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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第2章【その最強は世界を求める】
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94.【戦いに臨む戦士たち】

戦斧を振り下ろす兵士。その背後に隠れるようにしてレイピア使いが潜み、斧で押さえつけられたイラに見ることがやっとの攻撃を仕掛ける。

「おもったんだが、お前結構雑だよな。」

ーーーかっこいい武器はとりあえず入れといたよ。銃はさすがにないけど。

中性的な声に呆れ、同時に恐る。この存在は、どんな文明の武器さえも知っている。そこまでの得体のしれない力を、計り知れない能力を、覚えきれない異能を持っている。

そして、簡単に握り潰されたレイピア、それを持っていた兵に業火の槍が迫る。どこから出したのかも分からない灼熱の炎槍を、一つの刃が斬り伏せた。鮮やかな剣尖からなる斬撃の嵐が、イラを押さえる兵士の命を救った。

「助かった、ダリア!」

「いいえっ!」

例をいって戦線を離脱するレイピア使い。それを助けるように剣を感覚になぞらせる。研ぎ澄まされた感覚が、視界に線を引く。それをなぞるだけで、黄金の剣撃がイラに叩き込まれる。勿論、それをしっかりと綺麗になぞる技術も、線によって指定された連撃をこなす体力も必要だが、その能力は戦闘を助けているといえよう。

「あれはお前がやっているのか?」

ーーー彼の魔法だよ。視界に出てくる線に合わせて斬るだけで、最善の斬撃が放てる。

「そうか。」

依然、ダリアの最高の剣撃を受けても、無手のイラは全く効いている様子がない。ダリアや普通の兵には見えていないかもしれないが、ダリアから放たれる全ての斬撃は、イラの速すぎる手刀に撃ち落とされている。

「!?」

イラがまっすぐ上に手を挙げる。掌を上に向け、それを見るダリアが目を疑う。何もしていないにも関わらず、イラを斬り倒す最善の剣筋が見えない。そう、まるで、自分の魔力が逃げろといっているように。

そして、それを裏付けるように。

「な、んで」

イラの掲げた腕に、半透明の禍々しい腕が重なった。激しく点滅するそれが、さらにダリアの警戒心を揺さぶった。

「みんな、退け!」

背筋を走る悪寒に耐え兼ね、孕む不安を戦場に轟かせる。告げる声に従う者、無視する者、怪訝な顔をして迷う者、自我を失い効いていない者、様々な表情が入り乱れる。ダリアが退けば、後方から攻撃をすることができる魔導隊が魔法を放つ。それに続いて、ダリアの忠告を無視した者達が駆ける。

「良い闘志だ。」

半透明の、まるで悪魔のような拳が、点滅をさらに激しくさせた。まるで、もう限界だと、そういっているように。

視界に映る光の限界と、耳朶を叩き、反響する轟音、その中に、少し悲鳴も混じっていただろうか?

「だが、未熟。」

そんな大罪囚の声は、しっかりと聞こえていた。

「うあぁぁぁぁぁ!!」

気付いた時、イラに立ち向かっていった者たちは、視認できないほど明るく輝いていた。この世のものとは思えないような炎に包まれ、死に切れない中、自分を包む鎧の耐熱性と、自分の体を回復させる魔力と、自身の頑丈さと、それ全てを呪いながら、死ねない事を嘆くように絶叫する。

木霊する激痛の叫び声は、戦場に戦ぐ戦士たちの闘志を確実に刈り取り、挫折させた。

炎は、消える様子がない。絶叫は、途切れる気配がない。絶望は、覆る気がしない。

死なない程度に弱い火で、消えない程度に強い火で、どうやったのかは知らないが、そんな地獄の炎舞を、この現世に作り出してしまった。

英雄に、なりたい。そんな気持ちは、これくらいで途切れるものだったのか?違うだろう。目の前の光景が、次は一人称から見ることになるかもしれないだけだ。死にたいと嘆きながら永遠とも言える炎に包まれる位、恐るはずがない。

これぐらい大きな相手で、これぐらい絶望的な状況から勝ち残ったほうが、英雄見たいだろう?

「まだ、まだだ!」

世界全てに轟くように、全ての戦士に届くように、武器を持ち、闘志に全てを燃やすこの戦場に輝くように、英雄願望を乗せた咆哮が巻き起こる。

それに反応するように、所々で鉄の擦れる音がする。立ち上がるこの戦場に居た全員が、いずれ英雄と呼ばれるように、ここで戦う。ここで勝利する。そうすれば、自分は英雄だ。

全ての激情という薪を、心という暖炉に焼べる。それによって捲き上る炎という闘志。暖炉が壊れても良い。

この戦いに勝つ。

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