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TK=Theorem of Karma (因縁の定理)  作者: 稲咲心
皇后なる
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2

新幹線出口のある太閤通り口へ続くコンコースはここ最近混んでいる。かおるは、地上を歩かずにJR高島屋の地下2階に通じる地下道を歩いてエスカとよばれる地下街にあるカフェに向かっている。


エスカに入るとすぐに右折して、人込みを避けて、カフェに入る。すぐ近くの席に先にカフェに来ていたゆみを見つける。

「どうしたの?」


ゆみに呼び出された。一応、どうしたの?なんて声をかけたが、何が起こったのかはすでに知っている。


じっとりと見つめられると居心地が悪くなり、思わずカフェの入り口近くのスタッフのところに逃げるように戻る。

「店内でお召し上がりでしょうか?」

「はい」


カフェのスタッフがドリンクを用意している間もじっとりと後ろからゆみが見つめていて、


スタッフが苦笑い。


はちみつアップルティーをトレーに載せて、ゆみのいる席に戻ると、

「ねーぇ」


「少し冷却期間置こうかって言ったら」


「もう終わったってなるの?」

言いながら、ゆみが涙目になる。


「う、うーん?」

どうしてそうなった?


ゆみがアイスコーヒーの入ったグラスの中をストローを使ってくるくるとかき混ぜると、氷がカラカラと音をたてる。

すてくんと、終わっちゃった」


ゆみはあのプロポーズ大作戦の後、捨くんと付き合い始めた。

「だけど、段々と捨くんがあたしといてもつまらなさそうにしてるから」


ねえ、あたしの話、聞いてる?

聞いてるよ。


お店出て、買い物する?あ、それか、あたし、料理しようか?最近覚えたんだ!

え。別にいいよ。


ねえ、捨くんの家、行ってみたいなあ。

また、今度な。


いっつもそう言う〜。

そだっけ?


ねえ、来月、連休どこか行かない?

遠くはヤダな。


えー。絶っ対いい思い出できるよ。

…。


あたし、プランたてるから。

海?山?


「結局どこにも行かないで終わって」


「あたしが怒ってるのに」


「機嫌とる気もないのに気づいちゃって」


「ちょっと冷却期間おこっかって言ったら」


「…」


「一週間も経たない前に、後輩の子と浮気されて」


「"ごめん、好きなコできた"」


「てだけの簡単なメッセージだけで終わっちゃうなんて」


かおるはゆみの顔を眺めながら、はちみつアップルティーを飲むしかない。


こういう時、ええーうそーやだーなにそのオトコ、さいってーと、同調してあげるのが一般女子かもしれないが、


「まあ、うん、使い捨てにされるだろうなって思ってた」

かおるはバッサリ切り捨てる。


「ひどーい」

ゆみはそう言うが、


「こういうことは、ハッキリ言わないとね」

ゆみはかおるの性格を知ってる。


ゆみはもちろん泣いてないし。


自慢のうるうる目は今日も完璧だけど。


「あたしから芳経由で何かしらの情報が欲しいんでしょ」


「それな!」

元気です。

「そっちはうまくいってんの?」

ゆみの興味津々な顔に、


「通常通りです」

かおるは、居心地悪く返す。


「捨くんが婚約したって言ってたけど」


「あ、うん。なんか荷物は、きてる」


婚約品はアシア宮から舜家に贈られた。院になられた芳の父親、先の帝からである。

「長男の婚約ってことで、すごいことになってるみたいだけど、あたし、関係ないし」


「え。」


「うちに荷物来ても、置くとこないから」

ほぼ全て、舜家のおじいちゃんの家に置いてある。


「何ももらってないの?」


「亀と鶴の置き物が、可愛いかったから、それはもらった。」

そしてそれを見つけた芳が、


「こういうのは二対セットじゃないと」

とかなんか言ってもうワンセット買った。それは違う目的もあって。


「今度、竹取物語やるから、小物に使えるかなって」

舞台で使う小物は縁があるときに集めて置かないと、使いたいときに慌てて探しても、なかなか見つからないものである。


「顔合わせとかしないの?」

「しないし、する予定もない」


かおるの言葉に、ゆみは無言でアイスコーヒーを飲み干し、氷をガリガリと食べ始める。


「氷、食べ始めるのは、貧血の症状」

かおるが注意する。


「え、そうなの?!」


夏は適温の部屋で温かい飲み物を飲むのが、女の子のからだに優しい。

ゆみから一方的な話を聞かされ、相づちをうち、やっと開放されそうなとき、


「げ。」

着信が8件、スマホの着信履歴に画面いっぱいに並んでいるのに気がつく。


「…芳」

なんだよ。何だか嫌な予感しかしない。


「あたし、ちょっと電話してくる」

同じようにスマホの画面を確認していたゆみに声をかけ、カフェを出てすぐ左側の階段から地上に出る。


「げ。雨降ってたんだ」

地下にいると、外の状況に気がつかないことが多い。


着信履歴から電話をかけて、発信音を聞く。

「んんー、なんだろ?」


滅多に電話をかけてこない芳の性格から、緊急性を感じる。

「あ、もしもし」


繋がった途端、人のざわざわと話し声が聞こえる。

「場所変えて、すぐ電話し直すから、そこで待ってて」

芳の珍しい早口の後、


「あ?うん。」

かおるの返事が聞こえたかどうかもわからないまま、プツッと電話が切れる。


「ええー、なんだろ?」

さっきより嫌な予感が倍増する。


マナー設定した画面が着信を知らせる。

「もしもし」

かおるが出ると、


「今、どこ?」

先ほどの場所と違い、芳の声だけが響く。


「今、名駅、エスカ出口 E7」

出口階段の屋根に書いてあるのを読む上げると、


「どこだよ、それ…」

予想通り、伝わらない。


「まあ、いいや。名駅エスカね。」


「今から迎えに行くから」

「ええええ!!!!」

芳に迎えに来てもらったことがなく、状況の特異性に驚く。

「え?何で?」

かおるの脳裏に様々な事件予想をたてる。


「おばあちゃんに、何かあった?」

作詞作曲はもうやってはないが、声楽の個人レッスンと編曲アレンジをしている。まだまだ現役である。


「舜家のおじいちゃんに何かあった?」

先日、初ひ孫のために古い五右衛門風呂を沸かすための薪を割っていた。まだまだ現役である。


「劇場が火事とか?」


と、そこで気づく。


「かおるのみやさまに、関係ないわ」

よく考えたら。


「俺、今、車に向かってるから」

かおるの妄想劇場の間、歩いてました。


「とりあえず3日分の服、そこの店で買っておいて」


「は?何で?」


「舜家には連絡と了解もらってるから」


「は?何で?」


「服代、こっちで出すから、高くてもいいよ」


「え、マジで?」

一瞬声が浮つく。


「…着いたらまた電話する」

芳が電話を切って、かおるの耳にはプツッと通話が切れた音がする。


切れた電話の画面を一瞬だけ確認して、終了ボタンを押してスマホをカバンに入れる。


「何だったんだ?」

いや、なんか、


「ええ、変なことに巻き込まれるのイヤなんだけど」

嫌な予感しかしない。


かおるは階段を降りて、地下街に戻る。

「3日分の服。高くてもいい。なんだろ?」


明日からちょっと伊豆旅行に行って来るわ〜。


…ないわ。

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