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苦手な方はご注意ください。

ハッピーエンド

悪意のある「はな」をどうぞ

作者: 佐田くじら


私は、ロベリア。

生まれは庶民で、十五歳の頃に母が男爵様に見初められて再婚。

そのとき、貴族になった。


あの頃は楽しかった。

マナーとか学園の勉強とかは大変だったけど、優しい両親がいて、友達がいて。


私に辛く当たる人もいたけど、その分見方になってくれる人もいたしね。

ああ、そうだ。あの方と会ったのもあの頃だ。

身分の高い貴族様なのに、親切にしてくださった。

馬鹿だよね。あんまり優しいから、私は勘違いしちゃったよ。


風向きが変わったのは、学園の卒業パーティーが近くなったころ。

突然、男爵様……お父様の事業が失敗したとき。


はー……びっくりだよね。

一人二人と消えていき、あの方も私から離れていった。


結局、私とは遊びだったんだね。

私はあの方に、本気だったのに。

お金をねだられるとでも思った?私は彼がいるだけで充分なのに。


でも、卒業して。縁も切れて。

手元には何もなくなった。両親さえ、孝行する前に死んだ。

苦労が祟ったのだろう。


………何も、ではないか。莫大な借金がある。

両親を恨んではない。ただただ悲しいだけ。辛いだけ。


さ……もう詰みだ。打つ手はない。



…………………自殺する他は、ね。




「こんばんは」



見知らぬ男の声。振り返ると、とても綺麗な顔の人がいた。

年は……私と同じくらいだろう。



「こんばんは」



挨拶をされたら、挨拶を返す。死んだらこんなことも出来なくなるのか。

そう思いながら、私は笑顔を作る。作ることは、もう慣れた。



「こんな夜更けに、どうされましたか?」


「……少し………散歩です」



無理があるだろうか。

ここは橋の上だし、私の顔は、ほんのさっきまで凍っていたはずだから。



「………散歩」


「ええ」



私の答えを聞いて、何故か彼は考え込む。

そして、私にとって全く予想外なことを口にした。



「一つだけ………君の願いを、叶えてあげましょう」


「何でも?」


「そう」



どうしてそんなことを言い出したのか。

ちゃんちゃらおかしな話だが……どうせ私は死ぬんだ、願ってみようか。

ほんの呪い(まじない)のようなことを。



「ーーーーーーーーーーーーー」





☆***☆



ある国に、一人の王があった。

その王は、生まれながらに孤独だった。


父は女に溺れ。

母は若くして殺され。


寂しかったのだろう、悲しかったのだろう。

王になってからも、時々妄言を吐いていた。

曰く、自分は罪人なのだと。



☆***☆



私は、気付いたら王妃になっていた。

簡単な話、私の願いには権力が不可欠だったのだ。



「あれから、五十年………どう? 願いは叶った?」


「ええ」


優しく話しかけてきたのは、私の夫。

あの日私を拾ってくれた、最愛の彼。



「とても感謝をしているわ。でも、一つだけ足りないの」


「何故? 君を捨てた公爵には君直々に手を下したし、君を苛めた令嬢も濡れ衣の罪状で既に死んだのに?」


「そう。私の嘯いたとおりの結末。しかし、まだ不充分」



そう言って私は花を取り出す。

病に臥せる彼に向けて。



「スノードロップ?」


「そうよ。いままでのお礼を込めて」


「花言葉は……『慰め』……『希望』……それから……」


「『あなたの死を望む』」



にっこりと笑って言葉を告げる。

何十年も貯めた怨嗟も滲ませて。



「………気付いてたんだね」



長い沈黙の後に彼から出た言葉は、非難でも凌駕でもなかった。

ただ、静かに言葉の意味を汲んだだけ。

それが少し癪に障る。



「ええ。あなたが私の家の没落を手引きしたことも、全て知って私を拾ったこともね」


「それで、胸のうちに溜め込んでたの?」


「……まあね。何のためにしたのか、教えてくれない?」


「僕を軽蔑しない?」


「今更でしょう」


「そうか………僕ね、悔しくて、妬ましかったんだ。幸せだった頃の君は、僕の対極にいたから」


「………」


「それで、ずうっと君を見ていたんだ。政務の傍ら、こっそりと」


「………気持ちの悪い………」


「はは……でね、気付いたら、惚れてたよ」


「……そんな」


「だから、君の頼りを全て断った。

 憎悪が愛に為り得るのは、身に染みて知ってるから」


「………馬鹿じゃ、ないの……」


「でも、当たったでしょ? やっぱり君は、僕と同類だった」


「そんなこと、ない……ッ! 私はこうして、あなたを殺しに……」


「うん。僕が死にそうだから殺そうなんて、何て君らしい考えなんだろうね。でも、駄目だよ。子供たちだって悲しむしね……」



そう。

あの日からは、時間が経ちすぎた。

だから、こんなにも気持ちが変わったんだ。



「約束が、違うじゃない!」


「………ロベリア。君は、自分が何て願ったか、覚えている?」



























「『私を不幸にした者を殺したい』」


「そう。僕は、君を不幸にはしてないよ? 全部、幸せにするためのプロセスだものね」



いけしゃあしゃあと言って退けた彼に、私は、怒りとそして…………言い様のない多幸感がした。


それでやっと私は、自分が彼に麻薬へのような狂った依存や……愛を感じていたことに気付いた。



「まるで、詐欺師のようね」


「至言だね。最も、僕も君に同じことを思うけど……」



そうして笑い合って言葉が交わしたあと、今度はらしくなく、弱々しげに彼は私を見つめた。



「後を追ったりしないでよ」


「………当たり前だわ。あの時とは違うんだから」



そう答えると、安心したように微笑んで、彼は目を閉じた。



ちなみに。

ロベリアの花言葉には『悪意』というのがあるそうです。



……はい。題名に引っ掛けたシャレでした。

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