87.【流星】
ガン◯イル・オン◯イン面白かったなぁ。この話には関係ありませんよ?
たった一撃。その『赤い何か』が地面を斬りつけただけで、暴風が吹き荒れ、炎が爆裂し、地面が爛れる。鮮やかな剣の一刀を、リデアが避け、ヴィネガルナがアミリスタを退避させ、アキトは蹴り飛ばされた。ファルナ達に用はないらしい。
ヴィネガルナのとんでもない脚力に打ち飛ばされ、地面を数回バウンドして転がる。受身なんてした事も習った事もない。
「あれ?柔道で習ったっけ?」
実際アキトは柔道の授業は全部パスしていた為習っていない。習っていたとしてもできていなかっただろうが。が、残念ながら、アキトだけが狙われない安全地帯へと飛ばされてしまった。それは、ヴィネガルナからの命令なのだろうか?大罪を倒した実力を見せてみろと言う、少女からの挑戦状だったのだろうか?
いや、違う。その竜伐はそこまで自信を無くしてはいない。そして、アキトを信用していない。つまり、1番厄介なカガミに狙われているんだから、そのカガミを引きつけるぐらいしておけと、そう言う事だ。
ーーー魔力はあと剣2本分。使えるのは実質1本。
剣1本。扱い手の未熟によってイコール丸腰状態だ。アキトと同等かそれ以上の頭脳をもち、さらに最強レベルの力を持っているカガミに、今この状況で勝てるはずがない。アキトは、味方の力に頼りまくってやっと戦える。自分の命を賭してやっと勝利できるのだ。つまり、取り残されたこの状況で、指揮官能力がほんのすこしだけあるだけの最弱が、どれだけ戦える?否、戦えない。
「狙うなら今って事か・・・。」
「まぁな。」
アキトが睨む先。まるでアキトがそこにいる事を知っていたかのような場所に、怪しげに微笑むカガミがいた。薄く、暗い、美しい金髪。あちら側のアキトは随分お洒落な髪色をしているものだ。
「お前はあいつに、何が必要って言われたんだ?」
アキトが問う。アキトがアミリスタを使えば勝てるかもしれないと言われたように、影の世界のアキトにも、何かのお告げは聞こえているはずだ。
「残念ながら、俺はそんなの必要ない。こちらからお断りした。まぁ、夢は見させられたがな。」
手をヒラヒラと振って答えるカガミ。カガミほどの力を有していれば、何かの力に縋らなくとも勝てるのだろうか。確かに、自分があの声だった時、頭脳も戦闘力もある男になんのアドバイスをするだろう。何もない。あるとすれば。
「俺の夢を見させられたか?」
「お前も見せられたか。」
アキトは、カーミフス大樹林で、その気味の悪い夢を見た。自分が、黒い髪の、全く自分と同じ人間が、炎の蹂躙劇を繰り広げていた。自分が、人々を殺しつくしていた。実際、それはカガミで、カガミの危険性を示していたのだろう。
カガミは、アキトの夢を見た。最弱で、なんの力も持っていないはずのアキトが、殺意のままに向かってくる夢を、見ていた。力のないはずの自分が、自分を殺すために走る夢を。
「お前は、炎の魔法を持っているか?」
「そんな魔法は解析していない。」
では、あの夢はなんなのだ?この興都の事を予言していたのではないのか?この興都戦での危険を示唆していたのではないのか?
「お前は解析魔法を使えるか?」
「使えない。」
カガミから問われる。そんな魔法を使えるはずがない。夢で見た2人の姿。それは、この決戦での姿と大幅に違う。どう言う事だ?
あの夢は、この闘いで勝つために、この闘いを白熱させるために見せられたものではないのか?違うとしたら、それは。
「わかったみたいだな。」
カガミがアキトに声を投げる。理解すれば速い。素早く剣を生み出し、見様見真似の構えをとる。もしそうならば、カガミはアキトを殺さないといけない。アキトはカガミを殺さなくてはならない。そうしなければ、あの夢が本当になってしまう。
本能のままに、駆ける。
あの夢の中でも、先ほどの爆音と振動でも、この男は範囲攻撃を持っていることは分かった。近くにいて利点など無い。でもって、逃げているアキトの背中に、
「流石だ。」
凝縮したスナイパーライフルのような魔力弾を撃ってくる。
魔力光が糸を引いているため、弾道が読みやすい。一瞬だけ盾を顕現させて弾き、逸らす。ようやく言葉が交わせないくらいまで離れることができた。距離を詰められることはないはずだ。
「形態変化。」
イメージ補完だけで魔力操作ができるほど適正が高くないアキトは、小さく呟くことでしか魔法を発動できない。
しなる魔力棒と、繊細な魔力の糸を作る。といっても、アキトが作れるのはまりょくを実体化させるもののみ。それは糸というより細い棒といったほうがいいだろうか。
黄金の紋様が煌めき、炎のように瞳に写る弓。アキトが遠距離から攻撃できる。唯一の手段。
魔力を使っているため、重さもそこまでない。拾い上げた瓦礫を糸に触れさせ、その瓦礫ごと射出のトリガーを引く。引きしぼる音がやがて途切れ、
「っ!!」
金の魔力を輝きながら放つ、最高峰の豪弓が放たれた。
全てを切り裂きながら進むそれは、ただの瓦礫とは思えない。言うならば、宇宙ゴミから作られるのにも関わらず美しく光る流星といったところだろうか?
純魔力の結晶に当てられた瓦礫は、その質量を大きく増し、ゆうに限界速度まで到達した。放ったアキトでさえも見えないほどの流星を、カガミは。