続き 1
大陸のほぼ中央に皇都を置き、その周りを5等分に分け、それぞれに5つの家が治める地域がある。大陸の北側に、将族と呼ばれる別民族が住む大陸が、大陸の南側には、仙族と呼ばれる別民族が住んでいる大陸がある。
皇都の中心、より少し北のところには御所と呼ばれる建物がある。その大きな建物の他にもいくつか建物があり、それらすべては、この国が日本と平安時代に繋がっていたことで、日本の京都御所とよく似ていた。
現在は、その建物群はほぼ全て官庁舎であり、この皇国の王である少年はここには住んでおらず、御所の隣、元は東宮御所であったところ、そこも現在は、事務所となっている、その脇にぽつんとある30坪ほどの小さな2階建ての家に住んでいた。
8月の中旬にある長期休暇を終えたばかりの月曜日、東宮御所であった事務所に一人の女性が自分の席に向かう。席の足元にカバンを置くと、目線は入り口脇の郵便受けに向ける。平日の郵便量であれば棚にすべて収まるのだが、長期休暇明けで、郵便物は棚の前に台車が2台並んで置かれており、台車の上に乗った箱には大量の郵便物があった。
郵便物だけでよかった。宅配便は直接各部署の指定場所に搬入されていて、段ボール箱類は一つも見当たらなかった。
↩
いつもであれば始業のチャイムが鳴ってからしか作業をしないのだが、今日は待っていられない。
初日から残業したくない、という気持ちもあり、女性が棚の方に歩き出した瞬間、ざわざわと入り口からにぎやかな声が聞こえた。
なんだろう、と思いながら棚の前まで来て、台車の箱に手を触れようとした瞬間、
「全員その場所で待機していただきたい」
若い男性の声が響いた。
「何も触れるな」
「その場所から離れないよう」
そう告げながら、事務所に入ってきた若い男性の前にもう一人、少年が歩いていた。
少年は無言で、まっすぐ、棚の前で立っていた女性のところにやってきて、
「君は?」
声をかけた。
「私は、郵便の仕分けを担当しているコバヤシと申します」
言いながら女性は、少年を観察する。
白地の着物に、紺色の袴を合わせ、長羽織を着た少年の顔に驚く。
「青帝…」
「君はまだ、この郵便物には触ってない?」
「はい」
ここにいる全員がコバヤシと青帝との会話を聞いていて、
このあとの流れを予想する。
「あった」
青帝が1つの封筒を取り出すと、すぐ後ろにいた若い男性、彼も青帝と同じように長羽織を着ていたが、その下にはビジネス向けのシャツとスラックスを合わせていた、その男性が布で包むようにして、郵便物を受け取った。
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「宛先は…」
布ごと返すようにして、封筒の表を確認し、裏を若い男性が確認する。
「すぐに鑑識にまわせ」
青帝はそう言うと、もう一人いた、黒い髪、黒い目を持つ男性と共に事務所を後にしていった。
青帝が見えなくなると、コバヤシの周りに人が集まってくる。
「何だったんだ?!」
「さあ?」
コバヤシはそれしか言えない。
「芳宮さま、何があったんですか?」
白い布地にくるまれた封筒を持っている芳宮に、コバヤシの上司が尋ねる。
「見てのとおり」
芳宮が微笑む。
「脅迫状かな?」
「殺人予告かな?」
「僕あてだったら、どうしよう」
「ね」