90.【招待客の苦戦】
気付いたらブックマーク8件と評価6ポイントが付いて、5000PVを突破していました。いつもありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
「精霊王様、僕に加護を。」
刹那、放たれた魔力の輝きに、視界が潰された。感じる。目の前に、今、人間の領域ではない魔力が佇んで居ると、告げている。内臓がその威圧に萎縮し、輝きの根源であるカガミから逃げ出してしまいたいと大きく叫ぶ。防衛本能と自我が葛藤し、それによって震える体におぞましさの冷や汗が伝った。
そして、勝ち残った自我は、それを捉えた。眼前で暴れる魔力と己の間に、隔絶した何かがあるのを。人間には到底関することのできない魔力に、人間には到底感することのできない精霊王の力がせめぎ合っていた。
小さく、厚く作られた魔力結界は、もう膜とも言えない立体を何重にも重ねて、カガミの最大火力と魔を削り合っていた。
「アッキー。」
左手で結界へと指示を出し、アミリスタが右手を差し出してきた。直面しているのは死の危機のはずなのに、少女は花畑で蝶と戯れる子供のように喜びを隠さない。アミリスタの表情と背景のギャップに苦笑しつつ、小さな手をゆっくり取った。
アミリスタから、魔力が吹き荒れる。内に送られてくる大質量の魔力が行き場を無くし、アミリスタからオーラとして吹き出した。そして、その魔力さえも利用して、削れる結界にさらに魔力を継ぎ足していく。
アミリスタ製の最高結界。この世界で3本指に入るほどの卓越した剣技を持もつグレンでさえも、大火力の魔力斬撃を繰り出せるアワリティアでも、この興都侵略にきたどんなメンバーでさえも破れなかったアミリスタの結界を、最大強化した状態で、削り続けている。それが、カガミの打ち出せる最強の放出魔法、灰燼に帰せ。
けれども、次元の違うカガミの最大攻撃を受けて尚、その結界は耐えている。
「まさか・・・ここまで・・・」
さすがに驚いたのか、カガミがゆっくりと手を下ろし、震える声でそう呟いた。
アミリスタの結界は、カガミの魔力ライフルを全て防ぎきったのだった。
「大丈夫か?アミリスタ。」
「うん。聖約の力があるから、大丈夫。」
力強くアミリスタが微笑む。聖約を交わしてまでこの戦闘に賭けたということは、この少女もきっと、確信したんだろう。
アミリスタは、確信したのだろう。
「あっちも、僕たちも、攻撃が通らないのはおんなじ。だけど、攻撃力はあっちが上。」
アミリスタの覚悟があろうとも、この不利戦況は変わらない。アキトになにか隠された能力や、生まれ持った才能があれば良かったが、持っているのは弱者ゆえの狡猾な思考と、雀の涙ほどの運。
「だから、助かった。」
「どういうこと?」
器用に結界を変化させて完全防御結界を作りながら、アミリスタがアキトに疑問を投げた。
即ち、なにが助かったのか?、と。
「俺の雀の涙ほどの運が、幸運を運んできてくれた。」
アキトが目だけで示した先、ゆっくりと目を覚ますファルナを捉えた。このアミリスタとカガミがこう着状態を維持している状況で、ファルナという戦力が、ほんのすこしでも加勢してくれるのは状況打破に使える。
カガミの魔力弾が数発飛んでくる。アミリスなの結界が現在どれくらいの強度か調べるためだろう。カガミとて、無駄な魔力は使いたくないはずだ。
「ファルナは多分まだ動かない。下手に動いたら赤髪とカガミに挟み撃ちざからな。」
「確かに・・・」
今動いたら、ファルナという敗因になりうる存在は、こちらを無視してでも倒しておきたい。というより、戦っておきたいというものだろう。戦闘狂の考えに苦笑しつつ、アミリスタに結界の強度を指示する。カガミは数発放った攻撃の威力をそれぞれ変え、結界の音で強度を図っている。だから、強い威力には普通の結界、弱い威力には弱い結界、というふうに音を全て同じにしている。
「ファルナが使えるなにか強力な魔法はないか?」
そうアキトが問うと、アミリスタはゆっくりと思考し始める。ファルナといえど、この状況打破をできる魔法は保有していないかもしれない。と、思ったところで、
「1日1回だけしか使えない必殺!みたいなのなら、僕も見たことがあるよ。」
「なんだ?」
「テレポート。招かれし所にしか行けないけど、周りも一緒に転移できる。」
招かれし所へとテレポートできる魔法。さしずめ空間転移とかそのようなものだろう。なにをどうしても風属性とはかけ離れているため、ファルナ特有の、なにか違う力なのだろう。
「でも、招かれし所っつったって、俺はどこにも・・・。」
アキトが招かれている所に転移する、という文字通りの力なら、この世界出身ではないアキトに招かれている場所などないため、使えない。招かれる。
圧倒的風属性魔法適正があるファルナは、風にいつでも招かれている。風のない場所には転移できないが、風のある場所ならば、彼らはいつでもファルナを迎え入れる。
「アッキー、待って・・・。」
アミリスタがアキトを制止させる。何かを思いついた様子の少女に首をかしげる。
「招かれてるじゃん。アッキーは!」
疑問符が頭を埋め尽くす。自分がどこかに招かれている?そんなはずがない。と、そこまで思考したところで、思い出した。
あの時間から今まで、過ごしてきた時間の密度が高すぎて忘れていた。
「魔石の街のアンナとカンナに!」