86.【激戦の間に】
「とんでもねぇ威力だな・・・」
皇城を真上から貫いた不可視の一撃。認識することもできず、耐えることもできない。それが、それくらい規格外な生物が、大罪悪魔というものだ。
「穴を空ける能力とかか?それじゃあ強すぎるぞ・・・」
エリアス。全てを貫く不可視杭の範囲から一足先に逃げ、操っていた植物で興都中の人間たちを植物シェルターへと避難させていたのだ。
世界中に現存する植物を操る剣。古代から受け継がれた魔剣の類で、この規模の魔力行使を可能にする化け物のような武器だ。だが、そのおかげで興都住民たちは大方避難させられた。
「あとは任せるか、あいつに。」
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「待たせたなアミリスタ。」
「大丈夫。皇城に避難所が出来てたからシャリキアちゃんを送ってきたわ。」
「ありがとよ、あのままシャリキアとラグナを置いた状態だったら、アリタルカが気まずさで胃に穴を開けてたかもしれないからな。」
よくよく考えたら治癒魔法使えるからいいんじゃね?とも思ったが、そっとその思考をしまった。
だいぶ酷な事を言わなければならないから、その現実逃避だったのだろうか。アキトが息をゆっくり吐いてアミリスタに向き直る。
「魔力が全くない状態で辛いかもなんだけど・・・」
「いいよ。僕がいれば、役に立つんでしょ?」
唖然とするアキトを見て、アミリスタが首をかしげる。てっきり表情を曇らせるものだと思っていたのに、ヘタレのアキトより先に戦線復帰を希望した。
失ってしまった、死なせてしまった仲間の事を嘆くことができるだけの1人の少女じゃない。この状況で戦おうとすることができるくらいの勇敢さを持っている。それが、竜伐のアミリスタなのだと。
「そらぁ、助かる。」
「次はどこに?」
アミリスタが問う。
アキト独戦力で打破したラグナ。結界の娘、と称されたアミリスタが活躍する戦いが、この先にまだあるはずだ。きっとまだ、この興都戦線がどかんと変わるような戦闘があるはずだ。アキトが何もしなければ、その戦闘で負けて終わるだけ。けれど、示された通りならば、打破できるかもしれない。
なら、その勝てる状況を作るために、何ができる?。
「次は、そうだな。」
ーーーーー
決戦の始まったその場所に、今あるのはファルナとウルガの倒れる姿だけ。
カガミとイラの姿はない。まるで治療してくださっても構いません、とでも言っているような戦力ゼロの状況で、彼らは本当に構わないと思っているのだろう。ファルナを倒している時間より、ミカミを生かしている時間の方が恐ろしい。実際問題ファルナたちの奮闘という名の時間稼ぎモドキで、アキトはなんとかラグナを倒した。
つまり、カガミはすぐにアキトを殺しに進んでいる。
と、いうところまでは予想できなくても、アキトには分かっている。相手にそこまで強くない駒がいて、その駒を最強にまでグレードアップできる頭脳がいたらそいつが1番怖い事を、アキトは分かっている。
ーーーだから、俺は俺を狙う。
カガミがミカミの半身。思考は同じ。カガミがゆっくりと興都を侵攻している間に、ミカミに裏をかかれ簡単に死ぬ事だってあり得る。
カガミがファルナを倒し、アケディアが皇城の興国兵を一掃し、イラがヴィネガルナを倒したとしても、カガミは討たれ、アケディアは死に、イラが堕ちることだってあり得るのだから。
「って事で、ラグナを倒してきた。」
合流したリデアとヴィネガルナに功績を伝える。
「すごいじゃない!」
「・・・・・・。」
何かを探るような眼差しで睨まれたものの、ヴィネガルナが何かをする様子はない。そしてリデアの賞賛が身にしみる。久しぶりの自分への肯定に歓喜している暇はない。
「ラグナの担当はアミリスタとリデアだったらしい。だから、ヴィネガルナはまだ誰かに狙われてる。」
「私が?」
「ああ。侵入してきた奴らの容姿は覚えてるか?」
アキトがヴィネガルナに尋ねると、少女は思い出すように話し出す。
「金髪の男、ちょうどお前くらいの奴が1人、」
アキトを指差すヴィネガルナ。恐らく、というか十中八九それがカガミだろう。アキトとあまり会っていないヴィネガルナでも分かるぐらいだ。
「あとは多分青い髪の奴、背は低かった。」
アケディア。
「あと、白い髪の2人。白って言っても色が少し違った。」
「男の方がラグナだ。倒した。女の子の方は味方だ。」
「それと、赤い髪の。」
イラ。憤怒の大罪囚。
「そういえば、ファーさんが皇城に青い髪の女の子が来たって言ってたよ?」
会話する2人にアミリスタが言う。シャリキアを送り届けた時にエリアスに聞いたのだろう。アケディアはエリアスを殺したと思い、皇城を離れて遊撃に移っている。エリアスが避難所を作り兵士たちを治療しているなんて知らない。
「なら、その赤髪がお前担当だろうな。」
「一体誰なんだ?」
ヴィネガルナがアキトに問う。聞かれたところでアキトが知っているのはカガミの事くらいのため、知っているはずがない。
首を横に振ってみれば大きなため息で返される。理不尽さを噛み締めながらアキトが倒れている2人を指差す。
「こいつらは大丈夫なのか?」
「お前は侵攻中だからと言って身分の違いを履き違えるなよ?」
「細かいんだよ、早く教えろ」
くぬぬ、と唸るヴィネガルナ。けれど、ここで性根が曲がりくねって硬く結ばれているアキトを更生などできるはずもない。
「お二人とも無事だ。応急処置をした。」
「そうか、なら」
立ち上がる。さした影は暗い。けれど、明るい。
「俺の番だな?」
バーサークの輝きと、憤怒の大罪が、殺意を燃やして落ちてくる。対憤怒戦は、竜伐全員とアキトの戦力で始まる。
ミカミ・アキトの作戦が、最初から崩壊して来た。
けれど、そこから作り上げなければならない。勝利への盤上を。
リ◯ロ映画が待ちきれないけど夏休み終わってほしくない今日この頃。新刊いつですかね。