80.【希望】
とうとう毎日投稿できませんでしたね!すいません。
本当に助けてほしいと叫んだのは、初めてだった。
母が死んで守ってくれる人が居なくなり、弱い自分を憎んだ。だからだろうか、弱って居た私に少しでも優しくしたあの男に、私はついて行ってしまった。いいように扱われ、激痛に耐えきれなくなり、磨り減った精神の中で、やっと見つけ出した希望。それは、皮肉なことに、私と同じような、この世界から嫌われている人だった。
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世界に嫌われた月。
興都を襲う。その作戦の協力要請。向かう道中に、少女は月のアキトを見つけ出した。アワリティアを倒した。ラグナはそう言った。それだけ力のあるアキトに、時間を壊してまで助けを求めたのは必然だった。
けれど、
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私はなぜ、1回記憶を消したのだろう。
カーミフス大樹林の中で、アキトさんが絶望的な状況に陥った。その時、私は彼の記憶とラグナの記憶、それぞれの一部を消した。
あの時、月のアキトさんだったなら、ラグナを倒すことぐらいできたはず。あの時の私は、そう思って居た。
ーーーなら、どうして私は記憶を消した?
アキトさんがあのまま、ラグナを倒すのを、恐れて居た?
どうして、自分にあんな仕打ちをしてきた相手に情けをかける必要がある。あのまま放っておいて死ぬんだったら都合が良かったでは無いか。私は、ラグナという哀れな人間と自分を、重ねて居たのかもしれない。
ラグナの過去を、私は知らない。けれど、その特徴的な白髪から、ウドガラドの皇族であることは分かった。1人、私が見ていないところで涙していることも知っている。
それはまるで、私のようだった。
ああ、そうか。せっかく助けを求めて、せっかく幸せになれそうだったのに、私はこんな男が哀れで、こんな男がかわいそうで、助けたかったんだ。そのまま殺して欲しかったんじゃ無い。殺さないで、この人をどうにかして、私も助けて欲しかったんだ。
なんてわがまま。
自分がしたいことを他人に押し付けて、自分の事も助けてほしいなんて、わがまま、押し付けがましい。それでも私は、ラグナという同族を助けて欲しかったんだ。
つまり、
どうやらこのアキトという人物は、どこまでも私を幸せにするつもりのようだ。
私の中で英雄のような、いや、もう想い人のような、私にそんな資格はないけれど、隣に居たくなるような。
魔力武器の媒介物であろう貴鉱石を首にかけ、反抗する意思のない少年は、そんな身勝手な私の願いを、聞き届けてくれたのだろうか?
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俺の中ではっきりとした形になった違和感。シャリキアはまるで、自分が助からなくてもいいかのような、そんな行動をしてきた。
俺をもとの時間軸に戻すにしても、それは少女の優しさだけでは成り立たないものなのではないか、と。
彼女は俺に言ったんじゃないか。遠回しに、できるだけ聞いて欲しくない、とても聞いてほしい、そんな幸せになるための、たった2つの願い事を。
すなわち、わたしたちを助けてほしい、と。
今、この違和感を使えば不利戦況を打破できる。でも、戦況が打破できなくても、この願いは聞き届けたんじゃないか、と俺は思う。だってこの少女は、幸せにならないといけない。そのための願いなんだから。
「結界の小娘はどうした?お前だけでは戦闘にならないだろう」
「単刀直入に言う。」
ラグナの言葉を遮って、かき消して、上書きするように切り出す。
ラグナを助けたいなんて、思わない。シャリキアに地獄を見せた張本人。正直死んでほしい。だけど、シャリキアが幸せになるための、大事な工程。そのために、声を張り上げる。
「俺に、戦う意思はない。」
興都陥落作戦、その実行犯たちにそんなことを言ったって、ただの馬鹿なのかと思われるだけ。けれども、できるはずだ。
あの声は言っていた。うるさいくらいに喋りかけてくるあの声は言っていた。いや、ポロリとこぼしたと、そんな感じだろうか。
まるで奴が言っていたのは、ラグナが暴走する理由が、リミッターを外すことだけではないと、そう言う風に聞こえた。
「お前は今まで、どれくらい人を殺してきた?」
「数える気がしないほどには、だが。」
力を取り込んだ時に、手に取るようにぼんやりとした記憶があった。人を殺してきた記憶。断末魔、狂声、血飛沫。
「そんなお前が、わざわざファルナという強者がいるこの興都に来る理由が分からない。」
「・・・・・・簡単だ、この都を陥すため、それ以外に何がある?」
両手を広げてラグナが宣言する。
ああそうだ、ラグナはこの興都をぶち壊すために来た。分かっている。だから、この興都でも既に住民の避難が始まっているだろう。知っている。けれど、そうじゃない。
そうじゃないだろう?お前は、希望を持っていたんじゃないか?
「もしかしたら兄に助け出してもらえるかもしれないっていう希望を!持っていたんじゃないのか?」
アキトは知っている。
力を取り込んだ。記憶を取り込んだ。そこで、無理をしてまで見た。そのラグナの過去を。