#18
(一刻も早く、村に戻ら――)
焦燥に唇を噛み、大地を蹴らんとした、ナナシの身体を、強烈な衝撃が弾き飛ばす……!
思わず、指から離れそうになった長刀を握り直し、ナナシは自分を弾き飛ばした衝撃の主を睨む。
そこには、首を斬り落とされながらも、まだ悠々と蠢く怪獣の巨体があった。
(コイツも、"並"じゃないって事か……!)
鋼鱗蛇獣グルネブラ。
ゼルメキウスの"滅尽の蒼"によって、呼び寄せられた蛇型の大怪獣は、その長く巨大な身体で周囲の木々をへし折りながら、ナナシへと迫っていた。
この大怪獣が巻く"とぐろ"で、森全体の土が堀り返され、薙ぎ倒された大樹や崩れた土砂が、災害となって猛威を振るい始めていた。
「転生者……!」
「おっさん……! 俺はいい! アンタ達は飽くまで自分達を守れ! 村の奴等にもそう伝えてくれ……!」
自分を援護しようとするマクソン達に吠え、ナナシは村の方角を指差す。
「コイツは強い……! アンタ達を護りながら戦うのは無理だ……!」
「ぬぅ……」
屈辱ではあるが、ナナシは最善の行動を示していた。
足手まといがない状態で、ナナシ単体でグルネブラに対処した方が、討伐までの時間は短く済むだろう。
「コイツを倒して、すぐに行く……! だから、それまで村の連中を災厄野郎から遠ざけてくれ! 頼む……!」
斬り落とされた首を、瞬く間に修復させ、襲い来るグルネブラの牙を、焔の刀で受け止めながら、必死の形相でナナシは叫ぶ。
村の人間達は現在、結界によって外界から隔絶された避難所に避難している。
全員がそこに辿り着けば、ゼルメキウスの目からもしばらくは逃れられるはずだ。
「転生者……承知した。ならば、ここは預けよう……!」
ナナシの意志を受け止め、マクソンは部下達に撤退と、避難民の誘導を指示。必死に大怪獣と鍔迫り合う、転生者の瞳を見据える。
(……違う。他の転生者とは)
若干、粗雑ではあるが、この転生者には、他者の為に己が血肉を削る勇猛さが、慈愛が満ちていた。
その姿は幼き日に、その背を見送った"勇者"のそれに重なる。
(我等もまた、その勇猛さに続かなくてはな――)
胸に熱い炎を灯し、マクソン達は作戦行動に移る。
激戦の夜が始まった。




