93.【英雄とは】
琴吹さんが井上に振られてふて寝してました。許してください。
今日はもう一本投稿します。すいません。
ダリアの握る剣の刀身。そこには、これまで斬ってきた敵の血と、英雄になるための決意がのせられている。込められた感情と裏腹に、それを握る手は震えている。武者震いだと言い聞かせ、虚勢を張っても、膝が笑って体がうまく動かない。四肢が自分のものじゃ無くなってしまったような、そんな感覚が。が、この戦場にいれば四肢がなくなるのなんて一瞬だろうが。
「ダリア・エリセン、か?」
背後から、聞いたことのない声がダリアを呼んだ。一雑兵であるダリアのことを知るものなど、同じ部隊の者達ぐらい。見ず知らずの人間に知られるほど手柄は立てていない。
「どうして・・・僕の名前を・・・」
「・・・それを見たからな。戦場で拾った物じゃなくてよかったよ。」
そういって、エリアス・ファードラゴンはダリアの剣の柄を指差した。剣を作った時にひっそりと刻んでほしいと頼んだ自分の名前。異世界文字で書いてあるダリア・エリセンの文字。小さく目立たないくらいに彫ってある文字を見て、エリアスは声をかけた。
「僕に何か?」
他の衛兵や騎士、冒険者たちが応戦して抑えている、というか手加減されているというか、そんな状況で、その英雄はなんの用なのか、と。
「嫌、何。そんなに堅苦しい質問じゃないからさ。」
緑の英雄エリアスはそう言って微笑み、意図を伝えようと手を振った。戦闘中に悠長に話している暇はない。けれど、あの化け物と戦うよりはマシだ、と。ダリアはエリアスの会話へと逃げ込んだ。巻き起こるマナと剣の音を聞かないようにして、エリアスの声に耳を傾ける。
「君が尊敬する英雄は、誰だい?」
普通、戦争とも取れるこの戦いの中でこんな質問をされたら、呆けてなんの話をしているのかと首を傾けるのだろうが、その言葉は、すんなりと出てきた。
「グレン。」
戦闘から逃げたかったとか、そんな感情もあっただろう。だけれど、それだけは伝えないといけないような気がした。
「そうか。もういいよ、ありがとね。」
エリアスはそういって、ダリアの名の刻印に触れた。輝く刻印を見て、ダリアが小さく声を漏らした。輝きの美しさもあったが、なにも魔力の気配を感じなかったからだ。
「それは・・・」
「まじないみたいなものだ。君が、英雄になれるように。それじゃあ。」
そんな風にキザに笑って英雄は去っていく。気付けば、震えは無くなっていた。立ち向かえるような気がして、戦えるような気がして、ダリア・エリセンはゆっくりと歩みだした。
ーーーーー
ーーー君は見ていてもつまらない。ミカミの方を見習ったらどうだい?
「俺ほど面白い生き方をしている奴はいないさ。」
ーーー君は死を覆せないだろう?
「そいつは覆したのか?」
ーーーもちろん。それに、聞いただろう?グレンは英雄として認められてたんだよ。
「死を覆した奴が英雄だって、そう言いたいのか?」
ーーー可能性ってことさ。あの子は英雄になれるかもしれない。
「そうかよ。」
ーーーにしても君は性格が悪い。呪いだなんて。
「お前が言ったんだろ、あいつは墜ちるって。」
ーーーまぁね。僕の不手際で能力をあげられなかったんだ、鬼畜から理不尽くらいまで、この世界の難易度を落としてあげたいんだ。
「なんでそんなにミカミに固執する。やっぱり、あいつの息子だからか?」
ーーーどうだろうね。