#16
「えーと、お前が"ス"ルメキウスか。……成る程、ネトネトギトギトして、イカ臭い野郎だ」
「”ゼ”ルメキウスだ。転生者」
「……わ、理解ってるよ、真面目か‼」
"挑発"を、助けたマクソンにスカされ、頭を掻きながらも、ナナシは鞘から日本刀を引き抜き、ゼルメキウスへとその刃先を突き付ける――。
「噂通り、厄介そうだな。お前。だが……卵をカチ割る面倒を省いてくれた事だけは、感謝するよ」
周囲でのたうち回る、マクソンの部下達を視認し、その表情を鋭くしたナナシは、左手から溢れる黄金の粒子を、振り飛ばすようにして散布する。
その粒子は、苦悶する軍人達の"状態異常"を瞬く間に回復させ、その苦痛を掻き消す――。
マクソンが口をあんぐりと開けている事からもわかるように、尋常ではない、奇蹟の業だった。
「き、君はいったい……」
「はい、おっさん! 喋ってると、舌噛むぞ!」
ゼルメキウスからの攻撃の気配を察知し、ナナシに蹴り飛ばされたマクソンのすぐ横を、ゼルメキウスの尾が槍のように刺突する……!
その尾を駆け上がるように飛翔したナナシは、その長刀をゼルメキウスの凶相へと閃かせる。
「ちぃっ……!」
甲高い金属音が鳴り響き、ゼルメキウスの外骨格に刃を弾かれたナナシは、ゼルメキウスの顔面を蹴り、再び距離をとる。
やはり、転生れたばかりでも撃退出来たジランヴァとは次元が違う……!
自分との実力差のようなものを、刃を弾かれた瞬間、ナナシはその肌で感じていた。
そして、ナナシの着地と同時に視認した、ナナシが持つ日本刀の異様さに、マクソンは息を呑み、その目を奪われていた。
(や、八股の刃……面妖な)
刀身の上で、歪に八股に別たれた刃。神幻金属製の武器は、転生者の性質・素養に感応し、形状を変えるというが、このように異形なものは見た覚えがない。
何故なら、大抵は、その転生者が現世で用いていたものが元となるからだ。――だが、マクソンが伝え聞く"日本史"に、こんなものは……。
【………………】
そして、ゼルメキウスも現れた転生者を、興味深そうに凝視していた。"他の者とは遊び方が違う"。この者の遊びは自分に届いた"。"この者は何だ"。"あの耳は"。
"気に入らない"。
冷徹な意思が、"災厄"のスイッチを切り替える。
高周波の詠唱が、大気を歪め、物理法則を捻曲げ始める――。
「い、いかん……! 奴め、呪文を使うぞ……!」
「はぁ……!?」
驚愕するナナシを余所に、ゼルメキウスの周囲が凍り付き、絶対零度の氷撃が、咆哮とともにナナシを襲う。
通常の呪文よりも数十倍に練られた冷気が、ナナシ達の前途を閉ざさんとしていた。




