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死せる幻想世界 絶望を斬るナナシ  作者: chiyo
ACT-00 転生する神話ー"Another day comes to you"ー
2/34

#1

「ユウよぉ……ほんとにオイら達だけで来てよかったのかなぁ……」

 

 普段の威勢の良さをまるっきり無くした少年の声が、か細く通路に響き渡る。


 いつもはピンと上を向いている長耳は、疲労に力無く垂れ、真ん丸とした目はうるうると潤んでいた。


「ははっ……振り返っても辛くなるだけだよ、ナルム。それに、僕達だけでも”転生者”様を迎えに行くって言いだしたのは君の方なんだぞ?」

「うみゃ~~」


 ユウと呼ばれた青年は、自らの装備である機銃弓オート・ボウに矢を装填しながら、油断なく、周囲に注意を巡らす。


 通常の弓とは異なり、機械仕掛けの機銃弓それにストリングはなく、代わりに引き金トリガーと、回転するチャンバーが(しつら)えられている。チャンバーに複数の属性エレメントの矢を装填しておけば、チャンバーを回す事で、その場の状況にあった属性エレメントの矢を選択・使用出来るというわけだ。


 ……幸い強力なモンスターの気配はない。


 ここまで危険と呼べる程の危険もなかったが、この迷宮ダンジョンに足を踏み入れて早三時間。


 踏破した階層は四階層に及ぶ。 

 

 流石に、疲労が身体(からだ)を蝕みつつあった。


(……けど、引き返すわけにはいかない)


 この先に、希望がある。


 そう、故郷の村を救う手段となる、唯一無二の希望……”転生者”を求めて、二人は、この無謀な冒険に身を投じていた。


「大丈夫。この機銃弓オート・ボウは、クラス6ぐらいの魔物モンスターなら十分対処出来るし、全ての属性エレメントに対応してる。君に預けた精霊式棍棒スピリット・クラブだって飾りじゃないだろう?」

「うみゃ~オイら、暗いところがただでさえ苦手なんだよ~。”迷宮ダンジョンで迷い死んだ冒険者が死霊になって化けて出る”とか、良く伝承で聞くじゃんよ~」


 半獣人の一族――ケモノびとである少年ナルムはボヤき、ユウの背中にピッタリとついて、おっかなびっくり迷宮を進む。


 夜目が覚めただけで、隣家のユウをわざわざ起こしに来るナルムの怖がりは筋金入りだ。


 それに、腰から下げた火霊灯(ライト)の灯りも届かなくなりつつある、この階層の暗闇は、確かに背筋を薄ら寒くするものがあった。


 一時的に、怖気づいてしまうのも無理はない。


「心配ないよ。僕達には双美人コスモスの加護がある! 死霊なんか近寄れもしないさ……!」


 そして、そんな”怖がりナルム”が言い出した、無謀な冒険だからこそ、ユウは承知もしたし、共に行く決心も付いた。


 彼が絞り出した勇気に、応えたいと思ったのだ。


 ユウにとっても故郷である、村を救うためにも。


 頬を緩めた青年は、この五階層の最奥に位置する霊降機リフトの前にたどり着くと、背に張り付く少年の長耳と頭をくしゃくしゃと撫でる。


「うみゃ~~」

霊降機リフトを起動させるよ。次の階層から本格的な”転生の回廊”に入る。覚悟はいい? それとも引き返すかい?」

「うみゃ! いくよ、いくってば!」


 立方体キューブ状の内部に、二人が足を踏み入れると同時に、霊降機リフトは起動し、二人の魂と身体を神聖なる深淵へと降下させていく。


 ――そして、下層で二人を待つのは、この幻想世界(ラブーツァ)に刻まれる、新たな神話。


 二人にとって、生涯忘れ得ぬ出逢いが、その先で待っていた。

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