#9
「何の騒ぎかね!?」
「……!」
明らかに、村人達とは装いが違う連中が、人垣を割るようにして現れたのはその時だった。
その一団が纏う紺青の装衣には、ユウの矢と同じように呪文が刻まれており、一般的な装備品の数倍の防御力を基本性能としていた。
つまり、明らかに戦闘的な一団という事だ。
「マ……マクソン大尉」
「……わかっているとは思うが、この村に残されている猶予は一週間を切っている。余計な騒ぎを起こしている暇はないと思うがね」
マクソンなる男の言葉に、ダンは黙して歯を軋ませる。
マクソンが発する、有無を言わせぬ圧は、切迫した状況と事情を垣間見させる――。
マクソンの部下らしき男達も、屈強な肉体と険しい表情で、村人達を威嚇し、喜びに満ちつつあった村の空気を、一気に凍りつかせていた。
「……旅人か。とっとと立ち去りたまえ。この村には危険しかない。旅の羽根を休めるような場所ではないよ」
「………」
剣呑な空気を察知し、フードを被り直していた転生者は、マクソンの言葉を聞きながら、彼等が何者なのかジッと観察していた。
端的に言って、感じは悪い。
こいつらが、この村を脅かす危機そのものなのか。
あるいは、こいつらが、このような態度をとらざるを得ない、"何か"が村にあるのか。
……恐らくは後者だろう。こいつら程度ならユウ個人でも戦えるレベルだ。そして、政治的な問題ならば、転生者などという余所者には頼るまい。
「諸君らの努力と協力に期待する。……生命を最優先に行動したまえ。慣れ親しんだ土地も大事だが、生命に代えられるものでもない」
マクソンは告げると、踵を返し、村外れに建てられた臨時宿舎へと戻る。突き放すような言葉の裏に、情のようなものも垣間見え、悪人と呼ぶには値しない、彼の人柄を感じさせた。
「……転生者様、いえ、ナナシ。全てお話します。この村の窮状、その全ての要因を」
「……!」
マクソンの背を見送りながら、ユウは緊張に表情を強張らせ、ナナシへと告げる。
「この山で発見された"絶望の卵"――それが僕達が貴方を求めた理由です。それが、"この村が滅びる"理由なんです」
ドクン――、と。胸を騒がせるものが、ユウの言葉にはあった。
"絶望の卵"。その言霊に、ナナシの持つ日本刀が軋むように鳴り、その八股の刃は、ギラリと鋭利に輝いていた。




