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死せる幻想世界 絶望を斬るナナシ  作者: chiyo
ACT-01 絶望の卵と無銘の勇者ー"Nameless Heroes"ー
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#16

「えーと、お前が"ス"ルメキウスか。……成る程、ネトネトギトギトして、イカ臭い野郎だ」

「”ゼ”ルメキウスだ。転生者」

「……わ、理解(わか)ってるよ、真面目か‼」


 "挑発"を、助けたマクソンにスカされ、頭を掻きながらも、ナナシは鞘から日本刀カタナを引き抜き、ゼルメキウスへとその刃先を突き付ける――。


「噂通り、厄介そうだな。お前。だが……卵をカチ割る面倒を省いてくれた事だけは、感謝するよ」


 周囲でのたうち回る、マクソンの部下達を視認し、その表情を鋭くしたナナシは、左手から溢れる黄金の粒子を、振り飛ばすようにして散布する。


 その粒子は、苦悶する軍人達の"状態異常"を瞬く間に回復させ、その苦痛を掻き消す――。


 マクソンが口をあんぐりと開けている事からもわかるように、尋常ではない、奇蹟の業だった。


「き、君はいったい……」

「はい、おっさん! 喋ってると、舌噛むぞ!」


 ゼルメキウスからの攻撃の気配を察知し、ナナシに蹴り飛ばされたマクソンのすぐ横を、ゼルメキウスの尾が槍のように刺突する……!


 その尾を駆け上がるように飛翔したナナシは、その長刀をゼルメキウスの凶相へと閃かせる。


「ちぃっ……!」


 甲高い金属音が鳴り響き、ゼルメキウスの外骨格に刃を弾かれたナナシは、ゼルメキウスの顔面を蹴り、再び距離をとる。


 やはり、転生(うま)れたばかりでも撃退出来たジランヴァとは次元(レベル)が違う……! 


 自分との実力差のようなものを、刃を弾かれた瞬間、ナナシはその肌で感じていた。


 そして、ナナシの着地と同時に視認した、ナナシが持つ日本刀カタナの異様さに、マクソンは息を呑み、その目を奪われていた。


(や、八股(やまた)の刃……面妖な)


 刀身の上で、(いびつ)に八股に別たれた刃。神幻金属(オリハルコン)製の武器は、転生者の性質・素養に感応し、形状(カタチ)を変えるというが、このように異形なものは見た覚えがない。


 何故なら、大抵は、その転生者が現世で用いていたものが元となるからだ。――だが、マクソンが伝え聞く"日本史"に、こんなものは……。


【………………】


 そして、ゼルメキウスも現れた転生者(ナナシ)を、興味深そうに凝視していた。"他の者とは遊び方が違う"。この者の遊びは自分に届いた"。"この者は何だ"。"あの耳は"。


 "気に入らない"。


 冷徹な意思が、"災厄"のスイッチを切り替える。


 高周波の詠唱が、大気を歪め、物理法則を捻曲(ねじま)げ始める――。


「い、いかん……! 奴め、呪文を使うぞ……!」

「はぁ……!?」


 驚愕するナナシを余所(よそ)に、ゼルメキウスの周囲が凍り付き、絶対零度の氷撃が、咆哮とともにナナシを襲う。

 

 通常の呪文よりも数十倍に練られた冷気が、ナナシ達の前途を閉ざさんとしていた。

 

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