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死せる幻想世界 絶望を斬るナナシ  作者: chiyo
ACT-01 絶望の卵と無銘の勇者ー"Nameless Heroes"ー
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#17

「チートは転生者(こっち)の特権だ! この野郎!」

「……! 転生者!?」


 迫る絶対零度の氷撃に、各々の手足が凍り付く中、ナナシが手にする八股の刃――その最下部に位置する刃が、赤々とした(ほのお)を宿し、(たぎ)っていた。


 凍てつく冷気の中でも、凄まじい熱を放出するそれは、まるで火口から噴き出す溶岩(マグマ)である。


「ふん……!」


 ナナシの指が刀身をなぞると同時に、滾る溶岩(マグマ)は刀身全体に宿り、消えぬ(ほのお)の刀を顕現(けんげん)させる。


 その刃の一振りは、ゼルメキウスの氷結呪文を相殺・消滅させ、凄絶な衝撃波(ソニックブーム)を発生させる。


 そして、その衝撃波すら追い風のように突貫したナナシの斬撃が、ゼルメキウスの外骨格に確かな亀裂を生じさせていた。


 ――手応えアリ。


 ゼルメキウスも予期せず負った損傷(ダメージ)に、苦悶の咆哮を上げていた。


「これは……」


 この(ほのお)の刀は、ナナシ自身、意図的に起動させたわけではない。


 無我夢中。この刀に脈打つ"力"に導かれるように、本能的に起動させた機能(チカラ)だった。


 そして、この溶岩(マグマ)には見覚えがある――。


(あの時、斬った怪獣の力か……)


 地底暴獣(ジランヴァ)。あの怪獣の体内に滾っていた溶岩(マグマ)がそのまま、この刀に宿っているかのようだった。


(斬った怪獣の力を修得する……という事なのか?)


 成長する刀という事であれば頼もしい。


 油断なくゼルメキウスを見据えながら、ナナシは焔の刀を構える。


【………………】


 亀裂の走った自らの外骨格を見据え、ゼルメキウスはその蛍光色のギラつく目を憤怒(いかり)に歪める。


 "如何(いか)にしてこの屈辱を晴らすか"。


 そう思考した災厄の外骨格が、一部変形し、翼膜の如き大仰なパーツを形成する。


 そして――そのパーツから、凍り付くかのような、冷え冷えとした神々しさと、多くの毒物をかけあわせ、混ぜ合わせたかのような、毒々しさを(あわ)せ持つ"蒼"の粒子が溢れ出す。


 その尋常ならざる気配を持つ粒子の放出に、マクソン達の顔は一様に青ざめる。


「あ、あれは"滅尽の蒼(ルーインズ・ブルー)"……!」

「ルーインズ・ブルー……?」

「……お前達、"転生者"を召還する"畏敬の赤(アームド・ブラッド)"とは対なるものだ。世界の終焉(おわり)の色だと、この幻想世界(ラブーツァ)に生きる我等は教えられている――。妖精(エルフ)が残した、記録映像以外で目にするのは、初めてだ」


 マクソンの言葉に、ナナシは息を飲み、その瞳を鋭くする――。


「奴そのものが滅亡(ほろび)って事か……」

【…………haa……………】

「……っ!?」


 ナナシの呟きに、ゼルメキウスは何事かを(ささや)き、(わら)う。


 初めて耳にする怪獣(カイジュウ)の嘲笑に、マクソン達が言葉をなくすと同時に、地中から噴き出した衝撃が、ナナシの身体を天高く押し上げる……!


shaah(シャアアア)――ッ‼】

「別の……怪獣かッ‼」


 岩盤を砕き、出現したのは甲殻の如き、硬質の鱗で全身を武装する蛇の如き怪獣であった。


 ゼルメキウスの"滅尽の蒼(ルーインズ・ブルー)"が呼び寄せたのだろうか。ゆうに90メートルはあろうかという全長を持つ怪獣は、その大口を開けると、空中に押し上げられ、態勢を崩したナナシの身体(からだ)を、容赦なく一飲みとする――。だが、


「舐めんな……ッ‼」


 怪獣の体内で、ナナシの身体(からだ)とともに、鋭く回転した(ほのお)の刃が、怪獣の首を斬り落とし、粘液と返り血に塗れたナナシの身体(からだ)を解放する……!


 焦燥と憤怒を滲ませたナナシの瞳が、周囲に漂う"滅尽の蒼(ルーインズ・ブルー)"の粒子を捉えるが――そこには既に"本命(ゼルメキウス)"の姿はなかった。


(逃げた……? いや――)


 "逃げる"必要はない。奴は、戦闘能力(スペック)でこちらを凌駕している。奴の全貌をこちらが掴めていない今、一気に殲滅する事も出来たはずだ。ならば――、


(屈辱(うさ)を晴らすために……"村"を狙う気か……!?)


 弾き出した結論に、脂汗が噴き出す。


 ――奴は知っているのだ。それが標的(ナナシ)にとって何より(こた)える事だと。


 絶大なる異能(チカラ)と、残忍さに満ちた知性。


 絵に描いたような、最悪の災厄が、幻想世界(ラブーツァ)に解き放たれていた。

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