81.【淡い期待は反撃の始まり】
風邪をひきました。辛い。
「助けてもらう?ふざけるな。」
あくまで表情に嘲笑を貼り付けて、心のうちに隠してある悪感情を隠している。
「お前がどうしてこんなことをするのか知らないが、死にたくないなら武器を取れ。」
「・・・」
「でなければ殺す。」
溢れるオーラ。まぎれもない殺意を瞳に宿し、アキトを殺すための刃を顕現させる。けれど、ここでラグナがここまで動揺するということは、遠回しにアキトの作戦が成功するということを示している。そう、成功できるはずだ。アキトの立ち回り次第で。
できないかもしれなかった作戦が出来る作戦へと成り上がり、アキトの立ち回りで難易度が激しく上下する。
「すぅーーーー」
息を大きく吐く。刹那、鉄塊が絡まり合い、死の音が何重にも連鎖して訪れた。数々の刃をその先に携え、アキトを貫かんと迫った鎖たち。けれど、
「ウルガ。」
アキトがその名を口にした瞬間、眼前に迫っていたパーニッシュが静止した。それは、アキトの言葉に反応したもの。そう、あの決別をもたらした本人、ウルガの名。
静止していた鎖たちが力を失い、カラカラと地面へ力なく落ちていく。まるで、ラグナの精神のように。
「てめえとファルナが敵同士になった原因のウルガはよ、1番の敵っていう立場から、1番の護衛っていう立場に上り詰めたんだよ。」
「黙れ、結局、お前は何が言いたいんだ・・・!?」
拳を握る力が強くなっていた。ラグナの手から血が溢れる。滴り落ちる紅。
何が言いたいと問われる。何が言いたいか、決まっている。
「ああ、決まってる。俺が言いたいのは」
何度も、そう願い続けた。その言葉だけを望み続けた。嘘があり、無意識の哀れみがあり、アキトがここで動かないといけない事。
「助けて欲しいって、そう言えばいい!」
「っ!」
ぐったりと地面にひれ伏していた鎖たちが、徐々に勢いを取り戻す。カタカタと震えだした鎖の動きが、やがて震えから軌道に変わり、さらに続く動きで完全な力を取り戻した。
「通じねぇか、ラグナ、一対一だ、シャリキアに手出しさせるなよ。」
「勘違いするな、これは戦いではない、ただの蹂躙だ!」
叫ぶラグナに呼応して、風切り裂く鎖の雨がアキトに降り注ぐ。雨といっても先端にたくさんの殺傷武器が付いているが。
貴鉱石から魔力を召喚。体から全ての細胞がなくなっていく感覚。けれど、その朦朧とした意識の中で、途切れそうになる意識にかじりつき、現在作成できる最高強度の盾を作り出す。
「がぁぁあ!」
突撃してくる幾多の死。触れれば即死、出れば即死、相手に対して自分の戦力が足りていない。
叩きつけられる刀剣たちの剣撃、それを防ぐ傍ら、視界の端にシャリキアを見つけた。心配そうな顔で、今にも飛び出してきてしまいそうなシャリキアが。
未だ続く攻撃の中、シャリキアに叫ぶ。
「アミリスタを連れて逃げろ!」
怒涛の攻撃の中ではラグナも聞こえないはずだ。アミリスタの居る建物を指差して、口の動きだけでも伝わったのか。あるいは虚空保管を使ったのか、伝わった。駆けるシャリキア、その目には、懇願がある。
分かって居る。シャリキアのために、殺さない。こいつも救ってみせる。
攻撃がやむ。そして、金の盾を魔力に変えて、戻ってきた力のかぎりに立ち上がり、生成した剣を右手に踏み込んだ。
「あ・・・」
ぐらり、と。視界が傾き意識が遠のく。どうやら、無理をしすぎたらしい。
倒れる中で剣を握る手は緩めない。伝わってくる硬い地面の感触。
倒れて動かなくなったアキトにゆっくりと歩みを進める。パーニッシュですぐに殺さなかったのは、やはり期待していたからなのだろうか。振り上げた手を振り下ろす時。
俊敏なアキトがラグナを斬った。簡単なフェイント、ここから始まる。ミカミ・アキトの反撃が。