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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第2章【その最強は世界を求める】
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88.【遠回しな綺麗事】

拳ひとつ。その流星の一撃は、いとも容易く打ち砕かれた。もちろん、簡単に攻撃が通るなんて思っていないし、そこまで相手が弱いとも考えていない。けれど、ミカミ・アキトの半身は、強かった。

魔力を75%で作り出しているこの弓は、アキトが行動するだけで、体にかなりの負荷をかけている。使用できる時間はそう多くない。瓦礫を次々と拾い上げ、流星を量産していく。飛来する幾多の流星を、ただ淡々と砕き続けるカガミ。それは、まるで今はお前のターンだ、と言わんばかりの行動だ。反撃の気配が全くない。

だからと言ってアキトがカガミにダメージを与えられる訳ではない。()()アキトのターン。では、その今、アキトが流星を放つ体力がなくなったこの今、どうなるだろうか。

「俺のターンだ。」

アキトはチャンスを失った。

カガミという強敵が、無抵抗でただ攻撃を弾くだけの戦闘形態に入っていたというのに、カガミに傷一つ負わせられなかった。リデアなら、アミリスタなら、ヴィネガルナなら。このチャンスをどうにかできたのだろうか。ファルナなら、ウルガなら、グレンなら、この好機を逃さなかっただろうか。エリアスや他の冒険者なら、この状況をどうにかできたのだろうか?どうにもできなかったアキトは、チャンスを失った。

アキトのターンの次は、なんだと思う?

カガミの魔法陣が空高く舞い上がる。そう、木の葉と勘違いしてしまいそうになる程小さく、無数の魔法陣が散らばっていく。カガミのターンになってしまった。

「違うよ、アッキー!」

極小の魔法陣がさらに魔法陣のように構築され直し、魔法陣から出る無数の魔力と、その魔力たちが作る魔法陣の攻撃。大小2つの攻撃が織り交ぜられている。

背後から、アミリスタの声。

「今は、あいつのターンじゃない!」

アキトのターンは終了した。カガミのターンだ。もうアキトには何もできない。この興国の勝利を願いながら魔力に蹂躙され尽くすことしかできない。

けれど、少女は叫ぶ。違う、まだ、勝てると。

ーーーああ、そうだ。

これは、別にゲームじゃない。ターン制カードゲームでも、戦略的RPGでもない。そんなあまり好きではないゲームとこの世界を同一視するのは、いささか勿体無いだろう。だってここは、そんなゲーム世界じゃない。ゲームより鬼畜で、クリアさせる気なんて無いくらい厳しくて、けれど、楽しい。

ーーーまだ勝てる。

この世界に、相手のターンに攻撃してはいけないルールなんてない、防御してはいけないなんてルールはない。

ーーーこの世界は、現実だ!

動かない。動く必要がない。カガミの魔法が放たれた。音がない、色がない、何もない。いや、一つだけ、後ろにいるか弱い少女から発せられる熱だけが、自分の手を握っている。心配しなくていい。守ってあげる、と少女の手から伝わってくる。勇気が、送られてくる。

「リンク・フィールド・モノガード」

静かな声が、やけに大きく聞こえた。

光が爆ぜる。全てがわからなくなる。訳の分からない轟音と、何も見えなくなる程の光量が、アキトの全てを焼いた。

けれど、

「守りきったよ、アッキー。」

「ああ。流石だアミリスタ。ありがとよ。」

たった1人の少女の、たった1枚の結界が、その何枚もの魔法攻撃を打ち砕いた。

アミリスタのマナは無くなっていたはずだとか、こんな戦場にわざわざどうして戻ってきたのか、分からない事だらけだけれど、きっとそのうちわかるはずだ。

だからまずは、この大きすぎる途中過程を乗り越えてしまおう。中ボスの戦闘力じゃないし、こんな序盤で倒せる相手じゃないし、なにもかもが揃っていないけれど、この世界はゲームじゃあない。燃えるストーリーなんていらない。ここからもう最終局面に入ったっていい。

ゆっくりと、確かに闘志を燃やしていく。流星の弓を魔力に変えて、体に入ってくる暖かい感触に安堵する。アミリスタの肌の暖かさも、それを大きくしている。

「アッキー、君はさ・・・ちょっと鈍感すぎるんじゃないのかい?」

「はぁ?」

「その変な頭の良さをさ、もうちょっと・・・使ってくれても・・・いいんだよ?」

若干頰を染めながら、小さくなっていく言葉を拾っていく。難聴系主人公を極めているわけでも、鈍感決め込んでいる主人公でもない。とアキトは思っている。だから、そのアミリスタの言葉に首をかしげる。

「まぁいい。あいつを倒すの、手伝ってくれるか?」

「もちろん。」

2人でゆっくりとカガミを見る。最大火力で放った一撃の後だ。すぐに他の魔法をどんどん放てるわけじゃないだろう。頭を押さえながら、カガミがゆっくりと立ち上がった。足取りは不安定なものの、立ち上る殺意には淀みがない。

ギラギラとした獣の目で、強者は獲物を狙っている。

普段なら、獲物としているアキトは格好の的だろう。大した個人戦闘力を持っていないんだから。だけど、今は違う。アミリスタとアキトのタッグが、ただの獲物を同等の敵対者にしているのだ。

そう。2人で闘えば強くなる。アミリスタの想いが強さとなる。これは、遠回しすぎる綺麗事を伝える、そんな戦い。

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