヤケクソの叫びと渾身の乱撃。
ナルムが肉球で柄のスイッチを押すと同時に、棍棒の先端に設えられたパイプから、充填された"風の精"の力が噴き出し、未熟なナムルの筋力を補助。増幅された威力でモンスターの頭骨を叩き潰していた。
「いいぞっ! 上手いぞ、ナルム……! 大丈夫、そいつらは草むらのスライムより弱い!」
ナルムを励ましながら、ユウは機銃弓のチャンバーを回し、虎視眈々と自分達を狙う大型のモンスター、蟻獅子と対峙する。
選択した属性は『炎』。獅子の上半身と蟻の下半身を持つ怪物は、その矢に注意を払いながらも、凶暴に過ぎる鋭利な爪と牙を躍動させる好機を、醜悪な唸り声とともにうかがっていた。
そして、
(いまだ……!)
躍動の気配を察知し、素早く回避したユウの指が引き金を弾き、機銃弓から五本の矢を射出!
三発が命中し、矢に刻まれた火霊球の呪文が、ミルメコレオの巨体を爆裂させる。
「くっ、うっ……」
爆裂したミルメコレオの体から蟻酸が降り注ぎ、かわしきれなかったユウの脚はわずかにダメージを負う。ユウは機銃弓の回転式チャンバーを開き、矢を再装填すると、虫型のモンスターを倒し尽くし、へたり込んだナムルのところへ向かう。
「うみゃあ~、何が双美人の加護だよぉ……! めっちゃ魔物出るじゃんかぁ!」
ナルムは赤くなった目をゴシゴシとこすり、”うみゃ~”と気の抜けた声で鳴く。
労うように、ユウが頭をくしゃくしゃと撫でると、ふてくされていたナルムは照れくさそうに頬を緩めた。
「あ、ユウ……! 足……!」
「平気だよ、治癒の矢も持ってきてあるから」
ユウが足を引きずっている事に気付き、あわあわと慌てるナルムに微笑むと、ユウは腰の矢入れから取り出した一本の矢を宙に翳し、矢に刻まれた回復呪文の効果を発動させる。
ユウの酸に焼かれた脚も、ナルムの全身の擦り傷も、あっという間に癒え、窮地を逃れた二人は安堵の息を腹腔から吐き出していた。
「でも、本当だったんだな。”転生の回廊”が魔物の巣窟になってるって――」
本来、この場所は勇者足る”転生者”が、この世界に命を芽生かせ、その命を器たる肉体に繋ぐ、神聖なる場所だった。
少なくとも、いま自分達が倒したような、低クラスの魔物には近寄ることすら出来ない場所だった。
だけど、アレが出現した事で世界は均衡を崩し、神聖なる奇跡・加護の類は、徐々にこの幻想世界から消えつつあった。
神秘や加護だけではない。
いまや稀少な存在となった魔導師が作った、ユウが持つ機銃弓と矢のような"道具"を利用する事が、魔術を行使する"最もポピュラーな手段"となって久しい。
――嘆かわしいことに、幻想世界から、次第に幻想が失われつつあった。
「うみゃ~ここ数年、この回廊から転生者様は出てねぇって話だし、本当に双美人の加護が消えちまってるんじゃねぇかなぁ……」
「……かもしれない。だけど」
”転生者”の来訪を告げる村の”降竜笛”は、高らかにその音を鳴らした。
此処に”転生者”が来るのは間違いない。
「道は険しい。だけど、迎えに行こう。アレに対抗出来るのは、悔しいけど”転生者”様だけだ――」
「うみゃ!」
改めて決意を固めた、ユウとナルムは、靴底で石畳を鳴らしながら階層の最奥へと向かう。
彼等の希望である”転生者”が、この幻想世界へと誘われる聖域――双美人の祭祀場へと。