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ハッピーエンド

悪意のある「はな」をどうぞ

作者: 佐田くじら
掲載日:2019/03/26


私は、ロベリア。

生まれは庶民で、十五歳の頃に母が男爵様に見初められて再婚。

そのとき、貴族になった。


あの頃は楽しかった。

マナーとか学園の勉強とかは大変だったけど、優しい両親がいて、友達がいて。


私に辛く当たる人もいたけど、その分見方になってくれる人もいたしね。

ああ、そうだ。あの方と会ったのもあの頃だ。

身分の高い貴族様なのに、親切にしてくださった。

馬鹿だよね。あんまり優しいから、私は勘違いしちゃったよ。


風向きが変わったのは、学園の卒業パーティーが近くなったころ。

突然、男爵様……お父様の事業が失敗したとき。


はー……びっくりだよね。

一人二人と消えていき、あの方も私から離れていった。


結局、私とは遊びだったんだね。

私はあの方に、本気だったのに。

お金をねだられるとでも思った?私は彼がいるだけで充分なのに。


でも、卒業して。縁も切れて。

手元には何もなくなった。両親さえ、孝行する前に死んだ。

苦労が祟ったのだろう。


………何も、ではないか。莫大な借金がある。

両親を恨んではない。ただただ悲しいだけ。辛いだけ。


さ……もう詰みだ。打つ手はない。



…………………自殺する他は、ね。




「こんばんは」



見知らぬ男の声。振り返ると、とても綺麗な顔の人がいた。

年は……私と同じくらいだろう。



「こんばんは」



挨拶をされたら、挨拶を返す。死んだらこんなことも出来なくなるのか。

そう思いながら、私は笑顔を作る。作ることは、もう慣れた。



「こんな夜更けに、どうされましたか?」


「……少し………散歩です」



無理があるだろうか。

ここは橋の上だし、私の顔は、ほんのさっきまで凍っていたはずだから。



「………散歩」


「ええ」



私の答えを聞いて、何故か彼は考え込む。

そして、私にとって全く予想外なことを口にした。



「一つだけ………君の願いを、叶えてあげましょう」


「何でも?」


「そう」



どうしてそんなことを言い出したのか。

ちゃんちゃらおかしな話だが……どうせ私は死ぬんだ、願ってみようか。

ほんの呪い(まじない)のようなことを。



「ーーーーーーーーーーーーー」





☆***☆



ある国に、一人の王があった。

その王は、生まれながらに孤独だった。


父は女に溺れ。

母は若くして殺され。


寂しかったのだろう、悲しかったのだろう。

王になってからも、時々妄言を吐いていた。

曰く、自分は罪人なのだと。



☆***☆



私は、気付いたら王妃になっていた。

簡単な話、私の願いには権力が不可欠だったのだ。



「あれから、五十年………どう? 願いは叶った?」


「ええ」


優しく話しかけてきたのは、私の夫。

あの日私を拾ってくれた、最愛の彼。



「とても感謝をしているわ。でも、一つだけ足りないの」


「何故? 君を捨てた公爵には君直々に手を下したし、君を苛めた令嬢も濡れ衣の罪状で既に死んだのに?」


「そう。私の嘯いたとおりの結末。しかし、まだ不充分」



そう言って私は花を取り出す。

病に臥せる彼に向けて。



「スノードロップ?」


「そうよ。いままでのお礼を込めて」


「花言葉は……『慰め』……『希望』……それから……」


「『あなたの死を望む』」



にっこりと笑って言葉を告げる。

何十年も貯めた怨嗟も滲ませて。



「………気付いてたんだね」



長い沈黙の後に彼から出た言葉は、非難でも凌駕でもなかった。

ただ、静かに言葉の意味を汲んだだけ。

それが少し癪に障る。



「ええ。あなたが私の家の没落を手引きしたことも、全て知って私を拾ったこともね」


「それで、胸のうちに溜め込んでたの?」


「……まあね。何のためにしたのか、教えてくれない?」


「僕を軽蔑しない?」


「今更でしょう」


「そうか………僕ね、悔しくて、妬ましかったんだ。幸せだった頃の君は、僕の対極にいたから」


「………」


「それで、ずうっと君を見ていたんだ。政務の傍ら、こっそりと」


「………気持ちの悪い………」


「はは……でね、気付いたら、惚れてたよ」


「……そんな」


「だから、君の頼りを全て断った。

 憎悪が愛に為り得るのは、身に染みて知ってるから」


「………馬鹿じゃ、ないの……」


「でも、当たったでしょ? やっぱり君は、僕と同類だった」


「そんなこと、ない……ッ! 私はこうして、あなたを殺しに……」


「うん。僕が死にそうだから殺そうなんて、何て君らしい考えなんだろうね。でも、駄目だよ。子供たちだって悲しむしね……」



そう。

あの日からは、時間が経ちすぎた。

だから、こんなにも気持ちが変わったんだ。



「約束が、違うじゃない!」


「………ロベリア。君は、自分が何て願ったか、覚えている?」



























「『私を不幸にした者を殺したい』」


「そう。僕は、君を不幸にはしてないよ? 全部、幸せにするためのプロセスだものね」



いけしゃあしゃあと言って退けた彼に、私は、怒りとそして…………言い様のない多幸感がした。


それでやっと私は、自分が彼に麻薬へのような狂った依存や……愛を感じていたことに気付いた。



「まるで、詐欺師のようね」


「至言だね。最も、僕も君に同じことを思うけど……」



そうして笑い合って言葉が交わしたあと、今度はらしくなく、弱々しげに彼は私を見つめた。



「後を追ったりしないでよ」


「………当たり前だわ。あの時とは違うんだから」



そう答えると、安心したように微笑んで、彼は目を閉じた。



ちなみに。

ロベリアの花言葉には『悪意』というのがあるそうです。



……はい。題名に引っ掛けたシャレでした。

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