89.【精霊王の気まぐれ?】
もう一本投稿します。
少女は、結界という力を授かった。
少年は、月という肩書きを押し付けられた。
少女は大きな力を持った。その力で強大な敵を倒した。
少年はなんの力ももらえなかった。けれど、失意と鈍痛の中で、最弱の弱すぎる力で強大な敵を倒した。
いま、眼前で立ち上がった敵は、これまでの敵とは比べ物にならない。業火に呑まれ、爆炎に蹂躙され、雷撃に撃ち抜かれても、土の加護にひれ伏し、緑の王に叩き潰されても、それを解析し続ける。そしていずれ、この世界は奴の手に墜ちる。
シュミレーションができるとしたら、いや、むしろシュミレートはされていた。影の世界というシュミレーションシステムで、この男が世界征服という馬鹿らしいことができることを、証明していた。
背後で炎の熱を感じた。ラグナを倒した時に燃え盛っていた炎の乱舞が勢いを増し、周囲の建物を巻き込み始めたのだろう。このままにしておけば、大火災になる。全く『火』に縁のある土地だな、と思いつつ、流す魔力をより強固に。
現れたる金の宝剣は、この絶望的戦況を照らすように光り輝き、振り抜けば希望を振りまけそうな代物だ。
「リンク・フィールド・バトライズ!」
天高く掲げた拳。それは、結界という力で必死に抗おうとする少女の、命の咆哮だった。聖約の力がみなぎり、精霊王から魔力が送られてくる。
聖約。ある聖なる誓いをすることで、その誓いの力に応じたものを授かれる。その代償に、それ以外の行動に、とんでもない重しが付きまとう。生半可な覚悟、簡単な思考、安すぎる感情では結ぶことのできない、精霊王に繋いでもらった聖なる約束。
「僕の聖約。」
ーーーアキトと一緒に居る時だけ、永遠の魔力を授かれる。
アミリスタが注げる全ての力を総動員して、やっとのことで繋いだ契り。その聖約の内容は、アキトとともに居る時のみ、精霊王から魔力を受け取り続けられるというもの。そして、その代償とは、アキトがそばにいなければ、魔力行使をすることができないというもの。
勿論、この聖約は均衡が保たれていない。受け取れる恩恵と代償が、あまりにも不釣り合いだ。永遠の魔力とは、特定対象が近くにいない時に魔力行使不可能などという低いコストでは結べない。
精霊王が、認めたのだ。なんの因果か、アキトとアミリスタの事を見ていた精霊王は、彼らに身内のような感情を抱いたのだろうか?全てを平等に見通して居る精霊王のその聖約をアミリスタが発動する。
掲げた拳か唸り、咆哮する大地から轟音と噴煙が巻き上がる。
「くっくっくっ。聖約か・・・」
カガミがそれを大きく避け、解析する魔法陣が大きく輝いた。
「灰燼に帰せ。」
カガミがゆっくりと手を突き出し、詠唱した。いつの間にか、その手には魔導具『影砲』が装着されており、今にも暴発しそうな魔力を必死に回し、暴走魔力をさらに増やして居る。
灰燼に帰せ。それは、カガミの影砲が制御でかる最大火力の魔力を暴走させ、一点集中砲火する。最新のレーザー兵器のような、威力も射程も壊れた魔法。
「精霊王様、僕に加護を。」